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128限目 悠長なことを言ってられない

 まゆらはふらふらと立ち上がり扉に向かうと相馬に声を掛けられたが彼が何を言ったいるのかよく理解できずそのまま桜華を出て、駅の改札まで来ると自分が携帯電話しか持っていなく鞄を忘れてきたことに気づいた。


「定期もない」


 まゆらは落胆して駅の柱に寄りかかり、電話をかけた。


『はい』


 相手はワンコールで素早く出た。


「リョウさん? 今駅にいるだけど鞄を学校に忘れてきてしまいました。でも学校に帰りたくないのです」

『……え? 鞄を取ってこいって事ですか?』

「違います。鞄は生徒会室にあるから桜花会が取りに来られたらマズいですよ。折角我慢したのに水の泡になっちゃう……」


 いつも自信満々のまゆらの弱々しい声を聞き、リョウは少し考えてため息をついた。


『隣の駅まで歩けますか? そこへ車で迎えに行きます』

「わかりました」


 まゆらは電話を切るととぼとぼと歩きだした。歩きながら、この世界をゲームとしてやっていた時の事を思い出した。


 ゲームは主人公であるまゆらが桜華学園高等部に入学する所から始まる。

 メインとなる攻略対象は阿倍野相馬。彼は大好き幼なじみ中村彩香と共に特待生として中等部に入学した。しかし、レイラは自分より頭の良い彩花が気に入らず、いじめで彩香は学園から追放され自殺してしまう。だから、高等部でまゆらと出会ったときには、レイラを恨み病んでいる。


「彩香の自殺ってのはやりすぎ設定だと思ったけど、家庭環境知ったら納得。彩香が健在だから阿倍野相馬は優しげなんだな。彩香は邪魔なんだけど彼女に何かあったら阿倍野相馬が病むから。吉本武弘のように排除できない」


 まゆらは去年、排除した桜花会の吉本武弘を思い出した。彼は、亜理紗と相馬と手を組み中村幸弘を使って、レイラの集団暴行を計画する。


「これは、中村幸宏アイツをたぶらかして中等部のうちに片付けられたから良かった」


 レイラの兄である大道寺リョウも攻略対象である。彼は、レイラを大切に思っていた。


「中1の時、図書館でリョウではなくレイラにあったんだよね。そのあたりから物語が変わってるのかな?」


 本来は、中1の時に図書館でリョウと合いそれをきっかけにまゆらは桜華にはいる。リョウが黒服と仲良くするのが気に入らずレイラはまゆらをいじめる。


「いじめがバレて学園追放。リョウは妹を守ろうとして親戚にレイラを任すがそこが悲惨とかって。もっとやり方があるだろうに」


 そして、横山大晴も攻略対象の一人。二階堂春を差別すると、レイラがそれにのる。二階堂春を精神的にボロボロにした状態からゲームスタート。まゆらと知り合いそれを改善しようとする。


「レイラはそれが気に入らないんだよね。でも、あの怒った顔が可愛いんだよね。しかし、なぜか全てレイラのせいになり学園追放になるんだよな。横山大晴もいじめ加担してくせに最後正義ぶるところが最悪」


