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108限目 まゆらとの生活

 まゆらは家庭的な料理である事に驚きつつ、喜んで食べた。


「毎日一流シェフが作るフルコースを食べていると思ってました」

「私の好みに合わせているだけで、タエコさんは自分の店を持つシェフですわ。ですので、それも可能ですけど、食べたいですか?」

「いいえ、レイラさんの好みの物を食べたいです。レイラさんの好きな物も知りたいです」


 まゆらは、そう言うと魚のムニエルを口に入れて幸せそうな顔した。


「私は魚が好きですわ」

「お魚、美味しいですね」


 食事が終わると2人はタエコに挨拶をして廊下に出た。


「入浴ですが、準備できていると思いますわ」

「えっと……、凪さんが準備してくれたのですか?」

「ええ、そうですわ。彼女は物覚えが良くてたすかりますわ」


 レイラは以前の専属家政婦であるカナエを思い出した。


(悪気はなかったと思うが……大事件になってしまったので仕方ない)


 業務中に知り得た情報を外部に漏らしてはいけないのは契約内容に記載されている。もしまゆらやリョウが気づかなければ大変な事になっていた。


(彼女はアレだったし、解雇にならなくてマジよかった)


「すこし、お話しませんか」


 自分の部屋の前に着くとまゆらがレイラに声を掛けた。レイラは二つの返事を返した。すると、嬉しそうに笑い、部屋の扉を開けてレイラを招いた。


「失礼しますわ」

「どうぞ。って自分の家みたいたいでしたね」

「そう思ってもらって構いませんわ」

「ありがとうございます」


 二人は部屋に入ると、向かいあわせにテーブルについた。

 まゆらは、両手で自分の頬を触り嬉しそうにレイラを見つめた。


「レイラさんと一つ屋根の下にいるなんて夢のようです。レイラさんはなんで、そんなに優しいのですか」

「ここに住むことを許したのも費用を出したのも父ですわ。私の優しさではありませんわ」

「あ……えっと」


 まゆらは目をキョロキョロを動かして、少し考えた。


「そうではなく、レイラさんは大道寺家です。その上、桜花会ですので私のような普通の人間と関わるのを嫌がると思っていました」


 まゆらに言われて、レイラは眉をひそめて顎に手をあてた。


(そーいやー。悪役令嬢ってやつだから、高飛車設定ぽいことがキャラ設定にあったかもなぁ)


 レイラは自分レイラの設定について考えたが、今の自分の外見から想像するしかなかった。


「あ、あの。もしかして、我慢されてます。あの、もし気に入らない事がありましたら罵倒して下さって構いません」

「罵倒……?」

「ええ、遠慮はいりません」


 キラキラと目を輝かせるまゆらに、レイラは体を後ろにひいて怪訝な表情を浮かべた。


(え? 期待されてる? まゆタソが望むならやるかぁ)


 レイラは少し考えた後、まゆらを睨みつけた。そして、いつもより強い口調で話した。


「何を言っていますの? 罵られたいなんて気持ちが悪いこと言わないで下さいます?」

「申し訳ありません」


 まゆらは口で誤っていたが、顔は赤くなり高揚していた。それはまるでもっと悪態つかれるのを望んでいるようであった。


(え? まゆタソはレイラに罵倒されて嬉しいのか。 なんだその特殊性癖設定。これ乙女ゲームで男落とすじゃねぇのかよ。あ、そうだ。攻略対象者ってやつがいるの忘れてた。女の子ばかりに目がいってた。でも兄貴は亜理紗とくっついたから大丈夫だろ。後、2人は誰だ?)


「レイラさん」


 心配そうな声で呼んだまゆらであったが、レイラは思考に夢中で気づかなかった。


(前世でネット友だちがめちゃくちゃ進めてきて彼女のムービーを見てまゆタソの可愛さにハマったんだよな。そんで、すぐにゲームしようとしたから内容は本当にわかんねぇんだよな。もっと調べてからやるべきだったか。いや、そんな事したらネタバレじゃねぇか。だいたい、あんときはゲームの世界に転生するなんてしらねぇしよ。まぁ、でも、悪役令嬢に転生は良かったかな。まゆタソを近くで見られるみたいだしな。ただ、気になるのはこの後の乙女ゲームでよくある悪役令嬢の没落だよな。とりあえず、男と仲良くしなければいいか? うん。で、まゆタソに優しくすればいいか。でも、本人は“罵倒”とかMぽいこと言うんだよな。普通のゲームと違うのか。難易度高ぇな)


「……レイラさん、レイラさん」

「……え?」


 何度も呼ばれてやっとまゆらの言葉にレイラは気づいた。そして、彼女の方をみた。そこには本当に心配そうな顔をしたまゆらがいた。


「やはり、傷が癒えませんか? その、あの婚約者の方が……」

「いえ、大丈夫ですわ」


 彼女を安心させようと笑顔で答えると、まゆらはテーブルから身を乗り出した。


「頑張らなくていいのですよ。私がレイラさんをお守りします」


 自信満々に答えるまゆらに、レイラは暗い顔をした。彼女が、自分の身代わりになったのを思いだして、体がブルリと震えた。


(やめてくれ、そんなの……)


「やめて……ほしいですわ。守ってくださらなくて結構ですわ」


 あまりに大きな声が大きかったため、まゆらは驚いて後ろに下がりストンと椅子吸い込まれるように座った。本人も何がおこったか分からず、キョトンとした顔でレイラを見上げた。


「なぜ、あの時、わたくしの身代わりになったんですの? 結果何もなかったようですが、何かあってからでは遅いですよ」

「でも、そうしなければレイラ様がひどい目に遭っていました」

「……」


 興奮するレイラに対して冷静に返答するまゆら。彼女の瞳は真っ直ぐレイラを見ていた。


「失礼しましたわ」


 レイラは胸に手を当てて深呼吸をすると席に座った。そして、しばらく考えてから口を開いた。


「まゆらさんはなぜ、中村幸宏あのかたが私に報復する事を知っていたのですか? そもそもなぜ彼を知ってるのでしょう」


(これはずっと疑問に思っていた事だが、まゆらの危険行動があり後回しにしてた)


「……それは……」


(まさか、まゆタソも俺と同じなのか……?)


 まゆらは口に手を当てて、話す事を迷っているようであった。そのため、レイラは彼女が話やすいように自分の話をしようとしたとの時、彼女から思わぬ人物の名前が出てきた。


「リョウさんが……」

「え? 兄ですか?」

「ええ、その……」


 まゆらは自分のかけている眼鏡を取ると、眼鏡のレンズをじっと見た。レイラは彼女の行動に意味が分からず、首をかしげた。


「リョウさん。話して良いでしょうか?」


 まゆらのその行動にレイラは目を細めた。


(眼鏡に向かって兄貴の名前を呼ぶって、まさか、それ……)


 レイラが驚いていると、扉を軽く叩く音がした。まゆらは眼鏡をかけると返事をして、扉を開けるとそこにいたのはレイラが予想した通り、リョウであった。

 レイラは彼の方を見ると目があい“バレた”という顔をしていた。


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