106限目 世代交代
レイラが室内に入らない事に不思議に思い、亜理紗は彼女に声を掛けた。
「レイラ様、どうしました?」
「いえ」
レイラはゆっくりと前に進み続いて愛里沙が入室した。その愛里沙もレイラと同じようにとまり「あっ」と答えた。
2人の存在に気づいた香織が笑いながら会長の横に座り、手を振っている。会長席に座る憲貞は余裕がないようで必死にペンを動かしていた。
レイラは愛里沙に仕事を伝えると会長席に向かった。
「天王寺会長、香織先輩、卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
顔を上げて笑顔で返事を返してくれたのは香織だ。憲貞はわき目もふらずひたすらペンを動かしている。
レイラは彼の方を見た時、山積みの書類にひたすらサインをしている。
香織はなにやら数字を書いていた。レイラはそれをじっとみて、頷いた。
「香織先輩が持っている書類を引き継いでもよろしいでしょうか」
「別にそんなにたい……」
香織は言葉を途中でとめて、考えた。そしてすぐに書類をまとめて渡した。
「パソコンにしたいんだっけ?」
そう言って半分渡してきた。残りの半分をどうするのか疑問に思っていると立ち上がり、二台のノートパソコンを出してきた。
それを会議で使用するテーブルの方に持っていた。
「このテーブルの裏にコンセントあるから」
「はい」
レイラは渡されたパソコンを香織がやるのと同じようにコンセントをいれ電源をいれた。
「あの……。全部引き継ぎますわ」
「何本来は会長である憲貞の仕事だよ。彼ができないから私の仕事になる。全部任せるなんて恥だ。私はパソコンを使えるが憲貞に合わせていただけだよ」
「ありがとうございます」
レイラは礼を言うと、書類をチラリと見て目を大きくした。
桜花会が担当する行事の企画や報告書だ。殆どまとめられているが所々空白があった。そこを埋めれば完全するのでそれほど大変な作業ではない。
(なんだこの資料。殆どできてるじゃねぇか)
資料を手に取り、じっくりと全てページをみた。
見れば見るほど完璧に近い資料だ。
(この字は誰だ?)
桜花会の書類は全て手書きであるため、レイラは見れば誰だの字であるかわかった。しかし、桜花会では見たことがない字に首を捻ると、それを見ていた香織がクスクスと笑った。
「いい資料だろ」
「資料ではありませんわ。これはほぼ完成品ではないてますか。誰の字ですの?」
「憲貞のピンチヒッターだよ。ソイツがいなければ憲貞は卒業も危うかっただろうね」
作成者が気になったが、香織は言うつもりがないようであるためレイラは詮索を諦めた。
「そうですか」
レイラは資料を置くとパソコンに打ち込みはじめた。
ほぼ資料を写すだけであるため、作業は容易であった。それは香織も同じであり、ものの数十分で全てが打ち込み終わった。
ほぼ同時に終わり、2人は同じように憲貞の方みた。彼の方も終わったようであり、ペンを置いて机の上に突っ伏していた。
香織は立ち上がり、彼の前くると頭を突っついた。
「署名だけだよね?」
「うむ」
「時間掛かりすぎ」
そう言われて、憲貞はよろよろと起き上がった。
「時間……?」
憲貞はゆっくりと頭を起こし、虚ろな目で腕にある時計を見て固まった。
突然立ち上がり頭を下げた。
「諸君、今まで私を支えてくれて感謝している。それでは」
その行動に驚いてると、そんなことは気にせずに荷物をまとめると桜花会メンバーを横目に部屋を出た。そのまま、わき目も降らずに早足で進んだ。
幸い、誰一人にも合わずにガレージについた。今日で最後になる学校であるが、憲貞は焦っていたため感傷に浸る暇もなく後部座席で扉あけて待っていた車に乗り込んだ。
運転手は憲貞が乗り込んだ事を確認すると出発することを伝え走りはじめた。
憲貞は気が急いていた。いつもと同じ速さで走る車が彼とってはかたつむりよりも遅く感じた。
しばらくして、見慣れたマンションが見えてくると幸せな気持ちになった。車がとまると運転手が扉を開けるのを待つ事が出来ずに飛び出した。その品のなさに運転手に眉をひそめられたが一切気にしなかった。
マンションに入るとエレベーターが待てずに階段で上がったが途中で体力がつき結局エレベーターで部屋がある階までいった。
エレベーターの中で、鍵を鞄から出し握りしめた。エレベーターの扉が開くと同時に出て部屋向かった。
鍵を開けて、ノブをひくと部屋の置くからバタバタという音が聞こえた。
「貴也?」
憲貞は先に部屋にいるであろうと思った人物、前生徒会長の江本貴也の名前を呼んだ。
しばらくして、バタンと扉を乱暴に開ける音がしたかと思った次の瞬間抱き締められた。
「のりちゃん」
貴也の喜び方まるで、主人を待ちわびた犬のようであった。彼に尻尾があったらちぎれるくらい振っている。
「遅くなってすまない」
「仕事が終わんなかったんでしょ。仕方ないよ。俺が渡した資料は役に立った?」
「あ、いや……。香織とレイラ君にまかせた。私は署名の方で手一杯で」
申し訳なさそうな顔して頭をあげると、貴也はニコリと笑い憲貞の顔をみた。
「そっか。のりちゃんが早く帰れたなら彼女たちに感謝しなくちゃね」
「そうだな。来年度の桜花会は優秀な人間が多くて頼もしい」
憲貞が頷くと貴也は「本当にね」と困った顔をした。
「なんだ?」
「うーん、なんて言うか反省。だって、成績でなる特待と親の経済状況でなる桜花会なら生徒会のが優秀だと思うよね」
そう言いながら、ため息をついた。
「何を言ってる。実際、生徒会の人間は優秀な人物だけではないか。私は周りに抱っこだ。亜理紗君は私以下の成績だ」
「そうなんだよね」
貴也は、首を傾げる憲貞の頭をなぜた。彼の言いたい事がわからず、憲貞の頭の中はクエッションで埋め尽くされた。
「生徒会を作った当時の俺も子どもだったんだよ。成績がよければ頭も良く、リーダーシップがとれると思ってたんだよね」
「違うのか?」
「のりちゃんはリーダーとしての才能はあると思うよ」
「私は周りが優秀だからだ。貴也のように1人では無理だ」
「そうだね。でも、本来はそれがいい」
貴也はじっと、憲貞を見た。彼はその意味が分からなかったが貴也するとこに身を任せていた。
貴也は、また、ぎゅと憲貞を抱きしめた。
「生徒会発足時、役員を成績順と定めた事を反省してるよ。推薦とか話し合いにすれば良かったかな」
「桜花会の指名制はよい制度だ」
「それは、指名する会長の質によるでしょ。のりちゃんは周りの話を聞くいい子だからさ」
そう言って、貴也は憲貞を抱きしめる手に力を入れた。
憲貞は、彼の背中をポンポンと優しく叩いた。
「私たちは卒業した。後は任せよう」
貴也は憲貞のその言葉に頷いた。
「卒業祝いの食事はできてるよ。時間があったから手の込んだ物を作ったよ」
貴也は笑いながら、憲貞を解放すると彼は頬をかいて「遅くなってすまない」と言った。
「あはは。それは2ヶ月以上前からわかってたよ」
笑いなから憲貞の手をひくと、憲貞は彼の手をぎゅと握りかえし居間に向かった。




