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4/12

4 付き合ってる2人だから

 こんにちは!

 私は前山まえやまひとみ

 現役女子高生なの!


 それでもって私の彼氏は『現役男子高生』なんだよ!

『現役』ってつくと男女問わず風俗なニオイがするのはなぜだろう。


 風俗じゃなくても高校生なんて社会的に未熟だから、悪の道に引きずり込む誘惑は後を絶たないよね。


 最近ではSNSを利用して高校生を食い物にする連中もいるみたいだし。

 無知な若い子を犯罪に加担させ罪悪感をあおって縛り付けるのが手口らしいよ。

 私も気を付けなくちゃ!


 そこんとこ大事なことだけど、ともかく本題に入るね。

 




 私の彼氏の乙女木おとめぎ竜由たつよし


 最近ね、うちの彼氏が挙動不審なの。


 あいつ魔王の側近だし?

 完全に魔族なわけじゃない。


 なにやらかすか心配になってきちゃう。



 先日は私に内緒で城まで用意しちゃったヤツなんだから、知らない間に仲間の魔族とか集めてるかも。

 そんで大勢揃ったときに急に言い出したらどうしよう。



「既に軍勢は揃っております魔王様。

 いつでも人類を殲滅できますよ!」とか。


 …うーん。

 やりかねない。


 最近あいつのことちょっと信用しちゃってるから『私を既成事実で追い詰めて魔王としてのっぴきならない状況に持ち込もう』とか、そういう魂胆はないと思うんだけど。

 完全に彼の場合は好意でやってるくさいのが恐ろしいわ。


 ちゃんと予めそういうことは禁止しておいた方がいいかも。


 服従を誓わせてる以上、ダメと言ってることをわざわざやったりしないでしょ。

 多分ね。




_______________

 



 最近、週に2回くらい。

 学校から帰ったあと魔王城のシアタールームで乙女木君と一緒に映画を観てるの。

 動画配信サービス本当にいいよね。


 このシアタールームはくつろげていいけど、これだけのためにこのでっかい魔王城は無駄なんじゃないかなぁ…。


 やっぱり何か他に意図があるんじゃないの?

 少し心配。


 一応、何か隠してないか確認するために何度か城内を見て回ったけど、何もないね。


 シアタールーム以外は本当に何もない。

 ただの広い空間。


 クリスタルなデコ状態は外観だけで、中は別に派手じゃない。



「前山さん、待った?」


 ドアを開けて乙女木君が城内に入ってきた。

 どこのドアを使ったのか知らないけど、多分学校から直行なんだろうな。



「日直お疲れ」


 いつもなら一緒に来ちゃうとこだけど、今日は乙女木君は日直のお仕事あったんだよね。


 適当にサボらないのは感心だと思う。

 日常のことはしっかりしてるカンジだから、実は乙女木君がクラスの女子から割と人気あるの知ってるよ。


 親切で、気さくで、楽しくて。

 人当たりが良い乙女木君。


 なのに、魔王が命令したら顔色ひとつ変えずに子どもすらも殺したね。

 ほんの少し前までその子どもに親切に接していたのに。



 ……やだな。なんか思い出しちゃったかな。


 こういうの思い出したくないから私は魔力とか使わないんだから。



「前山さん。今日観たい映画の候補とかある?

 もしないならオレのおススメ観ない?」


 おっといけない。

 変なこと考えない。


 今を楽しまないとね。



「乙女木君のおススメ?

 いいよ。君のことだからバディもののアクションでしょ」


 何度か一緒に映画を観てると、相手の好きな傾向は分かってきますって。

 ちなみに私もバディもののアクションは好きだな。


「これ」


 指定された映画を流してみると…。

 なんやこれ。


 甘い恋愛モノの洋画じゃないですか。

 意外だな。

 乙女木君がそんなの好きなんて。



 初めて見る映画だけど、特に激しいアクションはないな。

 実は突然のハプニングが起きてホラーに繋がるとかもないね。

 ジャンルすら知らずに映画を観るとそういう混乱が起こるよね。


「こういうの好きなの?」


 鑑賞中だったけど、乙女木君の方を見て確認しようとしたら……乙女木君はぱっと目を背けた。


 ほら。こういうとこ。

 最近の乙女木君の挙動不審。


 怪しい。


 後で問い詰めてやる。



 でも映画はちゃんと1本観ておきたい。

 恋愛モノとか私の守備範囲じゃなかったからあんまり観たことなかったけど、だからこそ新鮮な部分もある。


 あ。キスシーン来た。

 今時は恋愛ものじゃなくてもアメコミアクションだろうがそれくらいはあるものです。

 ちなみにそのへんが比較的濃厚なのはホラーのジャンルだと思います。

 イチャイチャする男女は惨殺されるのが定番だよね。



 んん?

