Episode 75
放課後の陰光大学教育学部付属陰光中学。
各部活が練習の声かけが響く。
校舎には作業の物音が聞こえる。
クリエィティブ部活・MUSEは、夏に開催予定の個展へ向けて、作品作りを進めていた。
展示物の制作の他、パンフレットの作成などやる事はまだまだある。
顧問のマリンから紹介された施設は使用可能となり、週末にもアテナ、サーカ、エレン。
付き添いの教員役としてマリンが埼玉へ向かう。
作業中の二年い組。廊下を走る一人の音が建物内に響く。
「ガラー!」扉が開いた。
「ねぇ。皆!」
勢いよく、教室に入ってきたのは女子ソフトボール部とMUSEを兼任しているアテナのクライストメイトであり、友人のミツキだった。
「どうしたの? ミツキちゃん」
作業中のトリンドルがミツキに聞いた。
「もうすぐ、イベントがあるんだ」
ミツキの言葉にエレンは呆れて、それ以前の事を言った。
「ミツキ、その前に廊下を走らないで」
ルーム長という立場と責任感からミツキに注意をした。
ミツキはそう簡単に反省をしなかった。
「そんな事を言っている場合じゃないんだ」
すぐさま反省をしないミツキにもう一度注意する。
「私は、走ると誰かと当たる可能性が否定できないから言っているのよ」
だが、それでも彼女は聞く耳を持っていなかった。
「それでね……それでね……」後輩達へ話を続けていた。
悪い先輩の背中を教え込まないようにと、エレンの堪忍袋の緒が切れた。
「人の話をちゃんと聞けー!」
「あ~れ~」
エレンの拳はミツキを天井の外へ追いやるものの勢いを持っていた。
実際はブロック三枚分の距離を離した。
この一発に反抗する事はなく、ミツキはルーム長の言う事を聞いた。
途中から来た人には何かを勘違いされる態勢をとった。
ミツキは地面に正座となり、下から仁王立ちのエレンを見上げる姿となった。
「すみませんでした……」謝罪の言葉とともに、彼女へ向けて土下座をした。
「分かったならよろしい」サーカは後輩達を集めて教えた。
「皆、あの二人の友達関係を真似してはいけないよ」
小さい声で言った彼女の注意文は、新入りの後輩達に刺さった。
トリンドルはミツキが入室直後に言った事を聞いた。
「ミツキちゃん。さっきは何が言いたかったの?」
ミツキはエレンからの愛のある説教の事で頭が埋め尽くされてしまった。
「えっと~えっと~」この言葉が二十回ほど繰り返された。
彼女は先ほど言い逃した話を思い出した。
「あのね、外にごみを捨てに行ったら、なっがーい竹が軽トラに乗せられていたの。丁度、メルタ先生に聞いたの」
副校長のメルタによると、もうすぐ七夕があるという。
そこで使う竹を譲り受けた。
「なんか、今年は豊作だったらしいよ」ミツキは言った。
「へぇ~」
アテナは去年には無かった七夕の竹というものの話に感心していた。
「でも、竹なんて。ミツキちゃん。そんなに興奮して……。ついにそんな時期が来たのかと……」
サーカはうっとりした顔で頬に手を付けていた。
「サーカ。この前の一件以降なんかおかしいぞ。どうしっ――。ふっ?
