Episode 109
「私……、ここで死んじゃうのかな……」
心を通わせていた彼女。
やっと自身の気持ちを開けたと思った。
そう思ったキュバリル。
メルタやアテナ達との距離が遠くなり、目にも彼らの姿を見えなくなってしまう。
「ははははは……。無様な姿だ」
見方の生物達が次々と倒され、拘束された現在。
異世界から約一千の大隊を引き連れたカイル・F・キャノン。
遠くから見下す彼をメルタは許さなかった。
「どうして!」
メルタはこれまで見たことの無いほど、感情的に訴える。
「それは彼女が僕の奴隷だからさ。雇い主から捨てられかけた彼女を軍が引き取り、私の元へやって来た」
淡々とキュバリルが塔の作戦以降に起こったことを簡単に言った。
「だからと言って、無理矢理別の生物を移植させるのは違う‼」
真っ先にカイルを攻撃したのはアテナ達も同じ。
散らばった生物たちがキュバリルを飲み込んだ集合生物に吸収されるスピードは尋常では無かった。
「生成が早すぎる……」絶句する。
倒して、また復活する黒の世界からやって来た生物に絶望する。
「ははは。彼女を倒さないと、お前達の居場所は守れないぞ」
カイルは再び姿を眩ました。
キュバリルを取り込んだ集合体は拡大し、人型に形成していく。
「はわわわわ」
アテナ達から距離をとった場所でトリンドル達は様子を伺う。
「皆。近中距離の私達で取り込まれたキュバリルを救出。確保します」
キュバリルを救出後、砲撃で細胞が再生しないように燃やす。
メルタは全体に指令を出した。
「凄い……」
横須賀や市谷からの指令を耳にしなくとも、メルタは独自に命令を出した。
軍が介入できるほどの余裕と力は彼らには無かった。
事実上、現在の状況を変えられる力を持っているアテナ達に選択は託されていた。
「私……って、何……」
土に埋まっている幼虫。海にいる貝。
研究として扱われる前。彼らの本来の姿が広がっている。
キュバリルを飲み込んだ集合体は大まかに人の形となっていく。
「これで最後の仕事だと信じたいな~」
ミツキは自身の希望を持って、浮上しているキュバリルの元へ行く。
それに続くようにアテナ、バン、エレン、慧達も向かう。
巨人の全長はまもなく雲を抜けて行くほどに頭の頂点がたどり着こうとしている。
「Σταγόνες γέννησης tritonis. Γη της ανάπτυξης. Πνεύμα της γης, Nyumpey. Ω, οπλισμός της θεάς! Ντυθείτε.」
生徒達の中で未だ全身武装をしていなかったアテナがついに解放した。
二回目となる全身武装。
彼女はより早くキュバリルを救うことを考え、自身が纏うだけでなく、目的地にたどり突くために、光に包まれたアテナからは実体の無い羽が散らばっていた。
「わあ! 急に速度が速くなった」
明らかに飛行速度が速くなったことがミツキや生徒達には感じられた。
「良いわ。アテナさん」
メルタは褒める。
彼女は姿を現さない。
あっという間に巨人の前に来た。
アテナも包まれた光が散乱し、全身武装化した姿を表した。
「やぁー‼」
イージスから剣を取り出し巨人の身を削いでいく。
傷口からは肉片と血が散っていく。
しかし、元は別々の生物。
人が傷つかれたようにダメージを与えたとしても、五感は存在しない。
巨人は歩みを止めず、海上へ近づこうと下降する。
「く~。このでっかいの、切っても切っても終わりが見えないよ‼」
ミツキはきりの無い攻撃に愚痴を漏らす。
「激しく同感だ」
落ち着いたトーンでありながら、バンも疲れを口にする。
「俺、肉弾戦だから一番アウェーじゃない?」
慧は自身の置かれた戦力が一番弱いのでは無いかと感じていた。
「それはないとも言い切れない。けど、何か弱点があるはずよ」
これまでにも、強みに反してどこかに弱点があったとエレンは指摘する。
皆も攻撃をしながら探っていく。
「皆。この巨人はあくまで偶像。本体はキュバリルに張り付いている核よ」
核はキュバリルからエネルギーを吸い取り、巨大化したとメルタは話す。
「キュバリルさんが一番近い場所というと……」
アテナは考える。
「心臓だ‼」
「どうして分かるの?」
瞬時の回答にミツキは根拠を問う。
「なんとなく……。でも、最初に張り付いた場所が右胸上だったから、なんとなく心臓かな」
不明確な意見に皆は半信半疑になる。
