Episode 98
混沌とした関東の道を駆け抜けたバスは横須賀基地内に入っていく。
基地へ降りたアテナ達鉱石の保有者達は前回の作戦で世話になった隊員達との再会を果たす。
三ヶ月ぶりの再開も束の間、日本の危機はすぐ目の前に迫っていた。
外で現在の状況を目視で確認した後、破壊を免れた施設内にある会議室に集まった。
設営された椅子にアテナ達は座る。
進行役の女性隊員がホワイトボードの前にいる。
「ではメルタ先生、サーシャ先生も加わって考えた作戦内容と配置ポイントの説明をさせて頂きます」
プロジェクターによって映し出された作戦内容に注目する。
「今作戦の目標は襲来者の拘束と作戦参加者全員の帰還です」女性隊員は続ける。
「皆さんが一般国民だということは勿論ですが、それ以上に謎の多い相手です」
上層部曰く、安全第一に情報収集を行い今後の安全保障に取り組みたいという考えから今回の目標となった。
「あの、すみません」エレンが手を上げる。
「一つ質問があるのですが、よろしいですか?」
無知な一般国民だという自覚の下、彼女はこの計画として誰からの了承を受けたのかを聞きたかった。
「この作戦を市谷の国防総省は把握しているのですか?」
「あっ……、そっ、それは……」
女性隊員やその場にいる隊員はお互い目を合わせて口を濁らせる。
アテナやサーカ達はエレンが強力な真相に突いた気がした。
しかし、数秒経ったところでその答えは出てこない。
「あのね……。作戦に全面的に参加してもらっているのはありがたいんだけど……」
続きは右隣にいる彼女の上官に目を合わせ、彼が話す。
「申し訳ないのですが、ここからは軍事上の守秘事項として回答は控えさせて頂きます」
お役所にありがちな話のかわし方だった。
颯爽と話は作戦上の配置に入る。
プロジェクターに映し出されたのは横須賀基地を含む東京湾近海の上空画像。
女性隊員が手に持っているセンサーは赤い点を放つ。
彼女はそれを使い配置ポイントと作戦を説明する。
「まずトリンドルさんと一色さん達。マリン先生のチームは基地内の施設に残ってください」
トリンドル達、遠距離攻撃チームは基地にそのまま留まることとなった。
仮に万が一のことが起こったとしても、生徒達は皆近距離戦闘になれていない。
「そして、後の方々は私達の船に乗ってください。人数が多いので、二隻に分かれて乗りたいと思います」
メルタ率いる近距離チームとサーシャ率いる中距離チームの距離感は海上においてはほぼ同じ。
同間隔で艦内を均等になるように近距離・中距離は移動する。
会議終了後。
慧は個別に基地職員に渡す物があると言われ、ロビーで待っていた。
トリンドルは聞く。
「慧君。何渡されるのか、心当たりあるの?」
「全く。けど、俺このままだと身一つで戦うことになるから、どの道何かを貰わないとすぐやられる」
アテナ達とは違い鉱石を持たない慧は特別に参加することのできる唯一の少年。
体力と気力のある彼にも今までの経験から見ても、あるところから彼女たちに及ばない点が出る。
しかし、そのような状況であろうと皆のために戦うのが、彼の精神だ。
在日アメリカ軍横須賀基地を経由して基地職員から金城 慧宛に荷物が渡される。
「このタイミングで? 一体何かしら」
エレンは興味津々に箱の外装を見つめる。
一緒にいるアテナ、ミツキ、トリンドル、バン、サーカも一緒に見つめる。
慧は貰った箱を机に置く。
紙製の箱の蓋を開く。
中身を開けてみる。そこには薄いこちらも紙製のカバーで覆われたている。
覆われている状態からでも、素材が高価なもので作られた物が窺える。
カバーを剥がす。
そこには慧には見覚えのある漆黒の素材と一通の白いレターが入っていた。
「これは……もしかして」漆黒と封筒を同時に取り出す。
ゴム製の心地がする布を広げると慧が前回着たスーツよりも小さい機械が所々に装着させられた戦闘スーツだった。
慧は目を輝かせて見る。
ミツキは備え付けられていた封筒の中身を開く。
「あ~。ミツキちゃん。勝手に人宛ての手紙を開いちゃいけないよ」
サーカが勝手に中身を開いたミツキに注意をする。
しかし、既に遅かった。
ミツキは宛先人よりも早く手紙の内容を読んでいた。
「あ! やっぱり、ポーレットじゃん」
「見せて、ミツキ」ミツキは彼に手紙を渡す。
開かれたままの手紙の中身を読む慧。
ーーーーー
To Satoru Kinjo.
