Episode 53
黒の塔が出現して二十四時間経過。
出現から十八時間後に出発した偵察や調査を目的に構成された第一特別分隊の消息不明となり四時間が経過していた。
十分間隔で起こる電磁パルス攻撃の影響でうまく位置がつかめずにいた対策本部は今後の調査に難航していた。
出現時は海岸沿いまでで治まっていた規模も現在は神奈川、静岡の全域まで広がってしまった。
さらに東京の南部の一部にまで広がってしまった。
軍の技術者や大学関係者はこの状態が続けば、一週間以内で十分間隔がより短く、攻撃時間の無い時間が発生する事。
日本全国に影響が起こりかねないと証言する。
また、ライフラインの影響も回避できない。
ここまで影響の広がった黒い塔の影響だが、一部の政治家からは塔の詳細は伏せようとする。
国民にはしばらく建設中のビルなどと嘘の話を広げている。
軍から出される情報もそこまで多くは語られていない。
国民はマスコミの次に政治家からの話を受け入れる傾向となってしまった。
日本国内は黒い塔の出現によって、機関、団体、市民の間で混沌を極めていた。
陰光大学医学部付属病院。
病院はまだ塔から発せられている電磁パルス攻撃の影響を受けてはいなかった。
患者達の中にはいつ来てもおかしくないという心配の気持ちや声が徐々に大きくなっていった。
それは勤務する医師や看護師、医療従事者も一緒だった。
主に継続的に機器を使いながら治療しなければならない患者達がいる。
彼らの一時的な医療の避難も幹部では考えているという噂が院内で浅くではあるが、心配と一緒に広がっていた。
イザベルは小児科の入院患者のベッドを回っていた。
「ねえ、先生。病院って止まっちゃうの?」
本を読んでいる女の子が声をかけて来た。
子供には大人がそこらじゅうで井戸端会議をしている話をすぐに耳にしてしまう。
親に心配をかけまいと、誰にも話していなかった。
察したイザベルは言った。
「最悪の場合ね。でも、必ず皆の事は守るから」
休憩に入った。医局の休憩室へ来た。
「はぁ~ただいまぁ~」
イザベルは疲れた顔をして医師達のデスクが集まった部屋に来た。
「ここはお前の家ではないぞ」
チェンヤオはイザベルに家の感覚で戻って来てそれに加え疲れたような声に一言言った。
「仕方ないよ~。皆、良く分からない観光名所にもならないようなタワーが出てきてっから不安だよ~、心配だよ~、怖いよ~って感じなんだから」
事務椅子を逆に座り左右に揺れながら移動する。
「ふんふん、それは大変だね~」
ピエールは昼食の弁当を食べながら、パソコンを見ていた。
「あ~。いいな、手作り弁当」
イザベルがピエールの食べている弁当をおいしそうに見ている。
「少し食べる? タコさんウィンナーだけど」
「いいの!?」
イザベルは素手でタコさんウィンナーをつまんだ。
「いっただきま~す! はむっ」
頬張るように食べる。
「いいな~、希和子ちゃん。料理もできて……って。ピエール、何見てんの?」
イザベルはピエールの見ている画面を見ていた。
「あっ、これこの前の……、もしかして、希和子ちゃん以外の子と付き合おうと……」不倫的な事を盛りだそうとする。
「ぶしゅ!」チェンヤオは飲んでいたコーヒーを出す。
「どうしたんだよ」急に噴出したチェンヤオをイザベルは心配した。
「いっ、いやなんでも……」顔と服を汚したチェンヤオは席を外す。
「そういう事じゃないよ。ほら、ここをよく見て」ピエールは以前チェンヤオや希和子。
友達となったアテナ。ミツキ達と一緒に行った遊園地の時に撮った写真の画面を拡大し、さらに注目してほしいところを指差した。
「うー」イザベルはよく見る。
先に説明を進めるピエール。
「ここに、ブレスレットがあるでしょ」
「あっ、本当だ」ようやく、存在を気づいた。
「あと、こっちはペンダント。これはイヤリング、髪飾り」
「なんで、皆似たようなデザインのものを……。もしかして、一件に関係が……」
「無いとは言えない」
終業式後に倒れていない生徒の検査も行い、一概には言えないが比較をしていた。
唯一つけていない生徒と比較しても脳の一部の発達が異常だった。
外的な部分で何処か違うのではと調べ抜いたピエールは今回の遊園地で一緒に出掛けようという提案に乗った。
最初は希和子からの突飛押しもない提案だと軽く見ていたが、いざこのような状況となった今では彼女には感謝しても仕切れなかった。
ピエールは希和子に連絡を入れ、ブレスレットの件について聞き出すようにお願いをした。
放課後。
アテナはメッセージで希和子から放課後にカフェに行きたいと書き、エレン、サーカと一緒に集まった。
「希和ちゃん、元気~」希和子に声をかけたアテナ。
「うん。あれ以降は体調大丈夫?」
「元気だよ」エレンが言った。
「ありがとう、希和ちゃん」
サーカも心配してくれた希和子に感謝した。
各々注文した後。希和子は彼女達が身に着けているアクセサリーについて聞いた。
「ねえ、アテナちゃん。そのブレスレットってどうしたの?」
緊張しながらも何かあれば誰かの頼みで気になっていたと言えばいいやと謎の精神安定となる理由を持って聞いた。
彼女達は何の怪しく思わない顔で話した。
その日の夜。
「コンコンコン」
「どうぞ~」ピエールが答えた。
部屋の中に入って来たのは希和子だった。
「ピエール。今日、聞いて来たわ。裏にある会社の存在がある」
話し言葉で聞き出しを進めた希和子は帰宅後、パソコンで分かりやすいように提供会社などの資料を集めた。
既に印刷済みで十枚ほどのファイルとなった。
ファイルを受け取ったピエールは中身を見た。
「サムシングクラウド株式会社、取締役社長・リチャード・A・ハリソン……」
「ピエール……、一人で行くの?」
「いいや、チェンと一緒に行くよ」
ピエールとチチェンヤオは有休をとり、提供企業として名前があがっているサムシングクラウド株式会社・取締役社長のリチャード・A・ハリソンを尋ねた。
彼らは生徒達が倒れた理由を知っているかもしれないと思ったからだ。
二人はエントランスに話を聞いた。
まず切り出したのはピエールだった。
「すみません。リチャードさんっていらっしゃいますか?」
「申し訳ございません。リチャードは既に会社を退任しております」
チェンヤオは続ける。
「実は、こういうものでして……」
二人は名刺を取り出した。
「陰光大学教育学部付属陰光中学・高校の生徒達が体育祭以降倒れておりまして(これで話をしてくれるのか)」
心中は完全にダメ元の気持ちになっていた。
「分かりました。リチャードから会社を出る前に関係する方に見せるようにと残してくださった資料があります。ご案内しますので少々お待ちください」
応接室に案内されたピエールとチェンヤオは暫く待たされた後、生徒達が身に着けるアクセサリー、厳密には特殊な製造方法で作られた石に関する資料を受け取った。
「こっこれは……」
「この資料を悪用するのも、善い行いの為にするのも、あなた達の自由です。いい方向に使っていただけるよう、信じていますと前社長が言伝としてお願いをされておりました」
三百ページを超える分厚い資料を持つには電車一本で来たにも手が疲れそうだった。
希和子からいつもレジ袋は有料だからと持ち歩くように入れておいた袋が役に立った。
帰って来た二人は本格的に生徒達の気絶と石の関係性と原因について研究を始める。