「私達でも、きちんとしたことは分からないわ。けど、ピンポイントに当たらないよりはまだ良いわ」
エレンはアテナの意見に賛成する。
「それなら、俺達で巨人の足を止めよう」
「おうよ‼」
バンと慧の男子組は二人掛かりで、本土へ向かおうとする巨人の歩みを止めようと足下へ降りる。
「メルタ先生。皆。一つ手立てがあるわ」
遠距離チームを指揮するサーシャから通信が入った。
「研究会で研究をして開発した対生物攻略用ワクチンを受け取っているの」
最悪の状況を考え幾つか手立てを作り出した内のひとつ。
こんな状況になった場合に使えるようにと特注で開発したワクチンを医師のチェンヤオから受け取っていた。
「私達が巨人の急所にワクチンを仕込んだ弾丸を打ち込むので、その間に一気にやっちゃってください」
稼げる時間はわずか五分。
その間にアテナ達は全力を出し切らなければならない。
「分かりました。やって見せます‼」
アテナは遠距離チームのサポートを無駄にしないようにと援護。キュバリルの救出を決める。
トリンドルは展開をしたままのバズーカ砲にワクチンをセットする。
一色兄妹や莉、サーシャの武器にも今回のワクチンと同じ配合の弓、弾丸を準備する。
「発射まで六十秒前! 六十、五十九、五十八……」
サーシャは一斉発射までの時間をカウントし始める。
巨大な体を相手に少しでも気をそらせようと下へ向かったバン、慧とは別にアテナ達は心臓を中心に攻撃する。
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ……うわぁ‼」
後々の体力を削る為に攻撃をする。
ミツキは外へ払われてしまう。
「ミツキちゃん‼」
「アテナちゃん。今は攻撃に集中よ‼」
エレンはアテナを戦場へ留まるように言う。
「十秒前。十、九、八」
砲撃開始が迫る。
「三、二、一。発射‼」
基地近くの上空から五人そろって、ワクチン入りの弾丸と弓を放った。
アテナ達もカウントに従って、一時左右に散らばる。
五人により放たれた遠距離攻撃は見事に巨人の身に当たった。
巨人に声帯組織があるかは不明。
うめき声が広がる。
「今よ!」
メルタの一声により、アテナ、ミツキ、エレンは強烈な刃物が巨人の体を切り裂く。
中からはキュバリルと彼女を覆う膜が現れる。
「キュバリル!」
メルタは彼女の元へ行く。
丁寧に彼女に覆われている膜を切る。
取り出された彼女の体はヌメヌメとしている。
巨人の体内は様々な生物の集合体であるが、人と一緒。
中は血液まみれ。
生臭さが漂う体。あとは外装のみとなった。
エレンとミツキは二人で頭上に向かった。
「それじゃあ。最後の仕上げ行くよ」
「ええ」
二人は刀や剣を下へ向ける。
同時に自身の属性である火と雷のハイブリッド攻撃により、肉体の破壊を成功させた。
「ふぅ~」
ミツキは額を拭った。
アテナは先にキュバリルを船に引き渡した。
「これで、私達の仕事は終わりだ~」
トリンドルは涙目になり、両手を空へ突き出した。
遠距離チームは先だって、船に乗り基地に戻る。
「はぁ~やっと終わったよ~」
ミツキはこれまでの疲れがドッと出たようなため息と共にこの場にいる全員が思っていることを口にした。
「けど、まだ安心できないわ。まだどこかに敵がいるかもしれないのだから」
平常心を保っていた。
「先生もこれで安心ですねーー」
アテナは和やかな時間を過ごしていたと思い、後ろを振り返った。
先ほどの立ち位置から自然とメルタがいる。
口からは血が垂れて、胸から出ていたのは鋭い血まみれの槍。
「えっ……」
絶望に変わった瞬間はすぐだった。
後ろから襲ったのは雲隠れしていた大隊長のカイルだった。
彼の左腕は先ほどまで満足の物だったのにもかかわらず、あの短い時間に槍を直接形成していた。
「どう、して……」
「ふふふ。既に私の狙いは彼女を殺害することだったからね」
飛び散った生物の破片、細胞、粒子を集めたカイルは腕に直接槍として形成するように移植した。
アテナの脳内には見たことも無い、聞いたことも無いノイズのかかった音声と映像が流れてくる。
「わぁー‼」「アテナ……、どうして?」「この犯罪者‼」「お前は統治できない」「女神じゃない。悪魔よ‼」
「違う……。違う! 違う! 違う! 違う! 違う‼」
アテナは潰れ自身の顔を手で隠す。
「どうしたの!? アテナ‼」
「アテナちゃん。しっかりして」
