Episode 68
(あれ……、私って……。何してたっけ……)
アテナは一人ひとりの顔を思い出していた。
(ミツキちゃん……、エレンちゃん……、慧くん……、トリンドルちゃん……、バンくん……、サーシャ先生……、メルタ先生……)
さらに病院の医師達の顔を思い出した。
(ピエール先生……、チェンヤオ先生……、イザベル先生……)
作戦開始時にいるはずがなかった彼女の顔も思い出した。
(希和……子……ちゃん?)
アテナの目の前にいる希和子は口を開いた。
「神の力、覚醒は近い……」
姿は希和子だった。しかし、声のトーンがとても低く、同一人物だとは思えなかった。
「待って! 希和子ちゃん、なぜあなたが」
「我は希和子にあらず。我は……」
目の前にいた希和子の姿をした人物は名前を聞く前に辺りが明るくなった。
前方には白に防音用に開けられた不規則な穴。
この天井を見たのは一体、何回目なのか。
アテナは現在地を第三者から聞かずとも確信していた。
ここは陰光大学医学部付属病院。
「はっはっはっ、いっあれ……、私って……。何してたっけ……」
アテナは一人ひとりの顔を思い出していた。
「ミツキちゃん……、エレンちゃん……、慧くん……、トリンドルちゃん……、バンくん……、サーシャ先生……、メルタ先生……」
病院の医師達の顔を思い出した。
「ピエール先生……、チェンヤオ先生……、イザベル先生……」
作戦開始時にいるはずがなかった彼女の顔も思い出した。
アテナは起きようとした。
その姿は作戦時とは大きくかけ離れた格好となっていた。
左右の頭上には、箱型の機械が置かれていた。
両方ともアテナには、分からない数値などが沢山表示されていた。
肝心の胴体にはタオルケットがかけられていた。
体中から感じる感触は気恥ずかしいものだった。
「失礼しま~す」女性の声がした。
「アテナちゃん、イザベルだよ。入ってもいい?」
今回の作戦で医療チームの一人として参加していた医師のイザベルの声だった。
「あっ、はい。どうぞ」
アテナは戸惑いながら返事をした。
彼女は目隠しの為に広げられているカーテンの間から入って来た。
「やぁ~声を聞く限り元気そうだけど、気分はどうだい?」
「はい、大丈夫です」
イザベルは機械の数値を確認した。
「ふぅ~ん、よし。安定している。聞きたい事は山ほどあるとは思うけど、まずは身の健康だ」
起こすなり、アテナの体中に貼られていた機械を回収していった。
服は母が病院までやってきて届けに来てくれた。
イザベルがアテナの病室を後にした。
籠に詰め込んだ服に着替え、院内の食堂へ行き朝食を食べる。
イザベルから貰ったサービス券を持って食堂へ向かった。
起きて最初に食べるには胃に負担がかかるものが多く、選ぶのに困っていた。
「えっとーう~ん。朝にしてはなんか重いものばっかりだな~」
「あっ、アテナちゃん……」
左耳から自分の名前を口にした落ち着いた声がした。
声のした方向を見たアテナ。
その目の先には私服姿の閏間 希和子がいた。
希和子は涙目になった。
アテナの方に駆け寄ってきてた。そして、抱きしめた。
「きっ、希和子ちゃん?どうしたの?」
「よっ良かった……、本当に……本当に心配したんだから……」
塔が崩壊し、敵のキュバリルを倒した後の状況を知らない。
アテナにとっては、自身を抱き寄せてまで心配をさせた事が身に起きた事は何なのか。
その時には理解できなかった。
心配してくれた友人に感謝をした。
アテナは希和子の背中に手を置いた。
「ありがとう……心配してくれて……」
感情が収まり、アテナは朝起きて一番に食べるものを選んでもらった。
「そうだな~。無難に鮭の塩焼き定食はどうかな?」
「鮭か~。いつも、魚の骨を取るのが苦手で、こういうのはいつも食べないんだよね」
アテナの家は決まって、朝は洋食。グラノーラ、サンドウィッチ。たまにオールミート。和食が嫌いという事ではない。
両親の好みがクリームやチーズを使ったものが多いから、このような食生活となっている。
朝に骨取り作業をするのは億劫に感じていた。
彼女の反応を見て彼女に言った。
「なら、私が骨を取ってあげるよ」
「いいの? それなら、私も食べられるよ!」
希和子の提案に甘え、迷う事の無い手さばきで鮭の塩焼き定食を頼んだ。
注文した食事は数分後に出て来た。
患者用のサービス券だったため、これまでの栄養を考えた副菜やドリンクが追加になっていた。
「はい、しっかり食べるんだよ」
食堂のおばちゃんポジションのベテランパートから食事を受け取った。
「ありがとうございます」
希和子はピエールから苦手だと言われ、貰ったベジタブルジュース by 青汁を持ってきた。
「いただきます」
手を合わせ、箸を右手に持った。
最初に手を付けたのは、みそ汁だった。
美味しい表情を見せるアテナとは反対に、なんとも言えない野菜ジュースを飲んでいた希和子は顔をしかめっ面にしていた。
「アテナちゃん、美味しそうで何よりだわ」
「希和子ちゃんは大変そうだね」
「ええ……、偏食のピエールが飲まなくても良かったわ。野菜は私の手作り料理で摂取していくしかないようね」
「え~。僕、永遠と希和子ちゃんに栄養管理されちゃうの~~。嬉しいな~」
希和子の背中にはいつの間にか、ピエールがいた。
「あっ、先生」
「おはよう。というより、こんにちは。っかな」
ピエールの言葉に疑問を感じた。
「えっ。でも、朝日が……」
「あれは、夕日だよ」
アテナは慌てて時計を見た。
そこには五時半と表示されていた。
勘違いをしていたのはアテナだった。
「えっ、えっ、え? えええ、ええええええ、ええええええええええ……」
「あ~。まだ、詳しい話をしていなかったね。丁度いい。ここで詳しい事は話すよ」
ピエールは食事中のアテナにこれまで事を話す。
詳しい機能などはメルタやサーシャに聞くとして、石の力で皆を基地に移動させたアテナはそのまま倒れた。
その後他の参加者や隊員達のうち何人かは負傷したものの、命に別状はない。
それはアテナを除いての結果だった。
アテナは作戦終了後・三日後の今日に目覚める。
その間は栄養失調にならないようにと点滴が打たれた。
寝ている間も検査はしたが、幸い問題は無い。
チェンヤオ曰く、疲労による睡眠だと言った。
「という事だけど、これである程度は分かった?」
「あっ、はい」
「ならよし」
ピエールはまた明日。
検査したいという事で、一週間近くは入院してもらうと言われた。
希望があれば、四人程度であれば訪問を受け入れる。
アテナもその方向で学校復帰を目指す事にした。