Hi Mr Satoru.
How are you doing?
あ~。この手紙を受け取る時は英語ばかりで内容を書くわけにはいかないわね。
簡潔に済ませるけど、このスーツは前回の改良版といったところね。
基本機能は攻撃強化と物理攻撃防衛と変わらない。
けど、それプラス海上戦闘、空中戦闘にも有効なシステムが入っているわ。
けど、ずっと海中・空中で戦闘ができるという訳では無いから。
あくまで、短時間で勝利を掴むための支援でしかないから、そこは重々承知ね。
あとは時の運とあなた自身くらいかしら。
健闘を祈るわ。Good luck! Mr Satoru and every one.
From Paulett Mills.
ーーーーー
アメリカにいるポーレットは前回の反省を踏まえ、素材、攻撃・防御。
スーツに搭載する機能などを追加と強化した。
しかし付属された説明書は皆、英語な上、専門用語で書かれた取扱説明書を理解するのは非常に難しい。
「ポーレットちゃん……。急がしかったのかな……」
トリンドルが後先考えない彼女のことだというのは以前から感じていたが、時に相手側にも負担を追わせる個性だと感じた。
その反面、世界の軍全体が彼らに対抗しうる武器を開発していることを尊敬する。
「わ~。これは凄いね」
後ろからスーツに対する感想を述べたのは先ほどの会議で進行を務めていた女性隊員だった。
「けど、このトリセツが皆英語で書いてあって、簡単なところは分かるんですけど……」
中学生には専門的すぎる取説を女性隊員に渡す。
「あ~。これは凄いね。まだ作戦開始まで時間があるから、できるところまで翻訳するよ」
在日アメリカ軍の隊員達とも打ち合わせを行う彼女は内容を一目見ただけで理解する。
基地から出発まであと一時間。
日が傾く夜の長いこの時期。
日が昇る回数と日本が滅びる時間までは国の寿命の方が短く思えた。
基地出発を目前の基地内の港。
隊員達は慌ただしくシステムの確認を行っていた。
アテナ達は出発前に乗船する生徒達の組み分けを行っていた。
「人を分けようにも戦隊達から中距離を除いて短距離はそこまで分かれても問題無いっていうから、余計に分けるの難しくない?」
ミツキは丸投げさせれたチーム分けの方法を悩んでいた。
「そうね。いっその事、じゃんけんで決めちゃいましょうか」
いつも真面目なエレンも今回のシリアスなシチュエーションに簡単なその発言に突っ込み役のトリンドルは引いた。
「エレンちゃん……。これから、大変なことが待っている重要な局面にそんなこと」
「けど荷物になるものは皆置いて来ちゃったから、これしか方法が無いね」
アテナもやむ終えなかった。
皆、納得し手を前に出した。
「それじゃあ、私がじゃんけんって言うね」
ミツキが進行する。
「じゃんけん」
言葉に乗り、軽く腕を上げる。
「ポン!」
複数回重ねた結果。
所謂、船の先発隊・Aチームはアテナ、エレン、慧となった。このチームの担当教師はメルタ。
後発隊のBチームはミツキ、サーカ、バン。引率する教師はマリンとなった。
「それじゃあ、後方はお願いね」
エレンは旅経つ前にトリンドル達、遠距離チームに最後の挨拶をする。
「頑張って、皆で帰ってきて」
両手を握りしめ、トリンドルは皆を送り出す。
「うん。絶対に皆で学校に戻ってこよう」
アテナ、ミツキ、エレン、バン、サーカ、慧はトリンドルと皆に出発前の姿を刻んだ。
そして、敷地内にいる彼女も彼らの姿を目に焼き付かせた。
船はおもりを引き上げる。そして、二隻の船は基地を後にする。




