Episode 90
東京湾付近に軍勢が出現してから六時間が経過した。
目視で確認した敵の規模は大隊。
しかし、黒い霧が張られているため、詳細な人物像というものは確認できていない。
塔の出現時に対応や記録を知っている当時の隊員達も集めて上空にいる敵に対する交渉方法などを検討している途中。
しかし、彼らが直接見た訳ではない。
アテナ達が光に包まれた瞬間。
鉱石を持っていない慧やポーレット達と一緒に飛ばされたからだ。
現在検討している対話による解決方法は全て、アテナ達の経験上があってのものだ。
だが、万が一のことも考えて作戦の可能性として半分以上を占めるものは、武器の攻撃による武力行使。
本土への被害を最小限にすべく、隊員達は責任者である将官とともに作戦を練る。
「この前って、粘着質的なのいましたよね?」
女性隊員が言った。
「ああ。あれは気持ち悪かったな~」
腕を組んだ男性隊員は苦い顔をして言った。
「でも、あれらをどうにかするって、言っても私達できなかったですよね」
「それを言うなよ。俺たちはやらなきゃいけないんだから」
なかなか良いアイディアが思い浮かばない隊員達。
「こうなったら、あたって砕けろだ~‼」
「それはない」
お調子者の男性隊員には後ろから上官に頭へチョップを受けた。
「でも、どうすれば……」
「スピーカーだ」
言うなり隊員達は上官について行った。
そこには現在使用されていない施設が目の前にあった。
出入り口には立ち入り禁止のテープが張り巡らされているドアがある。
それは外から地上へ降りていく非常用階段にはそこら中に張り巡らされている。
元々の銀色がテープにより新しい芸術が生まれている。
上には銀の棒がきれいにタワーとして立ち上っている。
最上部にはパラボラアンテナが設置されている。
「あの~、これって……」女性隊員が言った。
「これは戦前に使用された通信用のスピーカー兼通信システムだ」
第二次世界戦争時。
日本軍が敵との間に通信内容が漏れないように周波数を工夫した音声を送るとともに限られた機器によってでしか送信受信ができないようにするためのパスワード設定可能なシステム。
しかし、以上の情報を認知する一般隊員にとっては上官の真意というものは図ることは出来なかった。
「上官。一体何を?」男性隊員が言う。
「これを使って無効との交渉を行う」
アテナ達が日本語により会話が可能だったとは言え、メルタ、サーシャからの情報によると、鉱石による言語変換により会話が可能だという。
しかし、日本軍は現在、アテナ達と同じように鉱石を所持していないため、使うことができない。
上官の考えは自分たちの言語をそのままで会話ができないことを想定して、周波数などを徐々に変えてみて彼らと交信をしあうことを目指している。
「使用されなくなって、七十年以上経っているが、おそらく、ふんっ!」
機器の上にかけられていたビニール製のカバーを剥がす。
空中には積もっていたほこりが散乱する。
慌てて、手を振るなり口を塞ぐなりして自身の呼吸を安定に保った。
(これであの人達が引いてくれるといいけど……)
上官は既に施設内の電気設備は事前に準備をしていた。
コンセントを入れ、さらに電源を入れた。
「ピコピコピコ……ピ……ピ……ピ……」
戦時中以来の起動。
機器は久々の目覚めに本格的に起動させるにはしばらくの時間がかかる。
その間、一般隊員は施設内に収められている棚から古い書類を手に取り読み始めた。
施設内の資料は書類やデータは全て国務省本部の資料室に保存されている。
残るのは暇を持て余すための本やディスク。そして、ストレッチ道具のみ。
女性隊員が手にしたのは『桃島の食堂』。今では定番となった異世界ファンタジー物。
男性隊員は機器の取り扱い説明書だった。
七十年以上前の機器なのにもかかわらず茶色く劣化していない。
「あの。この資料ってやけに綺麗に保存されていますよね」
「あ~。本部でスキャニングして新しいものに変えたからな」
上官から隊員が目にしている取説を渡すように言われる。
男性は返事をして渡った。
「よし」
機器の調整が完了した。
上官はマイクに向けて声を入れる。
「我々は日本の国務省・横須賀基地 海軍本部である。東京湾上空にいる者達に告げる。所属を述べよ。繰り返す、所属を述べよ」
しかし、反応はない。
「これなら……」上官は周波数を変更していく。
「ぐにょ~うぅ~」独特な音が微量ながら隊員の鼓膜を震わす。
「がぉぁ~あぁぁ~」外から奇妙な声がした。
それは獣に近いものだった。
女性隊員は施設から出た。
空は何も変わりのない雲が埋め尽くす率は五ほどと曖昧。
また戦時中に通信施設が周りから見えないようにほかの建物によって、目くらましをさせられている。
故に空しか見ることができず、東京湾までも見ることは出来ない。
「ぐぁぉ~がぁぉ~」
周波数の調整を行ってから異様な声は止まらない。
ある時間からあの声は止まった。
「あれ?」室内にいる男性隊員は奇声が無音になったことを感じた。
「何かありましたか」上官に聞く隊員。
だが、耳に機器を繋いだヘッドフォンを片手に当てたまま静止している。
閉じていた目をゆっくりと開ける。
「逃げろ‼」
その一言に驚く男性隊員。
しかし、自身が動く前に上官は彼の腕を引っ張り外へ出した。
一瞬の出来事だった。
先ほどまであった通信施設は焼け、跡形も無くなっていた。
さらに、周りの建物も上の階や下の階など、不規則に砲弾を受けた後にできる丸い空洞ができていた。
「これは一体……!?」
「先輩……、せんぱーい‼」




