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116限目 母の狂気

 父は腕を組み大晴を睨みつけた。


「靴を脱いだら居間にきなさい」


 父は低い声で一言いうと言ってしまった。大晴は不思議な顔をして、靴をぬぎながら母をみた。


「ねぇ、母さん。なんで、オヤジいるの?」

「わからないのかい」


 母はひどく落ち込んでいたが、大晴はそんな母を特に気にすることなく居間に行った。


「座りなさい」


 部屋にはいると、テーブルに座り対面席を指さす父がいた。大晴は「はーい」と気が抜けた返事をすると席にすわった。


「どうしてこうなった」

「え?」

「黒服をなぜ着る事になった。白はどうした」

「……」


 自分の不利な事は答えなくないため、言い訳を考えたが日中の電話を思い出した。それで、真実が伝わっていることを思い出し話す気は失せた。


 すこし、遅れて母が居間に入室すると大晴に座った。そして、大晴をみると彼の手に触れた。  


「たいちゃん。お父様からお話を聞いたけど嘘よね。たいちゃんは誰にでも優しいものね」

「……」

「その服も間違えよね。あなたやっぱり、学校に電話しましょう。こんなのおかしいわ」


 大晴の手に触れてまま、母は父の方を見た。父は首を大きく振った。


「お前がそうやって、コイツを甘やかすからこんな事になったんだ。コイツは二階堂の息子だけではなく、大道寺の令嬢に中岡と北沼の令息を怒らせたようじゃないか。これがどういう事だかお前らには分からないよな。あの方々がご両親になんていうか……」


 父は頭を抱えた。母はどうしていいか分からずオドオドしている。大晴は呆然として2人を見ていた。

 しばらくして、母は思い出したよう大晴に話しかけた。


「……そういえば、たいちゃん。あなたどうやって帰ってきたの? 送迎禁止されたと聞いたけど、だからお母様は心配で……。迎えに行きたかったけど、お父様に止められて……」

「あ〜、真人様に送ってもらった」


 その瞬間に父の目の色が変わった。


「真人様って、北沼か? お前怒らせたんじゃないのか?」

「……」

「ちゃんと答えなさい。家から追い出そうと思ったが、北沼と仲良くなれたのなら話は別だ」

「え、追い出され……」


 大晴が動揺していると、父は笑顔になった。


「だから、話せば今と変わりない生活を保証しよう」

「たいちゃん。早く話して」


 父と母に急かされて、大晴は桜花会室で黒服に着替えたあとの話をした。すると、父が嬉しそうな顔をし、そんな父を見た母はほっと胸を撫で下ろしていた。


「わかった。お前の行いは最悪だが、北沼の令息と近づけたのは素晴らしい。これからも仲良くしなさい」


 父は言いたい事だけ言うと立ち上がった。


「あなた、今日このあとはどうするの?」

「お前に関係ない」


 そう言って、父はスーツの胸ポケットから携帯電話を取り出してかけじめた。そして、車を自宅の前に持ってくるように依頼するとすぐに切った。


 電話が終わると父は大晴を見た。


「お前はできが悪いから困っていたが、北沼と仲良くなれるなんて見直したぞ。その調子で大道寺や平岡とも関係を作ってこい。やっと役に立ってくれて嬉しいよ」


 大晴はこんなに自分を褒める父を初めて見た。

 父は豪快に笑うと、部屋を出ていった。それを見て、母がほっとしたような顔したが次の瞬間今までに見たことのないよう冷たい目で大晴を見た。


「二階堂さんところの坊ちゃんを馬鹿にしたのは事実だったのね」

「それは、アイツが……。俺よリも上なんて、有り得ないことになって、気が動転してだんだよ」

「ふーん。それで、不利になったから北沼さんのご令息に言い寄ったの? それで今度は大道寺のお嬢様をたぶらかそうっていうの」

「いや……そんなことは……」


 どもる大晴の頬を下から上へとゆっくりと触った。母のいつもと違う雰囲気に大晴は動くことができなかった。


「その顔。どんどんあの人に似てくるわ。あんなに可愛がってあげたのに、どうして私以外を見るのよ」

「え……。母さん」


 大晴は母に肩を掴まれてた。彼女の爪が大晴の肩に食い込み、痛みを訴えるが母一切聞く耳を持たなかった。


「こんなに尽くしているのに。なんでよ。なんでよ」

「か、母さん、い、痛い。いたいから」

「何が痛いよ。お母様の方がもっと痛いのよ」


 ヒステリックに叫ぶ母に、大晴は恐怖しか感じなかった。あまりの怖さに、体をそるとその時ずらした手がテーブルの上にあたり花瓶にあたり落下した。


 ガシャーン


 花瓶は大きな音を立てて割れた。


「きゃー、何するの。それは、たいちゃんが作ってくれた大切な花瓶なのよ」

「え……。たいちゃんは俺だよ」

「誰よあなた。たいちゃんはお母さんだけを見てくれて一番に考えてくれる優しい子よ。あなたなんかと違う」


 母の狂気に、それ以上大晴は言葉を口にすることができなかった。


 その時、居間の扉が開く音がした。


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