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妄想能力者と現実能力者の討伐戦  作者: 忽那 和音
Series3 UFW編
112/257

Episode 110

 横須賀基地近海の戦いは終わった。

 横須賀基地から市谷にある国防省を通し、周辺地域の警戒態勢解除の通知が届く。

 作戦当日の夕方。

 首相官邸にもその一方が伝えられた。

 速やかに官邸対策室が設けられた。

「現時点を以て、神奈川近海および東京湾においての敵からの侵入阻止が完了。地域住民の避難指示解除を宣言する」

 しかし、戦いの傷跡は海だけではない。

 沿岸部。神奈川、東京、千葉など関東地域には今だ、敵が土地を破壊した跡が残っていた。

 国防省・国防長官室。

 二十四時間超えの特別労働も終わったと思うと、官僚達は順番に身支度を調える。

 災害用に用意しているシャワー室や年謬無休の売店は対応をしていた職員でごった返す。

 だが長官クラスにもなると、一般職員レベルのサービスではなくなる。

 皆が手を離せない状況にもなったとしても、一言も言わずともシャワー室、売店、食堂。はたまた、喫煙室も使用可能。

 停電や断水などが無い限り、長官の権限は省内トップ。

 席を外している長官室では、デスクワークの職員と陸海空の幕僚長が集まっている。

「はぁ~。やっぱり、前長官の方が経験者だったので、その場の空気を読むのがうまかったので、私的には好きでしたよ~」

 男性一般職員が口にする。

 三人の幕僚長は一列に座り、腕を組んだまま。

「それは私もですよ~。こんな政治に汚された人の下なんて痛くないですよ~」

 女性隊員は気が抜け、机に今に腕を枕にして寝る勢いだ。

 彼女の通常はしたないと面輪れる姿も制服組、現場組は合わせて何も言わない。

 この部屋にいる者達は長官とは違い、裏方なりの激務に励んでいた。

「は! 誰か来ます」

 連絡役として来た階級が一つ下の隊員が言った。

 制服組は身だしなみと姿勢を整える。

「やぁ~皆。お疲れだったね~」

「「「「「「「お前に言われたくないわ」」」」」」」

「ところでさ~、避難地域の生活支援なんだけど」

「既に、陸海空で手を回しておりますので……」

「あっそう~。流石、僕の部下達だ」

「「「「「「「お前の部下になった覚えは無い‼」」」」」」」」

 そして、問題は自国民の支援だけに留まらずにいる。

 来訪者達の送還問題。

 市谷や迎え撃った横須賀にはその情報が手元に無い。

 最前線で国民を守った。同じ隊員達を守ったのは横須賀。だが実際に今回の戦いに決着を付けさせたのは彼らではない。

 この情報だけは政治で汚染された長官の耳には入れまいと、省内のごく一部の職員と現場のトップ。さらに横須賀にしか無い。

「今回の問題。最も解決に近いのは、陰光大学……。そして……」

「メルタ・エーマン……か……」

 海軍幕僚長が開いた目を静かに閉じた。

 海軍基地である横須賀からは真っ先に幕僚長に届いた。

 これまで面識の無かったメルタとは一度も話す機会が無かった。

 人柄という者も知らない。

 しかし、ここ最近起こったバベル作戦や今回の侵攻にも大きく関わる人物だと目を光らせていた。

 スパイを内部に送り込ませるなど、いくつか手を取ったが収穫の無い行動だった。

 幕僚長は横須賀に次なる指示を送った。

