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5 お互いのことを知りましょう

 こんにちは!

 私は前山まえやまひとみ

 現役女子高生なの!


 やっぱり何度考えても『現役』ってつける理由が分からないな。


 実は現役という言葉をつけるのは『引退』じゃなくて『退役』と区別するためだったりして!


 だって『現役』の対義語は『退役』でしょ。

 つまり女子高生は軍人なのかも!

 戦ってナンボなのかも知れないね。


 どうりで女子高生って犯罪に巻き込まれる代名詞になってるわけだよ。

 日々之闘争(ひびこれとうそう)!!うわお。


 ま。そんなことより本題に入ろっと。





 どうもね。

 私は前世で『魔王』だったんだけど『魔力』さえ使わなければ前世のコトなんて忘れたまま人間として生きていけると思ってたんだ。


 だけどそうも言ってられないみたい。


 年齢を重ねるうちに、いつか私は『魔王』そのものになっちゃうかも知れないんだってさ。





「オレとしては魔王様は大好きですからね。

 魔王様が復活されてももちろん喜びますけど。

 でも前山さんがそれを望まないなら何とかしてあげたいな。

 あ、ポテチ食う?」


「もらうー。

 そろそろ寒くなってきたから、やっぱりコタツいいよね」



 私と乙女木君は、キラッキラの魔王城内部シアタールームに最近設置したコタツに足を入れてポテトチップスやらみかんやらを食べながらスマホで対戦ゲームなどしていました。

 


「乙女木君的にはどっちに転んでも不都合ないってことか。

 羨ましいねぇ。

 前世の記憶全部戻っていてそれだけストレスなくのびのび生きられるのってすごいわ」


「うーん、確かに魔王様はね。

 ちょっとしんどかったと思うんですよ。

 だからこのまま全部忘れて良い夢を見てるのもいいんじゃないかなって」


「私は夢なの?」


「例えですよ」



 『例え』だったとしても、そうなのかも知れないね。


 私は魔王の見てる楽しい夢。

 失ったものや手に入らなかったものを全部手に入れる夢。

 覚めたら悲しくて泣きたくなっちゃうような夢。



 あれ?


 ホントに私は何を考えてるんだろう。

 魔王の事情なんてちっとも知らないのに。


 それに私は夢じゃない。

 現実を歩む力もあるもん。

 私が何とか頑張れば未来はきっと明るくなるはず。



「実はオレ的には、これはあんまり大きい声で言いたくないんですけど……。

 前山さんの方に肩入れしちゃいたいんですよ。魔王様怒ります?」


「知らないけど、多分怒らないから理由聞かせて」


「だってですよ。

 このまま前山さんと人間やっていけば、将来的にはオレら結婚とか出来ちゃいますよね?

 あ!それすごくいい!

 すぐじゃなくていいんで結婚して下さい」


 なぜコイツはここでソレをぶっこんでくるかな。

 コタツの中で。



「オトトイキヤガレ」


「瞳さん?」


「勝手に名前呼んだね? 無断で」


「ごめんなさい。

 仕返しにオレの名前呼び捨てしていいですから。

 竜由たつよしですよ、タ・ツ・ヨ・シ」


「お茶おかわり」

「かしこまり」



 乙女木君はお茶のお代わりを取りにまた自宅に戻って行った。

 ドア一つ隔ててどこにでも通じちゃうんだから、これはほとんど『どこでも』的なアレだよね。


 それにしても、どうして乙女木君はあんなにひょうきんなんだろ。

 前世の竜王はあんなじゃなかったよ。

 あんまり覚えてないけど。


 どちらかと言えば、無表情で…。

 ひたすら魔王に忠実なヤツだったと思う。


 よく覚えてないんだよね。


 ときどき、思い出してしまいたくなる。


 私の忘れた乙女木君のこととか。

 それは絶対良くないから、そんなことは考えないようにしてるけど。



「お茶入ったよー」

「あれ早いね」

「二煎目だからお湯入れただけだし」


 ではお茶いただきますっと。



「こうしてるとオレら、カップルってより夫婦じゃない?」



 なぜ折角飲んでるお茶を吹き出すようなことを言うかな君は。


 恨みがましく睨んでみたところ、乙女木君が私をじっと見つめてきた。

 なんだ急に。



「前山さん、好きです」


「・・・・」


「さっきはゴメンなさい。

 オレちょっとマナー違反でした」



 なん?


「結婚を申し込むのにあのノリはなかったですよね。

 こういうときには婚約指輪とか出しとかないと。

 普通こういうのって給料三か月分とか言うけど、オレの小遣いって月一万円なんですよ。

 さすがに三万円というのは酷いと思うんで、せめてその千倍くらいの価値はあった方がいいですよね」


 と言いつつなんかでっかい原石みたいなのをコタツの上に出してきた。



「アフリカの採掘場で未発見の原石を持ってきましたよ。

 あとで加工しておきます。

 ダイヤなんですけどいいですかね。

 他の石の方がいいですか?」



 だからその富豪みたいなセリフやめなさい!!

