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妄想能力者と現実能力者の討伐戦  作者: 忽那 和音
Chapter 3 青春編 文化祭編
35/255

Episode 35

 陰光大学教育学部付属陰光中学・高校の学園祭はいよいよフィナーレ。

 学園祭としてはすでに閉会式が行われた。まだ物足りないと感じる生徒達は学校中の注目を集めようと、後夜祭に行われる競技やイベントで燃えている。

 サーカが作った大食い選手権対策のセットによって、お題であった塩おにぎりを攻略し、出場者のミツキが一日目の優勝を納めた。

 大食い選手権のエントリーは二日続けての出場も可能であり、一日目のみの場合や二日目の場合のみの出場も可能。

 アテナ達は知り合いの上級生達から聞いた話では、一日目は中学で開催の為、少々内容を軽めのものにしている。

 しかし、二日目は高校が中心となって学園祭を運営する。

その影響からか二日目は多くの男子高校生徒達が出場してくる。

課題となる食品の制作は調理部と食堂の職員が共同で制作する事なっており、よりこだわった内容と量となる。

 毎年、白熱した戦いが繰り広げられる大食い選手権。

 サーカは公表されていない課題を関係者から事前に聞き出し、その対策として二日目も昨日同様、準備してきた。

 発表までのお楽しみとアテナやトリンドル達が聞いても見せてもくれなかった。

 高校のグラウンドが大食い選手権の会場。

 続々と生徒達が集まってきて、中には応援の旗まで用意してくる気合の入れよう。

 アテナ達も中学生のできる範囲なりに応援する。

「慧くんは今日、出なくていいの?」

 トリンドルが慧へ質問をした。

「もう、無理……」

 昨夜、一年い組の中で出場した三人中、慧のみ今回の試合にはエントリーしていない。

 理由は、二日間もあの量のものを短時間では食べられないという事だ。

 昨日の選手権後。

 慧は死にそうな顔をしていた。

 化粧室などには行かなかったものの、勢いで食べていた慧にとっては、塩おにぎりはトラウマフードになった。

「塩おにぎり……食べたくない」

「大丈夫だよ~世の中、塩おにぎりの方が製造数は少ないから」

 思い出して気持ち悪くなりかけている慧の背中を擦って慰めるトリンドル。

 ステージ近くのから様々な声が大きく聞こえてきた。

 夕暮れ時のグラウンドに会場を盛り上げるBGMが流れる。

「さー、みなさん。盛り上がる準備はできていますかー?」

「\\\\\\\\\\\\おおおおおおぉぉぉぉぉぉ! ////////////」

 ステージ付近の生徒達の声援は、距離をとってイベントを楽しもうとしているアテナたちの耳にも届いており、マイク越しに進行する生徒の声の存在が陰に隠れてしまうほどだった。

「わー! 皆さん、凄い気合が入っていますね~。さて、本日イベントの司会進行をさせていただきます。私、陰光大学教育学部付属陰光高校三年放送部の紅海 シュリオンです。よろしくお願いします」

