Series 1 Epilogue
テスト明けの数日後。
アテナ達MUSEは教室にて本年度最後の個展制作へ取り組んでいた。
放課後にはほとんど生徒は残っていない。
補修の生徒は南棟。
部活の生徒達も部活棟や各種屋外競技場。
帰宅部の生徒達はほとんどいないが、塾に通う生徒がほとんどでお昼過ぎくらいから開館している最寄りの塾へ行く生徒がほとんどだ。
そして、一学年の教室に残っている生徒はほとんど居らず、特定の活動場所の無いクリエイティブ部活・MUSEは一年い組で卒業式・終業式前に行う予定の個展の準備をしていた。
「シャー!」
勢いのあるドアの開け方に作業中のアテナ、トリンドル、サーカ、エレンは驚いた。
しかし、同じくその場にいたバンだけは無表情だった。
「ミツキ、学校のものを壊さないで」
エレンはミツキに注意をした。
「ごめん、ごめん」
ミツキが申し訳なさそうに謝った。
「ところで、勢いよくどうしたの?」
トリンドルが訊いた。
「あー。なんかね、自販機でいちごウォーターを買おうと思ったら、違うのが出てきて……」
そのように言うなり、ミツキの手から出てきたのはペットボトル。
しかし、全体的に黒いラッピングをされて、一般的な飲料パッケージにロゴや標品名の総称などが印字されている部分にはてなマークがプリントされたものだった。
皆、大きな違いを感じていた。
購入前にお目当ての表品を購入しようとボタンを押したのにもかかわらず、違うものが出てくる事は恐らくない。
成分表の表記もないこの商品の内容は購入品と変わらず、いちごウォーターなのか。
また、とある雑貨屋さんで売られている食べ物の香りがする消しゴムのような何かの食べ物の味のする飲料なのか。
あるいは、洗剤など非食品、非飲料なのか。
購入者のミツキと教室で作業していたアテナ、エレン、トリンドル、サーカ、バンは考えた。
「一回蓋を開けてみるのはどう?」
アテナが不安げに提案した。
それはいつにもまして超がつくほどの慎重なものだった。
「そう、だよね……。開けてみよう! べっ別に……、口に入れるっていう訳では無いし……」
ミツキは恐る恐る、ペットボトルの蓋をゆっくりと開けた。
蓋を開けられたペットボトルの中身の匂いは無かった。
「こういう時って、科学的な嗅ぎ方をした方がいい?」
ミツキは部員達にアイコンタクトをしながら問いかけた。
「まだ、口に入れてもいいものだという確証がないから、念のために」
トリンドルはまだ確証の無いペットボトルの内容を確かめる方法として慎重に嗅ぐ事を勧めた。
ミツキは手を仰いで嗅いだ。ミツキの鼻はピクピクと少し動いていた。
「どう?」
理科的にペットボトルの内容を嗅いだミツキにサーカが訊いた。
「う~ん、洗剤ではない……。多分飲めると思う……。あと、フルーティーな匂いが……、飲んでみようかな……」
いよいよ、ミツキが謎の飲み物を飲もうとした。
ペットボトルの淵が近づく。
それはとてもゆっくりとしたものだった。
そして、謎の飲料がミツキの口びゆっくりと含まれた。
「いちごだ……」
ミツキはボソッと言った。
皆、一回でミツキの言うとこを聞き取とれたが、購入品の内容偽装という生徒にとっては数少ないお小遣いを無駄にせずに済んだ事に少し安堵した。
「ミツキちゃん、ラベルが二重になっているみたい」
アテナはミツキが飲んでいるときに気づいた。
彼女の言葉に動かされ、ミツキは黒いラベルをはがした。
裏面にはキャンペーンのQRコードと問題が三問ほど印字されていた。
問題には、いちごの原産地や最も生産される品種。
いちごウォーターの製造開始された年が印字されていた。
解答はQRコードを通して行われる。
景品はいちご狩りチケット、苺とペットボトル型のクッションなど四種類ある。
(まさに、苺まみれ……)アテナの心中。
「うわ~、心配して損したー!」
ミツキは多くの時間をこの謎パッケージいちごウォーターに費やした事を後悔した。
「紛らわしいわね。学校に危険物でも持ち込まれたら困るわ。今度、管理担当の先生に言おうかしら」
エレンが鋭い目をして、顎を親指と人差し指で挟む形で挟んだ。
教室内にいたMUSE部員達を巻き込んだ謎真っ黒パッケージ騒動は、パッケージからのインパクトによってその場にいた数人の生徒達を混乱の沼に一時封じ込められた。
(きっと、私達だけではないはず……)
トリンドルは今後もこのパッケージがあるだけで、人々に定着しない限りはチャレンジ精神を持つ人以外は買わないだろうと思った。
「さ! 皆、作業を進めましょう!」
エレンが作業を進めるように促す。
「あ、そうだった。早く完成させないと予定通りに開催できないよ~」
アテナはミツキが戻ってくるまでに作業を進めていた個展の事をすっかり忘れていた。
教室内にいるMUSE部員達は自分たちの持ち場へ戻った。
「皆! 見てみてー!」
慧は一年い組で黒いパッケージのペットボトルを持ってきたが、その場には誰もいなかった。




