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妄想能力者と現実能力者の討伐戦  作者: 忽那 和音
Series3 UFW編
90/255

Episode 88

 学校やオフィス勤めの社会人達が多く休日を過ごしている土曜日の午後。

 街に現れる猫達も構内へ立ち入りしては木陰で昼寝をする。

 彼らの姿を見向きもせず、アテナ、ミツキ、エレン達は各々自身が抱える鉱石、神から恵与された力に似合う体力と技術。

 そして、精神を得ようと毎週末は訓練に勤しむ。

「皆、今日もお疲れ様」メルタは生徒達を労った。

 今日参加した生徒達をトレーニングセンターの中で最も広い場所に集めた。

 彼らは列に並びながらも、緩く座った姿勢で耳を傾ける。

 訓練後に生徒達には帰る前、簡単な検査を受けていた。

 その全体的な結果をメルタは口にする。

「順調に能力が向上しているわ。このまま行けば、以前発生した塔の出現よりも戦闘力が上がる」

 しかし、メルタは戦闘力が向上したとしても忘れてはならないことを言った。

「けど、これは人を救うためにある。それを忘れないでください」

 アテナ達の検査結果の全てはピエール、チェンヤオ達担当医師達にも共有されていた。

 現実で肉体的な訓練を行っている一方、精神科医による問診については夢の中でも訓練をしているという話が多くなってきた。

 以前までは夢にまで出てこなかった光景が現れたという生徒が多くなってきた。

 目の前に見えるのは学校や町。

 家など日常で目にするものではなく、塔の破壊・解体作戦でアテナ達が夢の中で見た光景と似ていると多く上がっている。

 しかし、学校生活で起きるのが辛くなったということではないと言う。

「僕達も寝てまで手術と問診とかしたくないよね」

 ピエールはデスクの椅子に座り背中に寄っかかりながら、両手を頭の後ろへ抱えた。

「まぁ。そりゃあそうだ」イザベルも納得して言った。

「俺はどちらでもいい」チェンヤオが言った。

「おお~いうじゃん。流石、仕事人間」イザベルが彼に感心する。

「でも、休み休み仕事をしないと。僕たちは人が相手だからね」ピエールの言葉に二人は納得した。

 陰光大学教育学部付属陰光中学・高校。

鉱石持ちの卒業生達からのデータを集めるピエール達。

 茶色のボブをした少女の背中はその年齢には似合わない重圧。

 必ず帰ってくる場所で見る表の顔は明るくしている裏側では人知れず抱えているものが何なのかは分からない。

 口外していない無形があることを自身も自由に生きている彼にも人知れず見えていた。

「ねぇ。そういえば、ナタリア。最近見ないけど、何か聞いてる?」

 体を解そうと器具を後ろに回しているイザベルが聞いた。

 勉強熱心で人懐っこい性格のナタリアは実習期間の初日にも、ピエール、イザベル。

 また普段取っつきにくいチェンヤオにも直ぐ打ち解ける人相手には無敵の才女。

 希和子が来てからは生徒同士、度々キャンパス内で会っていた。

 しかし、彼女の口からもナタリアについて聞いてはいないとピエールはふと思った。

「ナタリアなら、アメリカの大学院に編入した」

 チェンヤオがぼそっと言った。

 彼の一言以上に彼の存在を気づけなかった二人は驚いた顔をしていた。

「わ! チェン。いつの間に……。てか、なんでその情報を知っているの」

 イザベルだけではなく、ピエールとチェンヤオも彼女とは医学技術や知識にかかわらず話す間柄だが、彼女にはチェンヤオにだけ話す理由が分からなかった。

「ピエールはともかく、お前に話すといろいろと騒ぎ立てそうだからしばらくは言うなと」

 自身の明るい性格はいい面ではある。

 反面、リアクションの大きさに周りへ影響を与えてしまうという他社からの懸念を思いやれないのかと少々悲しく思った。

「そっか。私ってうるさいんだ」

 事務椅子の上で体育座りとなったイザベルは体を丸め、椅子を反時計回りに回っていた。

「まぁまぁ」

 本気で落ち込むイザベルにピエールはフォローした。

「でも、なんでまたアメリカに?」

 ピエールは疑問をチェンヤオに投げかけた。

 飛び級で大学を卒業した才女のナタリアだが、飲み会で聞いた話では彼女の家は両親が共働きで会社員として生活する家庭。

 さらに、弟と妹がいる。

 そのため、自身でバイトをしない限りは自由に使える資金もないはずだと、ピエールは考えた。

 チェンヤオの説明に上手く行き過ぎているが、半分は納得した。

 日本に医学部留学していた留学生が金持ちで彼女を渡米させたいと持った友人が自腹で留学するようにお願いした。

「どうだろうか。出来すぎている話だと思わないか?」

 説明をした自身もこれは出来すぎていると自覚している。

「でも、いいよな~。アメリカは設備も研究費も桁違いだから」

 彼女はまだ渡米した大学院生を心のどこかで離しがたい存在だと思っている。

 それは、戦友として。上司として。そして、師匠として。

「だが、大学院を卒業したら帰ってくるとは言っていた」

 しばらく、一人で周囲を賑やかにする女子大学院生とはお別れだ。

 三人はデスクワークを終え、忙しい現場へ戻って行った。

 高度の風が打ち付ける。

 下にはどこまでも広がる大海。

 頂上には掴めるほどに近い存在の雲。

 地上よりも寒い上空には浮いているだけで違和感があるにもかかわらず、布の少ない局部を支える衣類に胸元を肩掛けの無い胸部を包む黒い布。

 肌が空けるほど薄く黒い羽織ものは足元までの長さがあるもののただの寒気覚ましレベルのもの。

 これはただの性癖に刺さるような色気を増すものの要素でしかない。

 しかし、寒い様子を見せない彼女は上を組み、放漫な二つの実を両腕の上に持ち上げる。

 一度口角を上げる。笑みを浮かべた。

「ふん。今度は、私が、救って見せる……。必ず」

 口元は平常に戻った。だが、彼女の瞳から発せられるものは冷酷なものだった。

 無数に浮く人ならざる黒い霧を纏った者達。獣達。武器達。



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