 手に何か…


 乙女木君に手を握られてるじゃないですか。

 彼の顔を見ると、映画そっちのけでそっぽ向いてますね。



 そうかぁ。

 これを狙ってたんだな。

 この突然の恋愛映画も。


 でもそうだったね。

 私達交際してるんだよね。


 付き合いだしてから、私は警戒しまくってたし乙女木君は警戒を解くのばかり気にしてたから、こういう進展を考えてなかった。


 最近はなんか仲良い友達みたいになってたし。

 


 彼はこっちの顔を見ようともしない。


 でも照れるか?

 今更。



 だって君、空飛んだときに思いっきり私の腰に手を回してたじゃん。

 そういうのとは別枠なのかな。


 ともかく、不審の理由が判明したのは良かった。

 ほっとしちゃった。


 だから、手を握るのは許してあげるね。


 でもそれ以上はダメだからね。



 私はまだ君のことを信じ切れない。




____________





「恋愛映画もたまにはいいね。

 日本の恋愛ものは余命何年とか死に別れとか多いみたいで敬遠してるけど、海外ものは結構楽しいかも。

 主人公がSNSをチェックして相手の好みを分析するとことか、現代風だよねぇ」


「あ、うん、そうだね」


「あの主人公、ちょっとストーカーっぽいと言えなくもないけど、好きな子のためにすごく頑張るところとか、なんかいいよね」


「そうだね、そうだね」


 感想が生返事だ。

 ちゃんと観てたの?



「乙女木君のおススメなんでしょ?

 もっと熱く語ってはいかがですかね」


「手……」



 そういえば手を握られっぱなしだった。

 集中して映画観ちゃって忘れてた。


「あ、手ね」

「前山さんの手……」


 うん?

 


「……怖くない?」



 何が言いたいのかな。

 本人も何を言おうか困ってる様子だ。


 あんなにベラベラ喋るヤツが、変に無口だとなんか不吉だなぁ。

 前世のコイツみたいで。


「ええと…、オレが無理なことをやったら、前山さんは抵抗するでしょ。

 それで魔力使わざるを得ないからオレのこと怖いって、前に言ったよね」


「うん言った」


「ホントはイヤだけど、抵抗したくないからって無理させてないかなって…」


「イヤならイヤって言うよ」


「……今になって、ちょっとオレ卑怯だったかなって。

 手を握りたいなら最初からそう言うべきだったな」


「確かにその方がいいな」


「手を握っていいかな?」

「もう握ってるじゃない」


 なんでそんな嬉しそうな表情を見せるかな。



 うっかり忘れてしまいそうになるじゃないの。

 本当は君は恐ろしくヤバい魔族だって。


 顔色ひとつ変えずに人の命を奪うことが出来るようなヤツなクセにね。

 そんでもって、それを命令したのは、魔王……。


 いやいや、それは忘れた忘れた!!



 それよりも、この機会に確認しとこ。


「そうね。何かするときには予め私に許諾を求めて欲しいな。禁止されてないからって理由で好き放題やらないでね」


「やらないよ」


「ホント?

 知らない間に仲間の魔族とか探してない?」


「え? ダメなの?」


 ちょっと待て。



「乙女木君、まさか…」


「いや、やってない。まだ!」


「まだ!?」


「その、気をきかせて探しておこうかなって思ってた。前山さんの力になれる手は多い方がいいし!

 でももうちょっと魔王城に二人っきりってのもいいなと思って後回しにしてました!」


 まだやってなかった!

 危ない! 危なかった!!



「これからもやらないで!」

「分かりました!!」



 セーフ…。

 やっぱり気をきかせるつもりだったか…。

 油断も隙も無い。



「でもオレが探さなくても時間の問題だとは思うよ?」


 どゆことかな?



「オレは前山さんが喚び起こしてくれたから早めに思い出したけど、もともと人間としての身体が成長し尽くしたとこで精神も含めて存在が固まる予定だったから」


「それってつまり…」


「みんな遅かれ早かれ思い出して自分から魔王様のところに馳せ参じるってこと。

 まあねえ。転生したくらいでキレイに忘れられるほど軽いごうじゃないってことですよ」



 ・・・・・・・

 それって、それって…


 私も…?


 転生したくらいで忘れられるような軽いごうじゃないの…?


 人類滅亡を図るようなおっそろしい魔王になるなんてゴメンだったから、私は忘れちゃうつもりだったの。


 魔力を使うたびに記憶が蘇ってきていたから、魔力さえ使わなければ忘れたままでいられると、そう思ってたんだけど…。


 時間の問題だとしたら、この努力は無駄だったってことなの?


 私の女子大生生活も、将来の希望とかも、全部私の手で壊しちゃうことになっちゃうの?




 目の前が真っ暗になった気分だった。




 乙女木君は、私が絶望感に襲われているのを見てやっと気が付いたみたい。

 自分の言葉が私をこんな風にしているって。


「前山さん、大丈夫!?

 ゴメン、オレ余計なこと言ったみたいだ」


「……一応確認するけど、ほんとなの?

