Episode 67
アテナ達民間人を含めた塔の破壊・解体作戦開始、二時間前。
後発隊第一分隊の出発前。
生徒達の引率として参加するメルタと医療チームの一員として参加するピエールが施設内で話をしていた。
これまで、生徒達が倒れた理由も話されないまま昨年の夏。
水泳の授業中に気絶した生徒達を皮切りに半年にかけて、次々と大学病院へ搬送されてきた。
まさかその重要人物として遠い親戚ではある。
学校関係者でもある身内がこの件に関して関わっているとは思ってもいなかった。
関与の可能性は否定できなかったが、生徒達のデータと証言の収集・分析。
先日生徒達が付けている装飾品に関する資料を得た事により、確証が得られた。
紛れもなく、アテナ達が異世界の力に目覚める力を与えたきっかけを作ったのはメルタ達教員と彼女達とつながっているサムシングクラウド株式会社・前社長、リチャード・A・ハリソン。
生徒達にメルタがこのような行動をとらなければならない原因となったのは現在、海上に出現した塔。
出発前にピエールは聞きたいとこがあった。
「メルタさん。このまま子供達を異世界に行かせるなんてしないよね」
手すりに腕をつき、窓越しに海を見る。
「それはないわ。断じて」
メルタは真っすぐ、ピエールの方を向いて言った。
「じゃあ、なんで前々からこの計画について教えてくれなかったの?」
ピエールは少々感情の入った言い方で続けた。
「僕はこの計画について賛成はしなかったと思う。けど、こんな事になるのであれば少しは力になれたはずだよ」
悔しい気持ちの入った言葉が出てきた。
「受け入れてもらえると思っていなかった」
率直な気持ちを口にした。
実際にそれはありえる話だ。
ネット上の都市伝説程度ではあるが、陰光は怪しい。
何か裏があるだの根拠のない情報は匿名回覧板ページには複数書かれている。
それはSNSでも同じ事。
塔の出現以降もトレンドやランキングに学校名や個人名は掲載されていない。
心当たりはメルタも全くなかった。
現在、アテナ達の力を知っているのは彼女自身、メルタ主導の研究チーム。
先日提供会社から受け取った書類を目にしたピエール、チェンヤオ、イザベルのみ。
仮にこの事が漏れた場合に大手から個人までメディアが許可のありなしに関わらず、学校外に殺到する危険性があった。
メルタやピエールも何としても情報を漏らさないようにと思い、これからも行動をしていく。
最後にピエールは口にした。
「メルタさんって、お母さん。違うところから来ているんじゃないの?」
メルタは口を鈍らせた。
「そうよ……。私の母は地球でなく、いくつかある惑星出身。詳しくは話してもらえなかったから分からない」
「そうなんだ……」
親戚との交流が薄いピエール。
年齢の若い家族達の間ではメルタの家族だけ違うと言う話を聞いていた。
こちらも根拠がない。
友人同士の人伝いでは通常の人では持っていない異能力を持っているという。
確証の無い話には興味が無かったが、この一件ではっきりした。
今、この国で最も情報の取扱いに気を付けなければならない人物はメルタ・エーマンだという事。
その後、メルタ達の後発隊第一分隊と第二分隊が基地を出発した。
塔がもろとも崩れ、アテナが所有する女神の力が覚醒した。
(これが……、石の……)
作戦終了後。
アテナの力による転送でメルタ達は基地海岸部に戻ってきた。
帰還した参加者のメディカルチェックを終えたアテナ達は休憩室にいた。
仕事を終えたピエールも休憩室のベンチで休んでいた。
「はい」
ピエールの近くに寄ったメルタは冷たいミルクティーを渡した。
「社会人の中ではこういう時、ブラックコーヒーを渡すものかと思ってた」
唐突に社会人の間で正誤の分からない常識を言った。
「けど、あなたコーヒーとか苦いもの飲めないんでしょ。あなたのお母さんが言っていたわ」
メルタから見たら再従姉妹にあたるピエールの母。
両親はピエールとは違い、親戚とは連絡を頻繁に取っているとは聞いていたが、ここまで自分の事を知っているとは思ってもいなかった。
メルタはピエールが座っている横に長いベンチに座った。
「あなたのお母さん、お父さん伝いでは、ピエールの事は聞いているわ。私も赤ちゃんの時は見に行ったし」
次から次へと自分の知らない話が出てくるメルタには驚いてばかりいた。
「うちの家族に、僕はなじめない。あの重苦しい空気に」
ピエールは俯きながら言った。
「それは分かるわ。でも、あなたの事を知りたいと言う親戚もいるわ」