 作戦終了から五時間後。

 夜十時を回る。

 勉強後に入浴した希和子がリビングに戻ってきた。

「ピエール。お風呂終わったから、早く入ってください」

「待って。今、良いところなんだ」

 普段、音楽を聴きながら読書をしてワインを飲むなど、同時にやることがカオスなピエールは真面目にテレビを見ていた。

 希和子は凝視する。

 そこには、毎週放送している町中の猫を同じ目線で撮影した番組が放送していた。

「あ~~。かわいいね~」

 なんとも愛らしくしている姿に希和子は冷めた目をしていた。

「猫が飼え無いのは仕方が無いですけど、なんかもうちょっと気持ち悪くない見方は無いんですか?」

「え~。しょうがないよ。大きいテレビってリビングしかないからね」

 ピエールはいじけるように引き続き見る。

「朝に寝坊しても知らないですよ~」

「プルルルルプルルルルル」

 夜更けに固定電話が鳴る。

 希和子は応答ボタンを押す。

「もしもし、サーシャです」

「あっ。先生? どうしたんですか」

 横須賀にアテナ達と一緒にいることを知っている希和子とピエール。

 何かあったのか。

 彼も気になる。

「ピエール先生にお伝えしたいことが……。希和子さんも一緒について頂きたくって、お願いできますか?」

 落ち着いたトーン。

 予感的なものが、ピエールを追う。

「メルタ先生が亡くなりました」

 率直に言われ、その言葉が体をすり抜けた。

 実感の湧かない事実に、先ほどまでのテンションが消えてしまった。

「そうですか……。先生。メルタのご主人や息子には連絡をしましたか?」

「あっ。いいえ」

 サーシャは一瞬驚く。

 学校内でも側にいたにもかかわらず、彼女の家族について全く聞いていなかった。

「では、ご主人には私から伝えておきます」

「お願いします。あと、もう一件お願いしたいことが」

 市谷から届く一方を前に、関東地方や付近にある病院に勤務している医師が隊長となり。横須賀へ派遣される。

「見る人達は軍人の方々ですか?」

「それは医科大学が対応してくれるみたいです。先生達が見るのは来訪者です」

 一瞬、口にする言葉が体の中で詰まりを起こす。

 全員が該当者という訳ではないが、日本を襲いメルタを殺した相手を相手の気持ちになって見るのは難しい。

 だが、平然と彼は了承した。

「こっちの言葉は通じるんですか?」

「いいえ。中には話せる人もいるけど、私達が通訳します」

「分かりました」

 ピエールは出張することを決める。

「夜分遅くに失礼しました」

 サーシャとの連絡は終わった。

 ピエールは何事も無かったように浴室へ向かう。

 彼の背中は寂しく感じる。

(私がいるから……)

 ピエールが風呂を後にした。

 ソファに座り一人。深夜のテレビを見ながらワインを飲む。

 家でほとんど飲まない彼も今日に限っては未開封の瓶が半分も減っていた。

 珍しく希和子もソファに座り、様子を見ては彼を見守っている。

 目を離した隙にワインの瓶を片付けた。

「ピエール。もう寝ましょう」

 何も言わず、希和子に介助されて自身の寝室に入る。

 彼は意識があるのか、寝ているのか分からない境目の顔をする。

 雰囲気や気持ちに沿って、同じ布団に入った。

 数年一緒に生活をしているが、一緒に添い寝をするのはこれが初めて。

(寂しくならないように、とか思っていたけど、実際に一緒に寝ると恥ずかしい‼)