 あとそんな指輪高校生がつけられんわ!

 大体、採掘とかいつ行ったのよ!茶を蒸してる間か!?


 というかおかしい。

 とにかくおかしい!!


 というわけで!



「なにもかもがダメ」


 と答えておいた。



 で、なんでそんなこの世の終わりみたいな顔してるの。

 なんか私が悪いみたいじゃん。

 これ絶対、私悪くないでしょ。



「どれもこれも魔王の復活を阻止して初めて次の段階でしょ。

 乙女木君も真面目に考えて欲しいな。

 人類滅亡の危機なんだよ」


「真面目に考えてますって。

 オレらの将来のためだし。

 前山さん的には結婚相手の職業とかどんなのがいい?

 もちろん専業主夫も対応可だよ」


「そこから離れようよ…」



 どこまで本気なんだコイツ。

 しかし本当なんでこんなヤツになっちゃったんだろね。


「乙女木君てさ、前世からそんな性格じゃないよね?

 私が小さい頃から知ってる乙女木君もそんなじゃなかったよね?」


「え? オレは割と変わらないと思いますよ?」


「うそぉ」



 いくら何でもそれは違うでしょ。

 本人に自覚ないとか?

 


「あんまり過去の話すると前山さんが思い出すきっかけになったらアレかと思って言わないようにしてますけど。

 聞きたいなら何でも喋りますよ?」



 な…悩む。

 それは確かに。


 知りたい部分もあるけど、知っちゃいけないような気も。



「あー、でも分かります。

 豹変する男っていますもんね。

 結婚した途端にDV夫になるとか。

 そういうの心配ですよね!

 将来結婚するんだしオレのことはちゃんと知っておいてもらわないと」


「ちょっとそこ!前提がおかしくなってる!!」


 油断も隙もないな。



「前山さんの記憶の中のオレって、どんなでした?」


「えー。

 割と無口で、ずっと魔王の傍にいた魔族だよね?

 姿かたちは今と似てるけど今の方がずっと若い」


「やっぱりなぁ。

 もともとオレってこんな人間の姿じゃないんですって。

 もっと大きな黒龍でしたもん」


「そうなの!?」


「でまあ、竜族なんで基本的に口下手でしたけど、オレは種族の中ではかなりおしゃべりな方で」


「……程度が分からん」


「でもって魔王様になついちゃってからはしょっちゅう傍にいたんですけど、ある日魔王様が『憑坐よりまし』をプレゼントしてくれたんです」


「よりまし?」


「魔王様の実験のひとつだったみたいですけどね。

 ほら魔族って人間の世界では活動が制限されちゃうじゃないですか。

 人間を殲滅するためにはそこをクリアしなくちゃいけなくて」


「それで転生したんだって話だよね?」


「そうなんですけど、それは最後の段階で。

 それまでに試行錯誤したんですよ。

 その頃は人間の死体を憑坐よりましとして使って魔族が人間の世界で動けるか実験したわけです」



 このまま聞いてていいのかなぁ。

 すっごく踏み込んだ事情みたいなんだけど。


 でもちょっと話がおもしろくていけない。

 映画かよ。

 やべえ聞きたい。



「この姿は当時のその憑坐よりましの姿なんです。

 もう融合しちゃったからオレそのものですけど。

 それに気に入ってるんですよねコレ。

 魔王様のお気に入りみたいで。

 その辺の死体使わずになんかわざわざ調達してきたみたいだったし」


「見た目が魔王のタイプだったってこと?」


 確か魔王って男だよね?



「さあ?

 でもコレ使ってからは魔王様はオレをいつも傍に置くようにしてくれました。

 それにじっとオレのことを見ること多くて。

 多分タイプなんじゃないですかね。

 前山さんもオレの見た目、タイプでしょ?」



 ううう…。

 乙女木君の見た目、好き。確かに…。


 く…魔王と趣味が一緒なのか…。

 しょっちゅうガン見してたからこいつのこと比較的記憶にあるのかも。

 魔王ってメンクイなんだな…。



「でも憑坐よりまし使い始めた頃はうまく動かせなかったよ。

 表情も出ないし喋るのも難しくて」


「あー、だから無口なイメージなんだ?」

「じゃないかなー」

 


 そうだったのか…。


 クールなキャラとかじゃなくて、単にうまく動かせなかっただけだったとは…。


 ちょっとイメージ崩れました。

 いや、ひょうきんな男の子は好きだけどさ。



「ちなみに憑坐よりまし使ってもやっぱり人間の世界の活動限界は厳しくてさ。

 結局こうして転生の方法になったみたい。

 全部魔王様の研究成果なんだから凄いよね」


「なんか私の中の魔王像がむちゃくちゃ混乱してるんだけど」



「多分ですけど、前山さんみたいな方ですよ魔王様って」


 え…



「マジ? 似てるの?」


「まず見た目はまんまですね。

 魔王様よりずっと若くて、今はまだぶっちゃけ小娘ってとこですけど。年齢重ねたら恐ろしい美女になるかと思います」


「小娘だとぉ」

「いやまあ、オレもガキだからピッタリじゃないですか?」


「性格! 性格は!? 似てる?」

「似てますね」

 