 最後は二階堂春。春は大晴をバットエンドでクリアする事が必須、ハッピーエンドでクリアしてしまうと攻略することはできない。

 自殺寸前の春とあったまゆらは春の中にある女性と男性を認める。


「完全に見た目、百合なんだよね」


 レイラと大晴への復讐がメインとなる話。それを遂げると2人でどこかに行ってしまう。このエンドを見ると他のキャラクターの全てのエンドを見ることが出来なくなる。


 全てルートを思い出した所で、隣の駅に到着した。


 当たりを見ると、見覚えのある車を発見して近づくと、リョウの運転手である港が車から降りてきて後部座席をあけた。


 まゆらはお礼言って乗り込んだ。


「何があったんですか?」


 リョウはすぐに聞いてきたが、まゆらは答えに戸惑った。


「港さん、いつものショッピングモールへ」

「承知しました」


 港は返事をすると、すぐに車を走らせた。まゆらはブツブツと独り言を言っているためリョウは、今聞くのを諦めて彼女を見守っていた。


 しばらくすると、車はショッピングモールの駐車場に入った。


「1時間くらいです。よろしくお願い致します」

「承知しました」


 港は車を降りると、頭を下げてその場を去って行った。

 車はエレベーターホールの近くにとまった。そのため、まばらではあるが人通りがあり監視カメラが車内をしっかりと映す位置にあった。


「ここで話すって、用意周到ですね」


 まゆらは車の窓から外をぐるりと見ながら話した。


「女性と2人きりで話すのですから、本来はカフェや図書館など公の場所が良いのですが誰にも聞かれたくないのかと思いまして」

「察しがいいですね」


 まゆらは、ゆっくりとリョウの方見た。彼は心配そうな顔をしていた。


「あの……」

「はい」

「レイラ様って、人気あるのですか? 嫌われているんじゃなのですか?」

「え? 以前は眼鏡で今はネックレスで盗聴しているのですよね」

「ネックレスは許可得てるから盗聴じゃありません。そう、確かに毎日彼女の声を聞いてました。楽しそうに話す声を何度も聴いたのになぜか、彼女は学園中の嫌われ者だと思っていました」

「先入観ですか?」


 リョウに言われて、まゆらは目を大きくして息を吸った。


「そうですね。確かにゲームと違います。攻略対象者たちの表情もなにより、レイラ様があきらかに違いました」

「レイラさんは昔からあんな感じですよ。困っている人がいれば必死で助けようとしますし、成績は良いですが勉強は好きではありません」


 リョウがレイラの幼い頃を思い出しながら、微笑んだ。


「そういえば、勉強が嫌いでレイラさん家を飛び出したんですよ。あ、それはご存知でしたね」


 ニヤリと笑うと、まゆらはばつの悪そうな顔をした。


「あの時はすいません。レイラさんの悲惨な未来を知ったら居てもたってもいられなくなり……」

「勝手に写真撮ったら盗撮です」

「本物のレイラさんをみたら、思わず……」

「暇ですね」

「違いますよ。週5くらいです」


 キッパリとまゆらが言うと、「そんなに」とリョウは顔を青くした。それを見てまゆらも驚いた。


「え? 知ってたんじゃないのですか?」

「いえ。まぁ、過去のことはいいです。それで、続きをどうぞ」


 リョウは手のひらを見せて、話を戻すよう促した。まゆらは話をそらした本人を睨んだが彼は“続きを話せ”と自分には責任のないというような顔をした。

 まゆらは諦めて話を続けることにした。


「レイラさんが人気があることは分かりました。噂によるとレイラさんを狙ってる桜花会メンバーがいるそうじゃかいですか」

「え? なんですか? それは」 


 リョウは驚いていたが、まゆらは気づかずに話を続けた。


「だから、私は誰かにレイラさんを取られる前にモノにしたいです」

「ちょっと待って下さい。そもそも、貴女の好きな“大道寺レイラ”はゲームの方ですよね。今の話だと妹とは性格が違うと言っていましたよね」

「ゲームも現実のレイラさんも大好きです。現実のレイラさんは何年も観察して更にここ最近は24時間一緒にいるようなモノですよ」

「何年も観察……?」


 そこ言葉にリョウはゾクリとした。


「そうです。この世界のこと、レイラさんのことを思い出してからずっとです。私はレイラさんを守らないといけないんだから」


 当然のようなまゆらにリョウは恐怖を感じた。


「でも、女性同士は結婚もできませんし私は反対です」

「結婚……? 法律を変えればいいってことですね」

「でも、妹の気持ちもありますし」

「それを今から確認しにいきます」


 ニヤリと笑うまゆらにリョウは何も言っても無駄だと思った。そして、本気でレイラがまゆらを拒んでくれる事を願っていた。

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