 進行役が言葉を言う度に歓声が上がる。

「まずは今回のタイムテーブルを紹介いたします」

 イベントの司会進行役が登壇し、会場のボルテージを一気に上げていく。

 昨日は大食い選手権の他、景品付きのクイズ大会、ダンス、先生たちの日頃の鬱憤を叫ぶ大会の中学版が行われた。

 今日はほとんど変わらず、大食い選手権、景品付きの謎解きゲーム大会、生徒達の日頃の鬱憤を叫ぶ大会の高校版。

 そして、最後に打ち上げ花火が行われる。

 二日目の後夜祭スケジュールの発表後。

 いよいよ、見物客期待の大食い選手権の課題食品の発表が行われる。

「それでは、本日の対戦相手となる食品は……」

 生徒達が息を飲んでその姿を見た。

「今回の課題は……ラーメンです!」

 ラーメン。それも背油たっぷりの所謂、家系ラーメン。

「おれ、今日は出なくて良かったなー」

 慧は少々泣きながら、喜んだ。

 近くにいた友人からは重い心の声を知る事になった。

「そして、本日の解説はこちらの方々です」

「はい、今回も昨日に引き続き、こちらの大会の解説をさせていただきます。陰光大学博士課程二年の増田 振掛です」

「同じく医学研究科博士課程一年の筏 昇です。よろしく」

「さー、いよいよ。二日目の大食い選手権優勝。また、昨日優勝を果たした中学一年い組、ミツキ・ペーターさんの総合優勝が成し遂げられるのか!」

 プロレスの会場アナウンス並の進行をする。

 トリンドルは夕方に学校を後にしたSunlight Stand 学園 Line Coast中学の三人に贈るよう、スマホのビデオ機能で撮影の態勢になった。

 会場の裏では、サーカが試合前に用意した秘密兵器をミツキへ渡した。

「はい、ミツキちゃん」

「ありがとう、サーカ。絶対、優勝してくるよ」

「頑張って!」

 参加者がステージ上へ着席をした。

 ミツキの右横には昨日の大食い選手権で上位に入賞したバンがいる。

「絶対に負けないから、バン」

「こっちだって」

「三十分制限の大食い選手権が始まります。カウントダウンをしてスタートします。フライングした方は失格となるので、気を付けてください。では、行きます。三! ニ! 一! スタート!」

 競技が始まった。参加者は一斉に競技用のラーメン皿に向かって食らいつく。

 ラーメン皿は大食い競技用の為、どれだけ乱暴に扱ったとしても最終的には可燃ごみとして処分される環境に優しい紙製の容器。ラーメンには麺二百グラム、汁の重さは三百グラム入っており、時間の経過とともに麵が汁を吸い取るので、実際に計算をしてみれば、麺と汁の重さを単純計算で足した数よりも重くなる。

 参加選手たちはそれを理解してか、トッピングよりも先に麺を蓮華に掬い、一旦冷ましてから口に入れる。多くの麺を箸で掴み頬張るなど、皆工夫を凝らした作戦を実行していた。

 参加者の大半は大柄の高校男子生徒。全体的な生徒の印象がどこからの運動部に所属しているような体格の良さを表していて、男子生徒は腕の筋肉の盛り上がり方が明らかにインドアな人々とは違うものだった。

 その参加者達の中にアテナ達が所属する中学一年い組のミツキ・ペーターとバン・エルメスがエントリーした。

 そして、今まさにこの競合揃いの高校主催大食い選手権で功績を残そうとしている。

「さー、良い調子だ。参加者十五人中、十四人が高校男子生徒である。しかも、高校主催というアウェーな状況で若き陰光生がこのこってこてラーメンに食らいつく!」

 開始から十分が経過し、高校男子生徒のほとんどはニ杯目が食べ終わっていた。

 バンもニ杯目を食べ終えていた。

 ミツキはまだ二杯目を食べている。

 こってこてのラーメンに苦戦しているのか、食べにくそうな顔をしている。

 口の周りには女性としははしたないが、固形の背油が張り付いてる。

「男子生徒が三杯目を食べ始めたー! 少し遅れ気味のミツキさん。今日の連覇は果たせないのかー?」

(あー、しんどっ。そろそろ、半分過ぎか……。もう、あれを使ってもいいか……)

 ミツキは目を虚ろにテーブルしたから何かを取り出そうともぞもぞし始めた。

「おー! ここでミツキさんが動いたー! こっこれはぁ!」

 距離を取った場所から見ていたアテナ達には分からなかったがただ彼女ひとりを除いては理解していた。

「ふん。いよいよね……」

 サーカが策士としての笑みを浮かべた。

「これは、ラー油だー!」

「やっぱり、油には油よね」

 ハムラビ法典的考え方で策を立ててきた。

「よりこってりしちゃうじゃない」

「これ、本当に大丈夫かな」

 エレンとアテナはラアユラビ法典作戦を心配した。

「大丈夫よ。このラー油作戦はまだ序盤戦だから」

 アテナ達に顔を向け、右目をウィンクしながら言った。

「ミツキさん。なんと、ラー油を入れたところラーメンを一杯半食べきった。現在、四杯目を食べています」

「ぶぶぶぅぅぅぅぅぅ~(辛い美味い辛い美味い辛い美味い……)じゅるるるるるぅぅぅぅぅぅ」

 ミツキはエンジンが入った車のような勢いでラーメンを啜る。

 他方、男子高校生組は四杯目に入ったところで箸が止まってしまう生徒が何人もいる。彼らの顔は口を開けたまま白い目をしている。

 参加者の中に女子は中学ではミツキ一人、高校からは二人参加している。

 しかし、女子高校生達も三杯目を目前に手が止まってしまった。

「おー! バン選手、クラスメイトのミツキさんにも引けを劣らず、こってこてのラーメンに食らいついている!」

(やっば、これキッツ。三分の一切ってこれは無理だ。サーカ、ラー油だけでミツキにこんな量食べさせるとか悪魔かよ。いや、あれは悪魔の〇〇製品と連なる悪魔のサーカだな。ちょうどファミリ―ネームもサキュバスっぽいからこれからあいつは悪魔だ。うん、そうしよ)

