129限目 女に転生したことを後悔
桜が散り終わり長期休暇の真ん中、授業がなく部活動で登校している生徒以外は自由に過ごしている日にレイラは桜花会室でキーボードを打っていた。最後の1文字を打ち終わったところで、レイラが座っている会長席の後ろにある扉が開いた。
そこから圭吾が出て来て、それに続き大晴、真人が出てきた。
「会長、書類です」
「ありがとうございます」
圭吾はレイラに書類を渡すとすぐに下がった。
大晴と真人はレイラの前に来ると頭を下げた。
「この度は大変申し訳ありませんでした」
大晴は直角に頭を下げたまま、謝罪した。真人は何も言わずに頭を下げている。
「お2人共に頭を上げて下さい。無事、桜花会に復帰出来て良かったですね」
大晴と真人はゆっくりと頭を上げた。レイラを真剣な顔で大晴を見た。
「今この瞬間から桜花会です。仕事をして下さい。北沼先輩は横山君に仕事を教えて下さい」
「はい」
「仕事は、サーバーにアップしましたので確認して下さい」
「承知しました」
真人と大晴は頭を下げて、席に戻った。
レイラは先程完成した書類を印刷すると春を呼んだ。春は返事をするとすぐにレイラのもとへきた。
「何でしょうか?」
春は緊張しているようで声が震えていた。
(別にとって食いやしねぇよ。まだ、横山の罰を軽減しようとしてそれを承諾しなかった事を根に持っているのか? めんどくせーなぁ)
レイラがため息をつくと春はびくりとした。
「横山大晴の桜花会権利一時停止解除の書類を作成しました。これからそれを生徒会が取りに来ると思いますので渡して下さい」
「取りに来るのですか」
桜花会では現在、紙媒体の書類はほどんどないため春は驚いたようであった。
「桜花会は昨年まで書類は全て手書きの紙媒体でありましたわ。4月から電子にしましたの。それをまだ生徒会に伝えていなので取りに来るのですわ。来た時伝えて下さい」
「はい」
春は返事をすると、印刷機から出てきた書類を手に取るとその中身を確認していた。それを見てレイラは眉を寄せた。
(え、あんなに真剣に見てなんか間違えがあったか?)
「二階堂さん、何か問題がありましたか?」
レイラは心配になって声を掛けると、春はびくりとした。
「あ、いえ。すいません。内容を知りたくて……。見てはいけませんでしたか」
「いいえ。じっくりご覧になって」
レイラは書類の不備ではない事に安心すると笑顔で答えた。その笑顔を見た春は目を大きくして硬直した。
その時、部屋をノックする音がして春はすぐに向かった。
扉を開けると一瞬固まり何も言わずに扉を閉めた。
レイラは誰が来たの分からなかったが黒服が見えた。
(生徒会が来たか? ってか二階堂にあの態度はなんだ? 無言で扉締めるとかありえねぇだろ)
レイラが春の態度を注意しようとすると、スッと間に圭吾が入ったのでレイラは口を閉じた。
「二階堂さん、どうしの? 誰か来た?」
優しく声をかけながら、圭吾が春に近づいた。春は真っ赤な顔をして戸惑っていた。
「いや、あの……」
「大丈夫。落ち着いて」
「はい。あの、多分生徒会の方が来て2年の河野まゆらさんと阿倍野相馬さんだと思うのですが……」
(ちゃんと、生徒会の名前と顔を覚えているな。えらいぞって、まゆタソが来たのかぁ。あー俺が対応すれば良かった。クソ、1年の奴が来ると思ってた)
春はレイラと目が合うと、慌てて圭吾の影に隠れた。
「ちゃんと、生徒会の名前を覚えているんだね。えらいじゃん。で、なんで無言で扉を閉めたの? いくら黒服相手でも失礼じゃないかな?」
「いえ、黒服だからとか、そうじゃないです」
