Episode 96
ビデオ電話を使った脳裏に永遠と残る冷めた登場から一時間後。
アテナ達は集合場所の陰光大学セントラル外の広場に集まっていた。
しかし、アテナ達が目にしたのは誰もいない構内。
訓練時、二クラスは裕にいる数の人がいた。
だが、現在はアテナ達二年い組の十数人と他クラスから一色兄妹と数人だけ。
トレーニングプログラム参加者全員が集まったのかと思ったアテナ達は落胆した。
「誰もいないな……」バンが一人口にした。
「俺ら、なんかしたか?」慧は疑問を嘆く。
数分待っているとセントラルからサーシャが来た。
エレンは詰め寄り彼女に聞く。
「先生。他の人達は?」
サーシャは膝をかがめ、口元の前に人差し指を立てる。
「しー! こっちは極秘で学校にいるの。詳しい話は中で。皆ついてきて」
今までに聞いたことの無いくらいの小声だった。
言われるがまま、初めて入るセントラルに入場する。
陰光大学構内には一年次に必修となる教養学を学ぶ専門別の建物に囲まれた中心に存在する。
セントラルを間近にした四棟の校舎にも、生徒達が快適な大学生活を送る為の施設が完備されている。
しかし、普段から入館証が無いと入れない厳重な警備に囲まれたセントラルの内部は大学生の間でも都市伝説がいくつもあるほど、未知の領域となっている。
陰光大学七不思議の一つにセントラルには学校幹部も知らない異世界への入り口が存在する。
海外にいる卒業生が来日時。
最初に降り立つ場所など、嘘そのものと思われるようなものから、真偽不明なものまで七つで収まりきらない話ばかり。
エレベーターがあることさえも知らなかった生徒達。
「正直、ここの学校の都市伝説って数え切れないほどあるから、もう何でもありって精神で受け入れちゃってるよね」
ミツキは呆れ混じりで話す。
「けど、謎の多いセントラルに非常事態宣言下に私達は国の頼みで何されるのかしらね」
一色の妹、一色 春菜は冷静に受け入れながらも今後の読めない展開に呆れかえる。
「そういえば、一色先輩って」
トリンドルが彼女に向かって話しかける。
「あ~。春菜でいいよ。兄さんもいて名字呼びだと面倒くさいから」
もう一人いる同じ名字の兄と誤解を生まない為に、下の読み方を勧める。
「分かりました。高校入学時に留学したんじゃ」
本題を出した。
「そうだよ」
「どこに行ってたんですか?」
「中国だよ」
春菜はパンダと理化学研究の為、大学と高校の両方を通学し、自分の進路に向けて研究をしていた。
「あれ、春菜。ドイツに行ったんじゃないか?」
無関係だと思っていた兄が入ってきた。
だが、親族の中でも近い存在の妹が行った国を忘れる兄もいるのだとトリンドルは思った。
「ドイツはお兄ちゃんの友達でしょ」
「あれ?そうだっけ」
留学の内容が全く違うのにもかかわらず、大樹の友人と妹の留学内容が逆になってしまっている。
兄の大樹が妹から三ヶ月の留学の話を聞いている中に何十基もあったエレベーターを登り終えたサーシャ達は一つだけ外からの明かりが入る部屋の前に立つ。
不思議に思ったアテナはサーシャに聞く。
「あの……。先生、あの部屋は?」
「入りましょう」
振り向かずに前に進む。
生徒達も続いて入っていく。
明るい光で包まれた部屋には軍服を着た陸海空の隊員数人。
そしてアテナ達生徒を支えて来た研究者と医師達がいる。
「お疲れ様です‼」
軍所属の隊員がアテナ達に向かって敬礼をした。
「あっ! はい‼」
ミツキはミリタリーに強い憧れを持つ。
触発されて、彼女も角度ぴったりの敬礼をした。
「とりあえず、皆。そこにまとまっている好きな椅子を選んで。プロジェクターを使うから見えるように座ってね」
何も聞かされていない生徒達はサーシャの指示に従い、会議で座る薄いクッションが埋め込まれた椅子を持つ。
入り口から左側に設置されている教壇に面と向かって座る。
「よし。では、この場にいる人達の紹介から」
外部からこの会に参加する日本陸軍、海軍、空軍の代表が挨拶をする。
中一人はアテナ達にも見覚えのある人物がいる。
「あの、もしかして。前回、塔の時にいらした……」
アテナの脳裏には、作戦後の横須賀基地にいた前回の作戦に参加した隊員という記憶が思い起こさせられた。
「はい! その節はお世話になりました」
「いいえ。こちらこそ」
お互い世話になったことに感謝する。
「挨拶が済んだところで、いよいよ本題よ」
サーシャが気合いの入った説明を始める。
「今回は横須賀基地。近海上空に出現した敵を捕獲することよ」
戦いを想像していたが、命を取るという訳ではないと安堵したアテナ。
「けど、先生。戦闘ヘリとか戦闘機を粉々にする敵を相手に捕獲なんて簡単なことできるの?」
「いい質問ね。ミツキさん。珍しくさえているわ」
「いつもだよ‼」
担任とミツキの漫才もいつも通りかませたが、今日以上に流されることは無い。
「まぁ。私達も生徒達を保護する観点から作戦に参加するけど、私たちの研究チームをなめてもらってはいけないわ」
サーシャはパソコンのエンターキーを押した。
「これよ」
映し出されたのは、一本のワクチンと注射器。
「これはチェン先生に説明をお願いするわ」
メルタは医師であり、研究チームの一人であるチェンヤオに説明を託した。
「まだ、正式な物ではないが、人と体の作りが同じであればこの麻酔薬でしばらく眠りにつく」
サーカが拳を握り言う。
「それでは、麻酔がかかったところを狙って」
サーシャが彼女の言葉に続いて口にする。
「確保する」
「う~。いよいよ。冗談じゃ済まない話になってきちゃったぜ~」
ミツキはそう言いつつも、唇をたこさんウインナーのようにとがらせて言う。
「なんか、海上だからとか思っちゃったけど、泳ぐわけじゃないから緊張してきちゃったよ~」
トリンドルは両手を左右交差するように腕を握りしめて緊張した表情をしている。
「危険な任務ではありますが、陸海空の日本軍も含めてサポートします」
陸軍所属の隊員が強い意志を持って言う。
「僕達もその為に、この日の為に研究を続けてきたんだから、もちろん最大限のバックアップはするよ」
ピエールを始めとする医師も作戦後の管理を含めて支援をする。
メルタ、サーシャによって集められたプロフェッショナル達は人類と異世界人との戦いに勝利すべく持てる手の全てを使う。
「みんな。いよいよ、人類の反撃よ。やられっぱなしでは終わらせない」
最も展望窓に近いメルタはアテナ達の方向を向いて言う。
彼女の目には受け身続きだったこれまでに別れを告げようとする強い気持ちがあふれ出るような気迫が生徒達。
また、その場にいる全員が感じられる。




