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103限目 来年度の不安

 皆が安堵し笑顔を見せる中、貴也だけは、変わらない表情で生徒会長席に座った。それをきっかけに他のメンバーも席につき、ノートパソコンを開けて、ティスプレイと向き合った。


 すると、一は足早に貴也の元へ行った。


「なに?」


 黙って、机の前に立つ長身の一に貴也は眉を寄せて声を掛けた。

 貴也は座っているため、身長差が立っている時より大きく本来それだけ迫力があるはずであった。しかし、背中をまるめて不安そうな顔をする彼は子鹿より弱くみえた。


「あの、会長」


 一は机に手をついて、身を乗り出し貴也に近づいた。貴也は、「ちかいよ」と言って彼を押した。

 すると、ハッと目を大きくして「すいません」と言うと姿勢を正した。


「それで?」

「申し訳ありません」


 一は大きな声をだし頭を勢いよくさげた。他の生徒会メンバーは彼の行動がきになりチラチラと見ていた。

 貴也はため息をつきながら、自分の額を抑えた。そして、一に「静かにしてくれるかな?」と一言いった後他のメンバーの方に顔を向けた。


 一は周囲の注目を集めてることに気づき、青ざめて、黙って動けなくなっていた。


「皆、仕事してね。来年度は俺いないよ。だけど、桜花会は今年みたいに甘くないみたいだよ。って今のレイラ様を見たら言わなくてもわかるよね」


 にこりと貴也が微笑むと、メンバーはすぐに机に向かい仕事をはじめた。

 貴也は満足そうな顔をすると改めて一の方向いた。


「で、なにかな? 皆の迷惑になるから静かに話して貰えると嬉しいよ」


 お願いしているようなセリフであるが、有無を言わせないオーラがあった。


「はい。あの、先ほどの……。あ、」

「俺も暇じゃないんだよ。はっきり話してくれるかな」

「すいません。レイラ様への失言を……、その」

「失言?」


 貴也は少し考えた後、「あぁ」と声をあげた。


「俺と同じ事を言ったやつか。まぁ、いいんじゃない。これから君が会長だし。好きにやってみなよ」

「あの、アドバイスとか頂けましたら……」

「アドバイスねぇ。俺はやりたいようにしかやってないよ。まぁ、基本を守れば大丈夫だよ」

「基本って……? あの……」


 意味が分からなくて聞き返そうとすると、貴也は自分の手にある時計をみた。そして、「もう、帰るから」と一の言葉を切ると貴也はノートパソコンを閉じ、それを引き出しにしまい鍵を掛けた。そして、鞄を持って立ち上がり、あっという間に部屋を出て行った。


 呆然と立ち立ち尽くす一の元へ、副会長の岡本光一がきて、彼の肩をポンポンと叩いた。


「副会長」


 振り向いた一は涙を浮かべていた。


「自分はどうしたら……」

「ごめんな。俺は何も言ってあげられない。ただ、君の気持ちはいたいほどよく分かるよ」


 ふと、周囲を見ると座っているメンバー全員と視線があった。誰しもが悲しそうな顔をしていた。


生徒会ここは江本会長が1年の時に作り上げてここまでにした。俺はそれを側で見ていたけど、彼のやることは凄すぎて君に彼のようになれというのは酷なことだと思うよ」

「……」


 光一の言葉に何も言えず、一はうつむいた。すると、会計の石田いしだ栄之助えいのすけが立ち上がった。


「大丈夫ではないですが、副会長が言ったように江本会長の真似ではなく、僕たちのやり方で生徒会を運営しましょう」

「自分たちの?」

「そうです。成績で役職が決められてはいますが、そんなの関係なしに全員で考えていきましょう」


 その言葉に、一は目を潤ませた。

 他のメンバーもこの話に同意するように頷いている。


「ありがとう。本当は会長になれと辞令がきた時、逃げ出したかったんだ」

「そうですよね。江本会長の後は誰もが気を重くします」


 一と栄之助がお互いの思いを打ち上げ合い、感動的な雰囲気を作っているとそれをぶち壊す声がした。


「大丈夫じゃないですか」


 その声に、光一と一それに栄之助が振り向いた。

 声の主は安本やすもと隼人はやとだ。彼は黒いサラサラの髪をしており、前髪だけ伸ばし目を隠している。更にマスクで口元を隠してるため顔がほとんど見えない。その上、声も聞きづらい。


「なんでそう言い切れる?」


 不安な二人に対して、隼人はパソコンの画面を見たまま淡々とした口調で語った。


「中村彩花さんはレイラ様と一緒にいるのをよく見かけますよ。仲が良いんじゃいですか」

「え、だって今しがた険悪だったぞ」


 不思議そうな顔をする一に対して、隼人は面倒くさそうに頭をかいた。そして、パソコンから目を離して光一と一、栄之助の方を向いた。


「あんなのパフォーマンスですよ。生徒会と桜花会の関係については説明を受けていますよね?」

「あ~」

「そうですね」


 一と栄之助が納得すると隼人は“フン”と鼻をならしてパソコンの方を向くとキーボードを打ちはじめた。

 光一は始めから知っていたようで何も言わずに微笑んでいた。


「あ、コイツも役に立つかもしれませんね」


 隼人が手を止めて、じっと液晶画面を見た。そんな彼の様子に興味を持ち、光一と一、栄之助は隼人の後ろから彼のパソコンを覗き込んだ。


「なんだ?」

「分からないですか? 次期会長」


 と馬鹿にしたような言い方して画面の映し出された一人の少女のゆびさした。


「えらく、可愛い子だがそれがどうした」

「注目する所違いますよ」


 一に伝わらないことに隼人は諦めようとしたところで「なるほど」と栄之助が声上げた。


「なんだ?」

「力になってもらえたらいいね」


 全く理解しない一の言葉を気にせず、光一と栄之助は頷いた。隼人は彼らの様子を見ると何も言わずに画面に向かい仕事に続きを始めた。


 光一がその場から離れて自席にもどると、それを永之助と一追いかけてきて、彼の席の横に立った。


「彼女、2年からの編入なので通常の入試よりも難易度が上がっているはずですが満点なんですね」


 栄之助が興奮気味で光一に話しかけた。すると、光一は頷き笑顔を見せた。


「レイラ様、中村さんと同い年なんだね。すごい学年だね」

「どういうことだ?」


 一は、小さな声で聞いてきた。栄之助は困った顔して「頭のいい子が入ってくるので楽しみと言う話です」と簡潔に答えた。すると、一は納得して嬉しそうに頷いていた。


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