Episode 89
「ピピピピピ……」
素人には分からないボタン、文字が機械の操作を行う縦に連なった場所に存在する。
モニターには海底を航行する機体周辺に搭載されているカメラからの映像。
存在感の大きい船体にはまれに度胸があるのか、知らず識らずのうちに近づいてしまった生物達が時に顔を出してくる。
艦内は敵に見つからないようにするために最小限の大きさとなっている。
しかし、ひと昔前の狭い寝室や食堂。
最も重要な仕事場というものとは別れを告げている。
世間一般が働き方改革と言っている時期に軍内部も変わった。
その動きに彼らは歓迎をした。
以降は以前以上に退役する数は減ったという。
「隊長。現在以上ありません」
モニター監視の仕事をしている隊員は後ろで全体の指揮を執る艦長へ告げる。
「了解」
一方の別モニターの監視役は黙々と仕事を行っていた。
「交代だ」
モニターを見ている隊員の右肩をぽんっと優しく肩に手を置いた。
「は~。やっと昼食か」
朝ぶりの食事に気持ちが緩んだ隊員は両手を後ろにあげて体を伸ばした。
「今日はカレーだから金曜日だ」
「そりゃあ、良かった」
隊員の一人はカレーが大好物。
特に現在任務を共にしている艦のカレーは日本軍一の味。
午前の仕事を終えた隊員は席に立ち、後続の隊員へ任務を引き渡した。
「ピピピ! ピピピ!」通信音がモニター室に響く。
「機体右方向から接近!」別の監視役が艦の右からの接近に反応した。
「なんだ」
咄嗟に物体なのか。生物なのか。敵機体なのか。接近するものを求めた。
「分かりません」
右側カメラを見ても何も見えずにいる。見えるのは海中のみ。
しかし、GPSには反応が出てきている。
時間が一分一秒と過ぎていくにつれて近づいていく。
永遠と姿を見せないまま、艦内はキシキシといった音が響く。
上から亀裂が入り水は流れる。一回の見えない攻撃により機体は真っ二つに引き裂かれた。
潜水艦が攻撃を受けている頃には、すでに本土にある横須賀基地日本海軍本部に連絡が入っていた。
「指令! GPSから消えています」
通信部指令にGPS反応の消失を報告した。
「通信が途絶えた……」指令は速やかに将官へ連絡をした。
今日中に起こった件は、海軍将官会議に持ち上がった。
だが、海軍のみならず日本中で再び異変が起こっていたのはこれだけではなかった。
「あ~。またか」
配布された書類達を散らかした一人は呆れた顔でいた。
「塔の出現と言い、この国が標的になる理由は無いはずだ」手を卓上に組んだ一人が言う。
将官達は一方的に攻撃を受けている今、偵察以外に成す術はないと考える。
だがこれ以上の艦への攻撃と破壊は避けたい。
年々、軍事費が増加する一方している。
在日アメリカ軍基地へ支給する金額が増加している割合が多い。
加えて、艦の製造とメンテナンスで必要な材料や石油なども高騰している。
ほとんど自分達に還元される数も少ない。
会議の間も、現状報告の為に一人隊員が入ってきた。
「報告!横須賀近海上空に大隊規模の勢力が基地方向へ向かってきます」
「なんだと!?」
将官達は直ちに屋上へ上がって行った。
報告を受けた場所である海側を彼らは向いた。
そこには人間として、地球から生まれた生物として一度も見たこともない光景が広がっていた。
目視できる敵は全て上空にいる。
それは戦闘機やヘリコプターなどではなく、生身で浮いている。
「なっ、なんなんだ……」
最年長の将官は望遠鏡を通して、衝撃を受けていた。
一緒に登ってきた隊員達にもその緊張と衝撃が見て分かるほど手が震えていた。
勤続三十年を超える将官も前例がない。
将官達の脳裏にはつい一、二か月ほど前に出現した塔が思い出させる。
塔の出現以降、電波障害が徐々に広がって言ったという記録が彼らの脳内に記憶されている。
今回は直接戦いを挑もうかと思うほどの数。
平和ボケをしていたと改めて諭させられる軍人達。
兎にも角にも、再び広範囲の地域へ影響を懸念している。
それは国民へライフライン負担だけではなく、怪我や志望者の発生も心配されている。
「今すぐ、内閣府に連絡を! 緊急会議を開かねばならない」
将官達は各部署へ行き、敵の襲来を想定した態勢を全国に対して措置をとる。
連絡係の隊員達により、全国の基地などでは続々と戦闘機の準備。ヘリコプターの出発。
イージス艦達の緊急出航が行われる。
一人の将官は軍服のまま横須賀基地を後にした。
すぐ目の前にいる所属不明の集団に将官は怯えている暇は無かった。
塔の出現時と同じように、それ以上に軍内部で事を済ませたいという気持ちが強い。
しかし、結果としてはメルタ率いるアテナ達、陰光大学付属陰光中学の生徒によって塔においての作戦は終わった。
序盤で仲間を失った軍部だったが、参加した民間人達に被害は無かった。
だが、自分達が軍として毎日訓練を行っている意味がないと隊員達はいつもと違う空気に包まれていた。
元帥は公務専用車両から降りた。
国防省の入口を颯爽と早歩きする。
顔は省庁内外では公務員のほとんどが顔を知っている。
そのため、警備も軍服を着た彼をそのまま通す。
突然の敵襲来をしたマニュアルは以前から決められている。
しかし、現れていてもまだ何もしてきていない敵を目の前にして膠着状態が続いている。
大臣を含めた陸海空軍の会合は十数分で終わった。
目標は敵の拘束だ。血を一滴も流させずに。




