Episode 76
「ピピピ、ピピピ、ピピピピピ……」
室内には電子音が響く。
空中に多漂う塵が光に照らされてよく見える。
「んんん~っ」布団から伸ばした手を時計頭部のボタン上に乗せる。
「ガチャッ」騒々しい朝を伝える知らせを停止させた。
「んむにゅむにゅむにゅんんんっっっっっっ!」
茶髪がかったボブヘアーの少女は寝ぼけ眼で布団から上半身を起こした。
朝起きたばかりで体は横で寝ていた時の跡が奥深くに刻み込まれている。
肩を動かした。
三分後には立ち上がり、ベッドの上をきれいに片づけた。
自分の部屋を後にした閏間 希和子。
「はぁ~あぁ! おはよぉ~!」
リビングに出て挨拶をしたが、そこには誰にもいない。
テーブルの上に何かある事を気づき、近づいた。
そこには一枚の小さいメモが置かれていた。
その文字は見覚えのあるピエールの字だった。
(今日は学会なので、遅くなります)
月に一回かたまに二回のペースで医師達の勉強・研修を目的として行われる。
昨晩、話を聞いていたが、今回は首都の方へ向かうという話だった。
希和子も県外で用事があると伝えていた。
しかし二人ともに用事が入っていたとしても、彼女の家事に影響は全くない。
そもそも休みの中に一週間と数日の食事の用意を済ませてしまう徹底ぶり。
共に忙しい生活を送っているもの同士、ある程度の生活に対する余裕を持つ事は彼らにとって大切な事だ。
希和子は洗面所へ行き洗顔、歯磨き、髪をとかした。
キッチンへ向かう。
朝食の作り置きとして事前に作っておいた食品を冷蔵庫、冷凍庫から取り出した。
食事作りは彼女に任せっきりのピエールだが、栄養素や塩分・油分摂取については厳しい。
台所で作っている時には横や後ろ。前などあらゆる角度から調理をする姿を見ている。
先週、醤油はこのくらいなど細かく計りで示していた。
「チンッ!」レンジの温め終了を知らせる音がした。
いつも使っているプレートに温めた食事をよそう。
朝食をテーブルに置いた。一緒にポータブルテレビを設置し、横に備え付けられている電源を入れた。
希和子は椅子に座り、朝のニュース番組を見る。
彼女は手を合わせる。
「いただきます」
手を付けたのは味噌汁。副菜。主菜。主食をローテーションで食べていく。
朝のテレビでは定番の今どきの情報を伝えるコーナーが放映されている。
「いや~美味しそうなフラペチーノですね」
大画面に映し出される街歩く人が手に持っている某有名カフェのロゴ入り透明カップとたっぷりのクリーム。思った事がある。
(うわ~クリームいっぱい……。お腹壊しそ~)
日頃から、通い詰めるカフェといえば、大学構内のお店でストレートティーだけを飲み物は注文している。
時にサンドウィッチやスコーンなど、サイドメニューを注文する場合もある。
しかし基本は薄味が好みのため、冒険はしない。
「ごちそうさまでした」手を合わせた。
希和子は手一杯に食器とお箸を運んだ。
そのまま、洗い場で食器を洗う。
寝起きのまま、食事を終えた希和子は自室へ戻る。
外出用の服に着替え、家の戸締りを確認した。
自宅を後にした希和子は燦陽駅へ向け歩き出した。
夏の虫が町に活気を与えている。
オープンショルダータイプの半袖にジーンズ素材の半ズボンを履いた装い。
健康のためにも外出前には、日焼け止めは必ず使用している。
リュックにも常備している。
歩いて二十分ほどでこの地域の中心となる路線が通っている燦陽駅南口に着いた。
ピエールが向かった首都。
希和子が向かう埼玉方面へ向かう山埼線の乗車券と特急券を購入した。
特急が停車するホームに降り立った希和子。
彼女は自動販売機が密集した場所に向かった。
「この時が来たのね……」
希和子の左手には購入した乗車券・特急券ではなく、一枚の五百円だった。
「行くわよ。閏間 希和子……」
コインの投入口に五百円を入れた。
そして、希望とする自動販売機型のガチャに無数あるボタンの一つを右の人差し指で押した。
「ガチャン! ピー!」
取り出し口にガチャが落ちてきた。
手を伸ばした希和子はすぐさま中身を確認した。
中には、誕生から七十年経った現在も多くの人々から人気のある怪獣ガメガンに登場するオスライだった。
メインキャラクターのガメガンを望んでいた希和子にとっては出てきた怪獣のストラップは予期せず出たものだった。
しかしこれも何かの縁だと思い、彼女は捨てずにとっておく事にした。
自宅で飲み物と軽食の用意をしておいた彼女はガチャガチャ以外に用はなかった。
ホームに特急列車到着の知らせが届く。
六号車前方出入口の列に並び、車両内に入って行った。
座席に着いた。一時間ほどで到着する浦和に向かう。
スマホを取り出した。
画面にはメッセージアプリの通知が複数件表示されている。
その中には、アテナ達が作った希和子と連絡を取るために作ったグループからのものもあった。
乗車時間を使い、連絡を取り合った。
「まもなく~浦和中心。浦和中心に到着します」
希和子は下車の準備をした。
彼女の荷物はリュックのみと身軽な格好。
背負い席を立った。
長時間停車しない。
下車する客は停車駅に到着する直前に出入り口で待機する。
希和子も下車の列につながる。
特急列車は停車した。
「ピコーピコー」出入口が開いた。
キャリーバッグを持った乗客を先頭に次々と下車をしていく。
希和子も続いて埼玉のホームに降り立った。
燦陽駅など最寄りの駅や地元の駅にはその土地の名産品の広告が目立っていた。
首都が隣接している埼玉にはちょっとした都会を感じた。
希和子はホームで空気を吸う。
「ガス……か……」
エスカレーターで下り改札を後にする。
自宅に届けられたパンフレットに載せられているマップを見て、行先を確認する。
陰光とその付近だけで基本、生活をしている希和子にとっては人が倍近く多いこの地は頭が混乱してしまいそうになる。
しかしその事も織り込み済みで、彼女達は場所選びを行った。
駅に降りて十五分後。
希和子は展示会場のビルへ着き、エスカレーターで移動していた。
「はぁ! 希和子ちゃ~ん」
「アテナちゃん、ミツキちゃん」
展示場所の十五階に着いた。