両親以外の家族と会って話す気持ちになれないピエールに強制するわけでもない。
ただピエールに対して親族が思っている事をありのまま述べた。
その言葉にピエールは緊張のあった口元が緩んだ。
「そっか……」
ピエールは顔を上げ、奥の休憩室でアテナ達と話す希和子を見た。
ミツキ、エレン、バン、トリンドル、サーカ。
先に基地へ帰ってきた慧とトリンドルの中学生と同年代の希和子達と作戦後の雑談をしていた。
「ねえ、希和……」
「何、ミツキ……」
希和子とミツキは間地かで見つめあっていた。
「希和子のおっぱいって何カッぶしゅぅぅぅぅぅ!」
「変態!」
希和子は躊躇せずミツキの頬にビンタをした。
「なんで、同年代の女子にカップ数何で聞くの?」
希和子は珍しく声を大きくして怒った。
「そもそも、成長期だから数字何て分からないよ」
体の成長期真っ盛りの希和子は毎日身長が伸びているはずだった。
(そうかー。分からないのか。ははははは……)
希和子だけには聞こえた。
ピエールの体に関する数字が分からないのかという言葉を。
彼女はミルクティーを手にしている成人男性をじーっと見つけた。
「じじじじじじじじじじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「あはははははあはははははあはははははあはははははあははははは」
彼の周りはお花畑化していた。
「はー」
希和子はいくら時間を費やしたところで、大した話ではないと後々の追求を諦めた。
希和子の周りでは話が続いていた。
「ミツキ、おふざけも過ぎるわよ」
エレンがルーム長として、小学校からの友人として叱った。
「だってー、希和って私達よりも同じくらいというか、詳しく言ったら下なのにアラサーのピエール先生と暮らしているんでしょ」
半分反省しているふりをしながら、体育座りになり言った。
「だから何よ」エレンは聞き返した。
「そりゃ、何もないわけないでしょ」
「へ?」彼女の言葉にエレンの頭は理解する事ができなかった。
ミツキは立ち上がり、エレンの右肩に手を置いた。
「まあまあ。ご本人様がいる前では失礼だから、後でコーヒーを飲みながら話してあげるよ」
「私、コーヒーの飲めないけどね」
解散後、男女が一つ屋根の下に住む事はこういう事だという事を教えられ、エレンはしばらく希和子に会う度に恥ずかしがっていた。
(年上男性と小学生の年齢と代わりのない女のこが一つ屋根の下……。良いわ、妄想が膨らむ!)
サーカは何やら、実話を用いり何か発想を膨らませている。
希和子は彼女達の反応に何か勘違いされていないかと思った。
「ごめんね。希和ちゃん。皆、うるさくって……。まだまだ血気盛んな頃だから、ちょっとした情報が入るとこうなっちゃうんだよ~」
トリンドルがミツキ達の代わりに謝った。
「うんうん。大丈夫……」
希和子は首を横に振った。
(かっかわいい!!)
キラキラした瞳で希和子を見ていた。
不思議そうにキラキラしたトリンドルの目を不思議そうに見ていた。
「しかし、今回の作戦は勉強になったな」
バンが落ち着いた声で言った。
「ああ! これで俺達もこれから国に関われるんじゃ……」
作戦終了直後にも関わらず、今か今かと奮い立たせていた。
「それは impossible ね」
ポーレットはそれを否定した。
彼女曰く、今回の対応は会議に一般の隊員と扱いが一緒と言っていたが、完全にお客様を連れた隊員の対応だったという。
「うちの軍はもっと、荒々しく常識の無いものばっかりよ。所謂、Horses and deers よ」
「それを言うなら、馬鹿だね」
「いや、それも違う」
ポーレットの言い間違いによる英語が生まれた。
トリンドルが日本語に言い間違えしたものを、バンが正しい表現を言った。
英語訳を求められた際にポーレットが意図を理解しながらも、放送禁止用語を言い出さないか不安になったため、解散後にネットで調べてと言った。
その後のポーレットの反応はこのようなものだった。
(バンって、紳士的なのね……。ズキュン!)
バンの耳からはしっとりとした大人の女性ボイスが流れた。
辺りは暗くなり、基地内にいたミツキ達はその日のうちに自宅へ帰宅した。
陰光大学医学部付属病院・病室。
広い部屋の中に一人の中学生が寝ていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……。こっこんな……こんなところで……死ぬわけには……。国を守らなきゃ……」