 高揚した夜は一日の疲れにより、すぐに流されていく。

 目を覚ました時には夜中に眠りについたピエールの部屋から自分の布団にいた。

 リビングへ行った希和子。

 いつもと変わらず、彼女が作り置きしたおかずをレンジで温める。

「おはよう……ございます……」

「あっ、おはよう!」

 いつもと変わらない表情。

「あの……ピエール……」

「ご飯できるから、身支度整えて来て」

 夜遅くに寝た希和子。自分は寝ぼけているのだと勝手に思い込む。

 昨夜の連絡があったばかりなのにもかかわらず、同僚のチェンヤオやイザベルも研究チームに所属しているという理由からサーシャは関係各所に連絡をしていた。

 希和子はまだ医師ではないが、サーシャからピエールと一緒に来て欲しいと言われた。

 ピエールの事も気になり、一緒に横須賀へ向かった。

 昨夜に作戦終了してから高速道路の一部は解放されていない。

 しかし、東京経由のバスは運行している。

「え~。ご乗車ありがとうございます。国からの交通規制が行われているため、一部国道を利用させていただきます」

 到着までは通常よりも五十分追加して到着する。

 派遣されたのはピエールだけではないが、各自日付などが違う為、移動は全て自分で手配する。

 交通費は手当を受けている。

 希和子はタブレットで勉強をしている。

 方やピエールは目隠しとイヤホンをしている。

 端から見たら寝ているのか、起きているのか全く分からない。

 装いの変わらない彼だが、度々右を振り返っていた。

 落ち着かない気持ちの続く今。できることはピエールの近くにいること。

 だが、彼の姿を目に入れていた。

「まもなく~、東京駅。東京駅です」

 希和子は彼の姿を見る。

 まだ、起きてはいなかった。

「ピエール。ピエール。起きてください」

 希和子は彼の体を擦る。

「はぁ~。ついた~?」

 完全に寝ぼけていてる。

 希和子とは違い、ミニマムのピエールは用意に時間がかからなかった。

 終点の東京駅へ着いた。

 乗り合わせの場所では、国防省が持っている車両が一車両あった。

 二人は運転席で待っていた隊員に希和子は声をかける。

「あの~すみませ~ん」

 二人の存在に気づいた隊員は慌てた顔で車を出る。

 目の前に来るなりいきなり敬礼をする。

「今回、横須賀までの運転をさせて頂きます。中林志紀 一曹です。お願いします‼」

「よっ……よろしくお願いします!」

 あまりの迫力に思わず、深い一礼をした希和子。

「あ~。よろしくお願いします」

 相手が丁寧に勢いよく挨拶をしてきたとしても、ピエールはピエールだった。

 希和子とピエールは持ってきた荷物を車両後方に積み、乗車する。

 東京から横須賀までは途中で交通整理が行われている場所がある。

 軍関係車両と緊急車両は優先走行路線を走行する。

 今回の戦いは前回の塔とは規模が違い、県境を超えてからはその悲惨さが露天していた。

 希和子の心中はメルタの死だけではない。

 友人のアテナ、ミツキ、エレン、バン、サーカ、慧、トリンドル。

 また、付属中高の生徒達も何人か来たと人伝えで聞いていた。

 空は薄い雲が広がっている。

 日差しはほどよく明るい。

 地上を除いてはきれいな光景。

 住宅地には生々しい血痕。

 海岸沿いに兵器の外装と不発弾。

 海上にも生物の死骸と無残な機材が浮かんでいる。

 希和子は窓を開けようと、ボタンを押す。

「あれ?」

 窓は下がらなかった。

「あ~。ごめんなさい。戦いの後で臭いが酷いの」

 死んだ生物達は今日中に終わらせられるほど、彼らは優しくない。

 戦いの激しさを表していた。

 車が出発して一時間。

 予定よりも早く基地へ着いた。

 白い建物が並び、植物たちが多茂っていた。

 辺りは焼けた草花。血まみれの建物。

 以前来た時とは世界が変わったような姿となってしまった。

「お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

 二人と隊員は車を降りる。

 荷物を持ち、敗戦者達が待つ体育館へ向かう。

 荒れ果てた地と化した横須賀。

 歩いても歩いても戦闘の生々しい傷跡と残骸が残る。

 中に進むにつれて、生物の物理的な力による攻撃だけではできない穴がそこら中に残る。

「案内にまで少々時間があるので、こちらでお待ちください」

 案内されたのは、前回もアテナ達と帰りを待ったロビー。

 希和子と同じくらいの年齢をする中学生、高校生達が集まっている。

 彼らは下を向いている。

 暗い顔をして、中々立ち上がろうとしない。

 どうにも、声をかけにくいと感じる。

 だが来たからには何かをしてあげたい。

 普段は引っ込み思案だが、今回ばかりは前に出る。

「アテナ……ちゃん……?」

 憔悴しきった顔の彼女は希和子の方を向く。

 一緒にいるエレン達も二人の方を向けた。

「希和子……ちゃん……」

 希和子は皆の元へ向かう。

(どうしよう……、こういうとき、なんていえば……)

 歩きながら、この状況で何を言えば良いのか。

 自分なりに考える。

(そうだ……。私は医学部生……、体の心配をしてもおかしいとは思われない……はず……)

