Episode 91
黒い服を着た少年が眠そうな顔で日本本土を見ている。
特に監視をしているのが、横須賀海軍基地。
「はぁ~。暇だな~」
大きなあくびをしては同時に腕を上げる。
「緊張感なさすぎよ。ジャック」
「だって~。大隊じゃなくても、僕とヴェラだけで十分だっていうのに」
ジャックという少年に友人の女性であるヴェラは緊張感を持つように言う。
なぜなら、目の前に人類による建築を目の前にしているのだから。
しかし、彼は自分達二人だけでいいと言う。
その言葉と一緒に冷たい視線は一人に向けられる。
「仕方がないわ。今回はアルミジン様のお墨付き奴隷と一緒なのだから」
「でも、あいつ。この前の作戦で地球に柱を打ち損ねたから、今回も心配だからってことで、外部の人間が今回はいる訳だ」
ジャックは離れたところで基地を見つめるキュバリルに近づいた。
「なあ、お前。コネで入っていい気になるなよ」
「何のことかしら」
キュバリルは腕を組んで表情変えずに横須賀を見続ける。
舌打ちをしてジャックは言った。
「前回失敗したのはお前のせいだ! 今回失敗したら、お前の場所はもうどこにもない!」
「そんなこと……分かっているわよ」
キュバリルは先ほどと比べ物にならないほどの小さな声で言う。
彼女の作戦成功に対する気持ちは底辺となっている。
帰ってきても奴隷として扱われている貴族からは処刑にすると言われた彼女には居場所が無い。
敵に捕まるよりは自分で自分の首を絞める方がいい。
「まあまあ」
ヴェラは後ろに入り仲介した。
しかし、二人を含め隊の全体が飛び込みで入ってきたキュバリルを歓迎するものは誰もいなかった。
その時だった。
「うぇ! なんか、言ってるぞ?」ジャックが反応した。
横須賀方面から何かを耳にしている。
自分達の世界には無い言葉だった。だが、知識人のみはその事に関して彼らが放つものが何なのか理解することができた。
ヴェラの肩を人差し指でぽんぽんと軽く叩く。
「あら、ウィル? どうしたの」
身長の小さい軍人のウィリアムにヴェラは目線を彼に合わせた。
「これ、ここの言葉」
「訳せる?」
「うん」
大きく外へツンっと長い耳で横須賀から流れている言葉を言う。
「これでいい?」
「ええ、大丈夫よ」
彼女は優しくウィリアムの頭を撫でる。
だが、彼らには返事をする術もない。
そもそも、地球による戦争をするときの事前ルールというものも頭の中に入っていないヴェラ達には自分達のことを話す理由が分からなかった。
ジャック達の反応が無いため、時間の経過に連れて周波数の変化をウィリアムは感じていた。
「わ~。周波数がどんどん高くなっていく~」
聴覚に鋭い彼は上がるにつれて自身が得る音の大きくなっていく。
「ぐにょ~うぅ~」「うわ~‼」
不快な音にウィリアムは耳を塞ぐ。
彼の感じる音に反応して背後にいる獣が反応する。
「がぉぁ~あぁぁ~」
しかし、普通の人間では後ろを見たところで何も見えない。
「あ~。よしよし、チュ、チュ、チュ」乗っている隊員があやす。
だが、周波数の調整を行ってから連れてきた獣の声は止まらない。
「ぐぁぉ~がぁぉ~」ウィリアムは耳を手で塞いでいる。
「うわ~。どっちも嫌い~」
「これが続くとウィルを連れてきた意味がないなわ」
呆れて腕を組む。
「ふふふふふ……」一人の紳士の面白がっている声がする。
「はっ! 大隊長様」
ジャックは彼の存在を気付いた瞬間、敬礼をした。それはヴェラも同じだった。
不快な音を同時に聞いているウィリアムも耳を塞ぎながらも彼らと同じ方向を向いた。
「ウィルこれを」
専用の耳栓を彼の耳につけた。
「あ、楽になった。ありがとうございます。大隊長様」丁寧に一礼した。
それに答え大隊長はニコっと笑った。
大隊長は続けて、右手を挙げた。
その瞬間、獣たちのうめき声も収まる。
「では、六十秒後に攻撃を始めましょうか」
唯一敬礼をしていないキュバリルの背後に入って腕を伸ばした大隊長。
「はぁん‼」
「六十、五十九、五十八……」
伸ばした手を離さないまま大隊長はカウントダウンを始める。
隊員達は六十秒後と設定された攻撃の為に準備を急ピッチで進める。
砲弾は既に備え付けられている事前準備が完璧な装備。
あとは全てボタン式のハイテク武器は時間を待つばかりだった。
だが、最初の攻撃以外にも想定されている段階を順序良く踏むための準備も一緒に行われていた。
大隊長のカウントは十秒を切った。
その間もキュバリルからは離れない。
「五、四、三、二、一……」
「はぁ~ん‼」
「発射‼」隊員の一人は手を横にした。
その瞬間。獣の体が光によって現れた。閃光は横須賀基地目掛けて放たれた。
音の発信元であるアンテナは骨組みである鉄の柱とともに崩れ落ちる。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」キュバリルは息が止まらない。顔を赤らめて荒い呼吸をする。
「はははははははははは……はははははははははははははははははははははは‼」
大隊長の笑みは恐怖を感じるものだった。
それは作戦の第一歩を達成したものを祝福するものが頭の端っこにあった。
「これで……、また私の出世への道が開かれる‼」
「大隊長様。第一段階である主砲の正射が終わりました」
隊員の一人が大隊長に一礼をして報告する。
「では、次の段階に行こうか」