完全にいつもの姿とはかけ離れた壊れた様子となっていた。
「こんなことを……、こんなはずじゃ……、こんなはずじゃなかったのに‼」
アテナの周りには黒い魔方陣が出現する。
丸まっているアテナの目の前にはいっそうの槍が出現する。
「黒いっ……、槍……」
メルタは自身が倒れるよりも恐れていたことが起ころうとしていることに気づく。
「ははははは‼ この世界を納める一歩に……ぐう」
カイルは痛みを感じた。
下を見ると、胸元にはメルタが持っている剣が刺さっていた。
「いっ、ぐぅ……」
うめき声を上げながら背中から刺さっている槍を抜く。
エレン達も駆けつけ、できる限りの応急処置を行う。
「体が……、動かない」
メルタの剣が刺さったままのカイルは口にしている通り、身動き一つ無い。
「それははぁ、そうよっ」
「先生、もう喋らないでください」
エレンは生徒達にメルタの周りを囲ませて、守りの態勢に入る。
その間、アテナは頭を抱えたまま、何かを恐れ恨んでいる。
「アテナちゃん……」
船を守っていたマリン、サーカは皆の元へやって来た。
変わり果てた姿に悲しみしか無い。
メルタが負傷したことよりも、彼女の反応は異常だった。
「あなたが体を動かせないのは、メルタ先生が調合した毒薬の影響があるからです」
メルタに代わり、マリンが真剣な表情で口にする。
「相手を完全に静止させ、一回の攻撃で必ず倒す実践用最終兵器です」
「ふっ。それがどうした? 俺を倒したところで、まだバックには大量の軍勢が……」
予告なく再び刃物が体に刺された。
それは、アテナが取り出した槍によるものだった。
「ぐはぁ‼」
カイルの体は散らばった細胞達により、内部は既に否人間化していた。
命の核は石化したものになっていた。
「ふふふふ……。私は槍の使い手ではないが、この日の為に特注しといて正解だった。十二神の欠落と崩壊。まずは守護神の破壊からだ……。ハハハハハ! ハハハハハハハハハ‼」
カイルはマリンや生徒達に分からない事を口にした。
体中の水分は無くなる。
最後は粉々に干からび、空へ散っていた。
「はははっ……。やりましたか……」
「先生。治療しますから、もう寝ていてください‼」
マリン、バンに支えられたメルタは速やかに基地へ移動した。
連絡を受けた基地内に常駐している医師団が待機していた。
二人はメルタをストレッチャーに乗せ、医療チームに渡した。
「先生をお願いします‼」
合流したサーシャとマリンは手術へ向かうメルタの後を見守る。
「うっ……ん。空。下が……堅い……」
目が覚めたアテナ。ずっと空で浮かんでいた。そう思っていた。あたりの騒がしさに目が覚めた彼女は呑気に寝ている場合という事を耳から受け取っていた。
気づいた時には基地内施設の一角で横になっていた。
「は! アテナ‼ 大変なんだ‼」
ロビーに来たのはミツキとエレン。二人は焦った顔をしていた。
「どっどういう」
「説明は後! 行けばわかるから‼」
ぼんやりした意識のアテナをある場所へ連れて行く。
走る廊下は大小様々な怪我を負った兵士達で溢れかえる。ここは嵐の後に見る地獄だ。
「先生!」
サーシャは涙を流した姿を包み隠さずメルタに見せていた。
それは最期の時だった。
「まだ、早いです。先生‼」
マリンは鼻水を伴いながら号泣していた。
周りにいるバン、慧、サーカ、トリンドル。
一緒に作戦に参加した隊員達がメルタを囲んでいる。
「せっ……、先生……」
アテナはこれまでに無い彼女の弱った姿を見て、絶望した。
目頭からは悲愴が止まらない。
「アテナ……さん……。そんな顔を見せないで……」
弱々しくも、いつものメルタがそこにいる。
そのエネルギーはすぐにつきようとしている。
近づいてきた生徒の頭を優しく撫でる。
「あなたにだけ、まだ何も言っていなかったわね。けど、私……。もうすぐ死ぬみたい……だわ……。だから……、これを……」
メルタは左手に持っていたチップを渡す。
「あなた一人では……できないわ……。ミツキさん……。エレンさん……。慧さん……。バンさん……。サーカさん……。トリンドルさん……。そして、先生達と、一緒に困難に立ち向かって……」
消えていこうとしている命を目の前に灯の一部を受け継いだ。
「あと……、大変なことに巻き込ませて……、ごめんなさい……」
「先生! 私……、恨んでいないです! だから……、生きて……」
彼女の一言に最期は微笑んだ。