 ど…どういうこと…。

 人類滅亡とか執念深く計画的に実現するようなヤバい奴に私が似てるって…。

 あり得ないでしょ。



「本や情報媒体が大好きで、集中すると没頭しちゃうところとか、疑り深くて人を追い込んでいくところとか。

 あとは目標を設定するとひたすらそれを追求するところとか」


 ううううう…。

 言われると身に覚えがあり過ぎる…。

 普通のかわいい女子高生なのに…。



「ちなみに魔王様は甘い食べ物大好きでした。

 前山さんもクレープとかパフェ大好きですよね。

 多分魔王様に差し上げてもむちゃくちゃ喜ばれると思うな」


 うわあああああんっ

 魔王って…魔王って…。



「もう、ここまで聞いちゃったから核心を聞くけど、なんで魔王って人類滅亡を企んでるの?」


 これが肝心なところなのよ。

 コレさえなければ魔王の記憶なんてそれほど怖くない…かも。


 ある意味では乙女木君のお陰というか。

 魔族って意外とチャラいなと思ったんで。



「わかりません」

「わからない?」


「すみません、知ってることは何でも喋りますけど、それは知らなくて」


「知らないのによく従う気になったね」


 知らないとか言って、まさか隠してなんていないよね?



「人間殲滅しちゃっても魔族にはデメリットないですしね。

 それどころか領土や資源も手に入るなら別に悪くないんじゃないですか?」


「魔王って、領土や資源が欲しかったの?」


「魔王様はそんなもの眼中になさそうでしたけどね。

 とにかく『必ず人類を滅亡させなければならない』って言うだけで」



 うーん…。

 動機を腹心の配下にも喋ってないとなると…。

 これは本格的にヤバい理由なのかな…。


 大体ね『思い出すとヤバい』というのは私のカンなんだけど、これやっぱり正解だと思うの。


 実際今までいくつも思い出してることってあるけど、その肝心なところは欠片も出てこない。

 魔王本人も思い出したくなくて意識の奥に閉じ込めていることなんじゃないかなぁ…。


 もしも私が記憶を取り戻すのが不可避だとして…。

 魔王のド級の『トラウマ』を癒してあげたら人類滅亡なんてどうでもよくなるかも。


 それに今、こうして乙女木君の話を聞いて思ったけど。

 過去の話を聞いたくらいでは記憶が喚起かんきされたりはしない。


 情報を得ることではそれほど危険性はない可能性が高くなってきましたよ。


 そこを突破口に出来ないものかな。



「前山さん、なんか企んでる?」


「人聞き悪いなー。

 魔王の復活を阻止して私の楽しい将来設計を実現するための計画を練ってるだけじゃん」


「そーゆーとこ、やっぱり魔王様なんですねぇあなた」



 うぐうう…。

 違うんだー!


 とりあえず今必要なのは…



「そういえば、例の魔王の研究データのバックアップ?

 それって手に入らないかな」


『データ』なら大丈夫という今の仮説によれば、素晴らしいデータがあるなら手に入れたいところじゃない?



「えー。前山さんそんなの欲しいの?」


「それで転生してきた魔物を逆に送り返せたりしないかなって」


「無理じゃないかなぁ。

 魔王様ってすっごい研究家ですよ。

 多分データ見ても普通の人じゃ何書いてあるのかサッパリかと。

 それこそ前山さんが記憶を戻した後ならともかく。

 それじゃ意味ないんでしょ」


「一応見てみたいかなって。

 手に入れるのも無理?」


 ほら。

 奇跡が起きて天才女子高生なら読めるとかそういう設定があるかも…。



「魔王様のお力で引き寄せれば一発で手元に来ますよ」


「それじゃ意味ないー」


 魔力は使わない方針で行くんだってば。



「といっても、どこにあるかは魔王様しかご存じな…い…し? あれ?」


 どしたのかな?



「おっかしいなぁ。オレ場所分かるかも。

 でも変だな。

 オレがその場所を知ってるわけないのに…なんでだろ」


 そう言われても私が分かるわけはないの。



「まあいいや。行ってみます?

来週から期末試験あるから、それ終わったら」


「うん。よろしくね」



 そうなんです。

 来週は期末試験。

 それが終わったら冬休みなの。


 試験前なのにこうやってゲームして遊べるのは、魔王スペックのお陰。


 このかわいい容姿と魔王スペック。

 こんだけ生まれ持って、ただ楽しく生きるなんてやっぱりそんな贅沢は許されないのかもね。

 人類の存亡にかかわるこの厄介ごと、なんとか解決するのは私の責任だよねぇ。


 とにかくがんばるぞー!


 私、絶対あきらめないよ!








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宜しければゼヒ…

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