 医学部生として、簡単な観察はできるはずだと考える。

 彼女のアテナ達への声かけ作戦Aを実行する。

「皆……。けが……、大丈夫?」

 アテナ達は互いに目を合わせる。

(うわー。やっぱり、おかしい質問だった?やだよー‼)

 心の中で涙を流す。

 いつも一緒にいた人が亡くなったこの戦いに参加した彼女たちの心までは自分で何かできるとは思ってはいない。

 だが、話は少しでもできるはずだと思う。

「希和子ちゃん……。私は大丈夫だよ」

 アテナは疲労を抱えた体を持ちながら、微笑む。

 希和子やピエールから見れば、体の異常が無くても、精神的な影響があったのだろうと推測をしてしまう。

「ありがとう。心配してくれて」

 エレンも皆の声を代弁するかのように答える。

「あの……、その……、えっとーーーーーー」

 体の心配をした後に何を言うのか考えていなかった希和子。

 話を続けなければ変な子だと思われてしまう可能性がある。

(どうしよー。これ以上何も言えなかったら……)

 希和子の脳内は混濁をしている。

「あっあの……。えっと……」

 前に自身の人差し指をくっつけ話す。

「希和ちゃん。心配して来てくれたの?」

 アテナはいいにくそうにしている彼女を察して話をする。

「うっ……うんっ。大変だったって聞いたから……それで」

 人差し指をくるくると回す。

「急に元気になるのも、大変だけど……。ちゃんと、生活できるように……。というか……」

 上手い言い回しがあればいいのだと思っていた。

 しかし語彙力が無い。

「僕は仕事で時々来るけど、希和ちゃんは皆と一緒に帰るんだ」

 後ろからの助け船。

 こういうときに限って、同居人は助かる。

 見えないが心の中でピエールにグッドサインをしていた。

「あ~。そういうことでしたか」サーカが納得する。

「それじゃあ、帰り支度したきゃ‼ 私達、部屋に物を散らかしっぱなしだよ」

 事前に帰る日にちや時間を言っていた。

 しかし、ミツキだけはスケジュールが頭の中に入っていなかった。

「は~。ミツキったら」

 エレンは呆れる。

「いや~。ミツキちゃんだけはミツキちゃんで良かったよ‼」

 トリンドルは笑顔で言う。

「女子部屋だから、私達だけで片付けに行こう」

 アテナはミツキの片付けを手伝いに行こうと言う。

「希和ちゃんも行こう。ミツキちゃん。全然、宿題持ってきてないんだよ?」

 トリンドルは希和子も手伝いに誘う。

「それは……、ミツキちゃん。とんでもない不良になっちゃったんだね」

 希和子は愕然とする。

「トリンドル~~。話を盛らないで~~」

 話し上手なトリンドルに翻弄される。

 アテナ達はミツキの散らかった物の片付けの為に部屋へ向かう。

「先生。お疲れ様です」

 男子達を残したロビー。

 ピエールの前には市谷から派遣された医務官が今回担当する人物達の情報をまとめたファイルを渡された。

「あ~。どうも~」

「では、失礼します‼」

 キリッと礼をした医務官は颯爽と戻っていった。

 ピエールはさらっとリストに目を通す。

「は~。君たちも大変だね」

 慧とバンを見る。

「それは先生もでしょ?」

 慧は言った。

「まぁね。お互い大変だけど、まだ仕事が立て込んでいるから」

 学生と社会人で立場は異なるが、この件が大きく影響すると三人とも予想していた。

「学校……。どうなるんだろうな」

 バンが副校長の亡くなった陰光大学付属陰光中学の心配をする。

 今年に校長が交代となって、次は副校長の死亡。

 校内にも悪い噂が度々広がっていた。

「急になんだよ」

 慧が元々口数の少ないバンが先行きの悪い心配をすることに今後の生活が不安になる。

「それは君たちの思う以上に大丈夫だと思うよ」

 ピエールは彼らの不安を払拭しようという気は無いにしても断言する。

「先生がそこまで言える根拠はなんですか?」

 慧はピエールに聞く。