 私も思い出しちゃうの?」


「ええと…。

 魔王様…じゃなくて、前山さんは大丈夫かも…」



 なんとか私を励まそうとしているんだろうな。

 聞いてやろうじゃないか。

 何を言えば私は慰められる?



「あんまり余計なことを言うべきじゃないかと思うんだけど、ごめんなさい。

 オレには判断がつかない。

 もともと魔王様は他の魔族とは違う存在なんですよ」


「違うって…?」


「詳しいことはオレも知りません。

 魔王様も誰にも話してなかったみたいだし。

 でもほら、人間として生まれてから魔王様だけは自分が魔王だってご存じだったでしょ?

 オレみたいにキレイに忘れてなかったし、生まれた時から魔力を使えたって聞きましたよ?」


 それは確かに。



「だから、他の魔族みたいに身体の成長は関係ないかも。

 今までの『魔力を使わない』という方針で正解である可能性も…」


「……それを確かめる方法とかはないかな」


「この転生の術式は魔王様しかご存じありませんでした。

 長い研究の末に考案した術式らしいです」


「魔王って研究するタイプの人なの?」


「そうですね。

 物静かで研究熱心な方でしたよ」



 そうなのかー

 どうも自分の中の魔王像が固まらないなぁ。

 思い出してみたら色々納得するのかも知れないけど、それじゃ手遅れじゃんか。



「魔王様の研究成果のデータアーカイブはこの人間の世界に封印されてますから、それを見れば術式も分かるかも知れないですね。

 でも専門的な内容らしいから理解できるかは分からないですが」


「そんなのがあるの!?」


「らしいです。

 なんでも魔王様のお身体の一部をバックアップデータ用に使っていたようで」



 バックアップデータ…。

 まあ、ねえ。

 バックアップを取っておくのは大事だよね…。



「前山さん、大丈夫?

 少し落ち着いた?」


「ちょっとね」


「待ってて。

 オレのうちからジュース持ってくるよ。

 飲み物欲しいでしょ」



 そう言うと乙女木君は手近なドアを開けて自宅へ行ったようだ。



 ふー……。

 どうしたものかな。


 今後の方針を考えなくちゃあなー

 実は結構ヤバくなってないかな……。


 今まで通り、女子高生として普通に生きていく方針だとするよ?

 もう数年したら、私の記憶が戻っちゃうかも知れない。


 仮に戻らないという楽観的な希望が叶ったとして…


 記憶の戻った魔族が私のところに押しかけて来るんだよね予定として。

 これはもう確実に?


 そいつらどうしたらいいんだろ。


「そのまま人間として暮らしとけ」って命令するの?

 聞くかな?

 乙女木君みたいに真の魔王の言葉じゃないと聞かないとか言い出すかも。


 魔王の代わりに乙女木君に命令させてみたら?


 大抵の魔族はそれでいけるかも知れないけど、確か乙女木君レベルの幹部的な奴らがあと3人くらいいたような記憶があるんだよねぇ…。

 そいつらが素直に同格の乙女木君の命令を聞くとは思えないなぁ…。


 するとどうなるか。


 わざわざ人類滅亡の目的で転生までして来た連中だよ。

 計画を遂行しようって詰め寄ってくるかも。

 やる気のない魔王を排除して誰かが魔王に成り代わろうとするかな。

 そしたら素直に譲ることは吝かではないけど、最悪バトル展開になって魔王道一直線か…。


 万が一、平和的に魔王の座を譲ったとして。

 今度はそいつが人類を滅亡ないし支配とかしようとするかも…。

 それじゃ当然平和な将来設計は絶望的じゃないの。


 ああ、どうしよう…。



「前山さん、ジュース。

 自宅にドクターペッパーしかなかった」


「ドクターペッパー」



 人は緊張やストレスで味が分からなくなるという話を聞いたことがある。

 ドクターペッパーの味が分からなければ相当私は途方に暮れていることになるんだろうな。


 ぐびぐびぐび…


 ぷはー


 ……うん、分かるわ。

 やっぱドクターペッパーは薬っぽい。

 クセになるね。



「ふう、さすがドクターペッパー、落ち着いた…」


「さすがドクターペッパー、やりますね」



 ドクターペッパーを飲んで落ち着いた私は冷静に考えることが出来る。



「ともかく。普通人間の成長って10代では止まらないと思うから記憶が自然に戻るのはそれ以降と考えてもいいんじゃないかな。

 それまではまだ少し猶予があるよね!

 私は諦めないよ!

 明るい未来はこの手でつかみ取ってみせるんだから!」


 そんな私を、乙女木君はじっと見ている。


 いつもよりなんか、なんだろ?


 ああそっか。いつものニコニコした表情じゃなくて。

 確かに笑顔なんだけど。


 すごく優しい。


 魔族ってこんな風に笑える生き物なの? 


「前山さんなら出来るよ。

 オレは君の味方だからね」



あんまり笑顔が優しかったから、この信用できない彼氏を信じてもいいかなって私は思っちゃったよ。







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宜しければゼヒ…

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