 バンは普段不器用な男子中学生。

 しかし、心の中では思春期真っただ中の青年だった。

 十五分が過ぎた。

 ミツキは次なる手に打って出た。

(よーし、ここから私は酸っぱい方向へ味よ寄せるのじゃー!)

「半分が過ぎ、ミツキさんはレモン果汁をかけたー!」

「ラー油に続いて、レモンですか~」

「こってりしたラーメンですから、さっぱりとした味わいにしようと味を変えてきていますね~。いい判断ですよ」

 解説者や観衆がミツキの作戦に注目が集まっている。

 現在、昨晩と同様にミツキが筋骨隆々の男子高校生達相手に独走状態となっている。

 あまりの課題の過酷さに半分を過ぎてからはリタイアを申告する参加者が増えた。

 彼らのほとんどが、四杯や五杯の途中で終わったものが多い。

「こっここで……負けてたまるかあぁぁぁぁぁぁ!」

 今大会の参加者の中で最も体格や見た目が仕上がっている男子高校生徒が雄叫びを上げた。

 彼はこの学校で有数の格闘競技者。中学、大学を通して名を轟かせている。

「ここで、上級学年としての意地を見せたかー! 一気に三杯を食べきった。八杯目を食べているミツキさんを超えられるかー?」

「ふむっ……」

 ミツキも同壇で勢いを出し始めた男子高校生の姿を霞がかった瞳でとらえる。

(あ~あの人ね。もうすぐ三分の二、終わりか……。そろそろ最後の手をかけるか……)

「あっ、ミツキちゃんが動いた!」

 アテナがミツキの動きに気付いた。

「いよいよ、最後の策が放たれるわ。これであの先輩に追い越されたら……」

「ミツキちゃんは……負けちゃう……」

「大丈夫、必ず優勝するわ」

 エレンは最後まで希望を失わないように、ミツキ応援隊に話しかけた。

「試合時間三分の二を切り残り十分。ここでミツキさんが動いた。これが最後の作戦かー! 出てきたのは酢だー!」

「レモンからの酢はインパクトに欠けるような気もします」

「ですが、脂分の多いものにかけると非常にさっぱりした後味になりますから、効果的かもしれませんね」

 十一杯目の皿に大量の酢をかけた。

 それだけ、このラーメンは背油を入れている分、癖が強い。

 一騎打ちの男子高生も十杯目に入った。

 ほとんどの生徒はある程度の調味料を持ってきた。

 しかし、彼は何も使っていなかった。

 ただ、飲み物がウーロン茶という事を除いて。

「さぁーさぁーさぁー。いよいよ、大食い選手権終盤戦! 残り十分で終了します。こってこて相手に大変だと思います。おそらく今後はこんな強敵とは出会わないと思うので、個人の意見ですが、悔いが残らないように食べてください」

 思わず、司会進行役の生徒は選手に対して、自分の気持ちが出てしまう程のミツキと先輩高校生との戦いだった。

「残り一分」

(あー、なんとかリードしているけど、この人何するか分からない。あーきつい、ずっときつい。食事でこんなにもキツい事ないよ。もう、家に帰ったらそうめん食べる)

 ミツキは胃がもたれながらも最後の一本まで箸をつまむ。

「三、二、一! 終了です! 参加者の皆さんは箸を置いてください。係員は各生徒の枚数を調べてください」

 ミツキたちは一旦、ステージバックへ移動した。

「これはもう、明らかだね」

「うん、絶対大丈夫!」

 アテナとトリンドルは確信していた。

「結果が出そろいました。優勝は……」

 昨日の優勝者発表と同じような沈黙が作りあげた。

「総合優勝、ミツキ・ペーターさんです!」

 ステージ前から学校の柵付近にいた人達まで歓喜に沸いた。

 その反応はステージから距離を置いたアテナ、トリンドル、エレン、サーカ、慧も一緒だった。

 ミツキは十五杯で大会を終えた。

 二位は男子高校生の十三杯。次にバン・エルメスの九杯だった。


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