「う~ん。けど、君たちの先生は優秀であること。あと、メルタはいつも最悪を考えて行動していたことかな」

 あくまで自身の考えとして言う。

「あと女の子達が集まったら皆にも話すけど、メルタから渡されているものがあるんだ」

「「は~」」

 二人はぽかんとした。

 皆が来ないことには副校長から貰ったという書類を開封することはできない。

 それまで、残された生徒とピエール達は待つことになった。

「はぁ~。皆のお陰で片付いたよ~」

「全く。こんな危機的な状況が昨日のことだったのに、関係ないものが多くて……」

 話しながら、ロビーに帰ってきた。

「なんか、ミツキのキャリーバッグは想像がつく」

「なんだとー! 慧ーー‼」

 慧に自身の荷物に関する憶測が予想されてしまったことに少々恥ずかしさを感じる。

「まぁまぁ。事実だからな」

「バンも~」

 バンに言われたら、弁解の余地も無い。

 ミツキの荷物事情は以前から有名だ。

 生徒達も一時間近く待った中では度々話題になっていた。

「ところで、副校長先生から受け取ったという書類とはどういった物ですか?」

 エレンは一つの仕事が終わり、本題を切り出す。

「あぁ~。そういえばそうだったね」

 一時間以上も生徒達と彼女たちの片付けを待っていた為、一部の記憶が飛んでしまっていた。

「自宅へ行けばまだ出てくるとは思うけど、持って行ける量だけ貰ってきたんだ」

 そう言い、リュックからは厚みのあるA4サイズの封筒を取り出す。

 机に置かれた瞬間。ドンッという音が鳴り響いた。

「先生。こんな重い物持って疲れないんですか?」

 トリンドルがピエールの肩を心配した。

「あ~。大学生時代とか比べたら、まだマシかな」

 彼の脳裏には、多忙だった大学生時代の日々が一瞬に思い起こされる。

 ピエールは封筒の中身を上から挟み取り出す。

 机に置かれた書類は英語で書かれているものやドイツ語など、ヨーロッパ諸国の言語で書かれたものなど様々だ。

「うわー。辞書が無いと読めないよ」

 ミツキが書類の一つを取り出しペラペラとめくる。

「手分けしてなら、読めるかしら」

 エレンは提案する。

「そうか、皆お父さんお母さん達が海外出身とか多いから」

 トリンドルは日本をはじめとする現代のカルチャーミックスした人達が多いという特徴に着目した。

「それは良い考えだと思うわ。エレンちゃん」

 サーカはその意見に賛成する。

「けど、僕達の研究メンバーも通して解読やメルタのメモと合わせて研究しなければ鳴らない」

 ピエールは書類の件はまた後日に作業をするように働きかけると言う。

 ピエールを除き、アテナ達陰光大学教育学部付属陰光中学・高校の生徒達。

 研究メンバーの一人として、彼らの引率教員として着いていたサーシャとマリン。

 ピエールに着いてきた閏間 希和子。

 彼らは帰宅の途に着く。

 帰り支度を済ませ、帰りのバスに荷物を乗せていく。

「それじゃあ。二週間くらいかかるから、その頃には帰るよ」

 ピエールと希和子は別れる前の話をしていた。

 生活スタイルは別のはずだが、共有している部分ではしっかりと話し合わなければならない。

「ご飯は支給されると思いますけど、ちゃんと毎日連絡をしてくださいね」

「はいはい」

「はいは一回です」

 彼の母親ではないが、端から見たら逆転親子のような会話をしている。

「は~い」

「希和ちゃん。時間だよ」

「あっ! はい。それじゃあ、頑張ってね」

 希和子はピエールに手を振り、バスへ入る。

 彼女の後ろ姿にこれからある検査・診察の前に癒やしとなっていた。

 彼がいる側に座る希和子は最後まで彼の姿を見つめ続けていた。

 彼女の姿が無くなるまで。

 彼女の乗る車両が消えるまで、その場に立ち続けた。


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