春は真っ赤な顔を両手で押さえて左右に振った。圭吾は扉に手をかけようとするとその手を春が抑えた。
「大丈夫です。あの、自分で、春が対応します」
そう言って、大きく深呼吸をすると制服を整えた。そして、書類を片手に扉を再度開けた。
春の言葉はぶっきらぼうであり、短く書類を渡すとすぐに扉を閉めた。その扉を閉めた手がドアの取っ手はかなれず、春は固まっていた。
「二階堂さん?」
「え、あ、はい」
圭吾に声を掛けられて、春は慌てて返事をしたが気持ちが落ち着かないようで手を仕切りに動かしていた。
「とりあえず、落ち着こう」
そう言って、圭吾は春の肩に触れようとすると「大丈夫です」と言って自分で席まで歩いて行った。その後を圭吾は困った顔をしながら追った。
「はい。飲めば」
椅子に座ると、目の前にいた大晴がペットボトルを渡して来た。春は手を出したが、取らずに動きを止めると大晴は笑いながら「毒なんか入ってないよ。未開封だ」と言った。春は一言礼を言うとそれを受け取った。
その様子を見て、圭吾は何も言わずに自席に戻り彼らの様子を見守っていた。圭吾だけではなく、その場にいる全員の注目の的となっていたが、彼らは気づいていなかった。
「で? どうしたんだ? まさか、一目惚れとか?」
「え……。なんでわかった?」
「お、まさか、本当だったのか?」
茶化す大晴を春は睨みつけた。
「でもさ、阿倍野先輩は中村先輩と付き合ってるって噂じゃん。いつも登下校いつも一緒だし」
その瞬間、春の顔が崩れた。
「阿倍野先輩? 興味ないけど」
「え、じゃ河野先輩って女だよ?」
「春は男女差別しないんだよ。河野先輩めちゃくじゃ綺麗で春のタイプだった。あの綺麗な顔でじっと見てくるからドキドキしちゃって」
それを聞いてレイラは内心穏やかではなかった。
(やっぱり、まゆタソ可愛いよな。狙うよな。あー、女に転生してラッキーと思っていた自分を殴りたい)
「あははは、おもしれー。お前、俺に惚れてたんじゃねぇの?」
「好きだよ。でも、春に興味ないって言われていいかって思った」
「軽くない? 俺、結構悩んだんだけど」
寂しそうにする大晴に春は首を傾げた。
「まぁいいけど。確かに河野先輩、綺麗だよな。入学式の壇上で輝いていたよ」
「え? いた? あー、あの時は春、横山君しか見てなかったから。残念」
落ち込む春の横で大晴はケラケラと笑っていた。その様子だけ見ると、桜花会権利一時停止事件を起こした当事者たちには見えなかった。
「でも、お前は見た目女じゃん。無理じゃん。俺アタックしてみようかな。年下だけど桜花会だし。黒服に優しい桜花会メンバーってなれば気を惹けるかな」
楽しそうに話す大晴を春は睨みつけた。
「春……、いや、僕は明日から男子制服着てくるよ」
「え? マジ?」
「別に女の子になりたいわけじゃないよ。だた、可愛い格好だと皆が優しいから着てただけだよ」
「だって、服の話で教師に逆らってたじゃん」
「僕のことは、僕が決める。言いなりにはならない」
声を大にして言う春に大晴だけではなく他のメンバーも脱力感を感じていた。だがレイラだけは焦っていた。
(マジ、マジ? もしかしてコイツら攻略対象ってやつか。二人ともイケメンだし絶対勝てないじゃん。つうか俺女だし)
レイラはため息をついて、ノートパソコンをしまった。その途端、周りはシーンと静まり返った。レイラがあたりを見回すと全員が一斉にパソコンに向かい出した。
「帰りますわ。皆さんもほどほどに」
レイラは小さな声で伝えると鞄を持って桜花会室をでた。窓の外は太陽が傾き空が赤く染まっていた。
(まゆタソに会いたいな。でも生徒会室に行くわけにいかないし、家で待つか)