ふんがうぶふがぅ」
慧が話をしている途中で後ろから何者かに口を塞がれた。
塞いだのは、トリンドルとバンだった。
「あれ? どうしたの、二人とも」後ろを振り向いたサーカ。
「あはははは……」不自然に笑うトリンドル。
「なんでもない……」バンもトリンドルの援護で言った。
「ふん? まぁ、いいか」サーカはミツキの方へ顔を向け直した。
口が解放された慧は小声で言った。
「どうしたんだよ。二人とも、なんか悪い事言ったか?」
トリンドルも本人に聞かれないように小声で言った。
「うん。大有りだよ」
バンも言った。
「とりあえず、人のセンシティブなところに突っ込むのは避けた方がいいな」
その後も詳しい事を慧には言ってもらえなく、不満に思った。
ミツキ達は続けて話した。
「七夕に竹といえば、そりゃあ。願い事だよ」
エレンはその話について言った。
「ミツキ、何かお願いしたい事でもあるの?」
「それはもちろん。それは……」
日ごろからムードメーカーで時に周りを怒らせてしまうアンガーメーカーでもある。
彼女にも七夕にまでお願いしたい事もある。
それはよりソフトボールのプレーが上手くなる事。焼き肉に行く事だった。
「いや、ちょっと待て」エレンは急に人の言った願い事について突っ込んだ。
「どうしたんだよ。エレン」
「いや、あなた。しょっちゅう焼き肉に言ってるものかと……。お肉食べてないの? へぇ? え!?」
エレンの驚きは止まらなかった。
「何か勘違いしてない? 私、焼き肉を食べていないだけで、お肉はがっつり食べてるよ」
人の補足も虚しく、エレンは親友の質素な食事事情に涙した。
「そ、そうだったのか……。ぐじゅん。今度、焼き肉おごってあげるよ」
完全に経済の理由で食べられないものと勘違いしている。
ミツキは何度も訂正している。
現在、エレンの耳は一時的にミツキの都合の良い話を受け付けていない。
その会話が、十分超えた段階から、エレンとミツキ以外の部員達は作業に戻った。
七月七日・七夕当日。
正面玄関には、大きな竹が正面玄関前に飾られていた。
生徒数が多いため、合計で三本が飾られている。
ミツキは目の前で両手を握りしめていた。
「うわぁ! ついに……。ついに……」
待ってましたとばかりに、決まりきった台詞を言おうとするミツキ。
運命は彼女にはゆだねられなかった。
「飾れるぅ~!」
「私のセリフをぉ~!」
見ず知らずの生徒に自分が言おうとした事を取られてしまい、そのグループに殴り込みしそうになる。
「まぁ待て待て」
慧に後ろから肩を抑えられた。
危機一髪。
一つの物事が起こる事を防ぐ事ができた。
クリエイティブ部活・MUSEの部員達は顧問のマリンも加わり、竹に短冊を飾った。
皆、個性的な願いを書いた。
『沢山泳げますように!
トリンドル・クリア・ウォータル』
「トリンドルちゃんらしいね」
アテナはいつも通り、水泳好きのトリンドルを応援した。
『もっと、体力が増えるように
バン・ヘルメス』
「怪我には気を付けてね」
サーカが、さらに体力を増やしたいと願う彼の体を心配した。
『健康第一
エレン・クピードー・ジョンソン』
「結局は何事も自分の体が一番だよな」
慧は納得して言った。
『目指せ、全国優勝!
金城 慧』
「目指すんじゃなくて、するんだよ」
ミツキは関連した種目のプレイヤーとして言った。
『沢山の作品が作れますように
アテナ・ヴァルツコップ』
「いいね。頑張れ」
マリンはにこやかに彼女やMUSEの背中を押した。
『皆と沢山、楽しい思い出ができますように
マリン・ヘルベドール』
「何事も楽しく生活したいものですね」
トリンドルは今後の生活への期待を持って言った。
皆、思い思いの願い事を書いた短冊が続々と飾られていく。
そんな中、竹が到着した直後から気分が高揚しっぱなしだったミツキの短冊をアテナは気になっていた。
彼女のもとへ行き言った。
「ミツキちゃん、何書いたの?」
エレンは腕を組みながら口にした。
「どうせ、おなか一杯ご飯を食べられますように。でしょ」
「……………………」
珍しく反応の無いミツキ。
一歩足を踏み出し彼女の書いた短冊をじっくりと見る。
何も言わず短冊を飾る。
ミツキが結び終わった後にアテナ達は、短冊の内容を確認した。
そこにはソフトボールのプレーが上手くなる事でも。焼き肉を食べる事でも。おなか一杯ご飯を食べる事でもなかった。
『今すぐ、漫画肉が食べたい……。
ミツキ・ペーター』
「ミツキ、何書いてんの?」
エレンは口に出してしまうほど、今書く内容かと疑った。
「ぐぐぐぅぅぅぅぅぅ~」ひどい獣の音がした。
「もしかして、もう。おなか空いちゃったの?」アテナは聞いた。
「うん……」ミツキは首を縦に振った。
「あとで、私のおにぎりあげるよ」
トリンドルから予備として持っていた大きなおにぎりをもらった。
「ありがとう。トリンドル」




