Episode 108
ミツキ、エレン、トリンドル、慧、バン。
各々自身の仕事を全うする。
三時間が経過しようとしているアテナとメルタが一緒になってキュバリルを相手にした戦いは終わりが見えない。
(これはいつになったら終わりになるのか……)
一時間経過したあたりから手も足も出ずにいる。
既に二人は自身の能力、武器を捨て肉弾戦を行っている。
「いい加減。諦めなさい」
「そっちこそ。もう刀も使っていないじゃない」
お互いの拳が交互する度に守りや避ける行動が連続する。
三十分以内に、体の一部に当たる。
それ以外はノーダメージを保っている二人。
「はぁ~」
ため息をついたアテナ。
いつも真面目な彼女の反応にメルタは口を開く。
「アテナさん。三時間も放置して申し訳ないわ。まだ隊長、副隊長格がどこかにいると思うから探して拘束してくれるかしら」
やっと自分に仕事が回ってきたと思った。
「あ……。はい」
一時二人の空間からは離脱する。
皆。バラバラとなった今。
アテナも広い上空に一人ぼっち。
「そういえば、敵の大本ってどこに」
基地とは反対側に誰も近づけていないことに気づく。
ミツキ、エレン、バンが向かう姿があったが、現れた敵の相手をしていた。
「私が行けば、少しは手薄な状況を……」
放置するよりはきちんとこの戦いに終わりを付けられると思った。
何度も道を阻んできた相手陣営の副隊長、隊長格が再び生徒達の目の前に立ちはだかる。
「お前だけは……。お前だけはこの先には行かせない」
食料になる動物を狩るがごとく、目は深紅となっている。
普段はきれいな青色をしている瞳はストレスの増量により、変化してしまった。
だがその視界には限界が来ていた。
「私はあなたに何かをしたという覚えは無いです」
「個人的じゃ無い‼ 人類に対してだ」
アテナの天然な言葉に、力強く否定する。
「アテナさん。報告よ」
相手と遭遇したところで、サーシャから連絡が入った。
手持ちにある通信機からは既に軍勢の総指揮を取り仕切っている大隊長。
メルタと交戦中のキュバリルを除いた、三人が拘束されたという報告を受けていた。
「三人の内一人はアテナさんが話しているジャック・デ・フォレスティエ。小隊長よ」
(この人が……、小隊長)
無線を同時に聞いていたジャックは口角を上げた。
「ふん。態々、自己紹介をしてくれたことに感謝するぜ」
彼はポケットから手のひらサイズの武器を取り出す。
サークル状で外側は切れ味の良い刃物となっている。
両手に一つずつ携えた武器は人差し指をぐるぐると回っている。
チャクラムはジャックの指を離れ、アテナの方へ向かう。
「危ない!」
アテナはすぐさま避ける。
ブーメランよりもほぼ無限に回り、動き続けるチャクラム。
ジャックの方向へ戻ってくるものの彼の指に戻ること無く、再びアテナに向かってきた。
「これじゃあ、ずっと行ったり来たりを繰り返しちゃう」
避けながら、作戦を考える。
自分自身が行動を起こし、軌道を止めなければ攻撃を負うのは自分自身。
イージスが出現した。
アテナは何もしていない。
両者の間隔を間にとった位置に現れたイージスは、神々しい光を放った。
「どうして?」
「ふん。そんなものが現れたところで俺の出した無限の追撃は止まることなど……」
アテナは何もしていない。確実に上空に浮いたまま静止していた。
「ばっばかな……。こんなものに、物の動きを止める力など……」
「いや」アテナは否定する。
「こちらの世界と外で話が通じるんだったら、蛇を頭に携えた女性が石化したって話は知っているよね?」
ジャックに過去に残る話を思い出させようとする。
「まさか、そんな……。あれは蛇だから……。こっちは何の変哲も、逸話も無いただの輪だと言うのに……」
ジャックは激しく動揺した。
これはアテナだけの判断ではない。
塔の作戦後。定期的に行われた学習会や個人的に図書館やネットを使った調査。
そして、メルタからの仮定により、一つの可能性によって発生した。
「メルタ先生が昔に起こった事実と現在に語り継がれるまでの結果に矛盾が起こり、新たな事実が起こる」
「あり得るか。そんな都合の良い話」
それに反してジャックは先ほどまでの勢いを失い態勢が崩れていく。
程なくして、彼から噴出していた黒霧は消え、眠りについた。
海へ落ちていこうとする彼を掴み、アテナは追いかけて来た船に確保したジャックを引き渡した。
残りは大隊を指揮するカイル。メルタと交戦中のキュバリルのみだった。
交戦開始から五時間に迫ろうとしていた。
状況は開始と大きく変わり、キュバリルは激しく息が上がっている。
「はぁはぁはぁ……」
メルタは右手を突き出す。
その速度は非常に遅いもの。
メルタは軽々と避ける。
右手を持っては柔道技の投げをする。
彼女は右肩をひねられ、大きな胸が下へ垂れる。
「これで終わりね」
「勘弁……して……」
「ふん。では、最終段階へと入ろうか」
カイルは故意に切った生物の肉片をキュバリルへ投げた。
キュバリルはドクンッと自身の異変を感じた。
空いている左手でメルタを離す。
「何を!?」
「もう、私は人では……いられ……ない……」
彼女がこれからなっていく姿に驚愕する。
生徒達が倒した生物達の破片や粒子、血などが彼女の元へ集まっていく。
「くっ……。ここまで……、人で無しとは」
手を拳に変え、憎く思う。
その光景にアテナやミツキなど、散らばった生徒達がメルタへ向かう。
「先生……」
「皆、最後のお願い聞いてもらえるかしら?」
メルタは続ける。
「お願い……、キュバリルを救って」




