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12 ゲームを楽しもうね(終話)


 前山まえやまひとみの人生に戻ろうと思う。


 17年生きてきたんだ。

 出来ないことはない。




 転生によりほんの少しの時間、忌々しい呪いから逃れられるかとは期待したが。

 まさか17年も忘れていられるとは思わなかった。

 この身には過ぎた贈り物だったな。


 この身は呪われている。


 私は人類への恨みを抱いた女の情念から生まれた怪物。

 人類を滅ぼすことが私の存在する意味だ。

 それも出来る限り残酷な方法が望ましい。


 別にそれを嫌だと思ったことはなかった。

 人類が滅亡しようが私の知ったことではない。


 魔族は人間の世界では生きられない。

 だがこの身は人の世界に順応するよう作られた。

 そのため私だけは人の世界で活動出来た。


 しかし、それでも十分に力を発揮することは出来ない。

 人間は多いし、範囲も広すぎる。


 私の素材になった女は、魔女と呼ばれたらしい。


 あの女の残した研究資料を使うために人間の世界に一人で渡った。


 私の身もその研究の成果であるが、他にも魔物を人間の身体という憑巫よりましを利用することで人間の世界で活動させられることは分かっていた。


 配下である魔族を人間の世界に呼び寄せるため、私は人間の新鮮な死体を探した。

 凍死体は最適だ。

 損傷は少なく保存もきく。



 魔女が生きていた地、その冬山に私は拠点を設けた。

 何体もの死体を使用し魔族の憑巫よりましとする実験を続けていた。


 生きている人間を使ってみたこともあるが、これは駄目だったな。

 酷い抵抗を受けてそもそも憑巫よりましにならない。




 そんなある日、私は『リエル』に会った。


 死体が転がっていると思って小屋まで引きずって帰ったが、まだ生きていた。

 そのまま凍死を待とうと外に置いておいたのに、あいつは小屋のドアを叩いた。


 助ける気はなかったんだが、話を聞く限り麓の村の連中から処刑されかかったところを逃げたという。

 それは魔女の記憶と同じ。

 昔の私を助けるのならば良いかと思ったんだよ。


 それに興味もあった。


 私は魔女の記憶を引き継いでいるから人間のことを知っている。

 だが直接人間と接触したことはなかったから。

 少しだけ人間のふりをして観察してみようと思ったんだ。



 観察しているうちに、自分が楽しんでいることを自覚した。

 誰かと一緒に食べる飯が美味いことを初めて知った。


 リエルは私が人間とは違うと知っても排除しようとはしない。

 私の記憶の中では、人間は自分と違うものを駆除しようとするものだったのに。


 リエルの国で一緒に暮らそうと誘われた。

 面白そうだと思った。



 そのとき初めて、復讐のため人類を滅亡させることをやめようかと思った。



 私は知らなかった。

 それがこの身にとっては許されないことを。


 それを考えるだけで、私の身は引き裂かれるような苦痛に襲われた。

 私の思考に流れ込む魔女の情念に気が狂うかと思われた。


 あのままいけば私は魔女の情念そのものに変わり果てたかも知れない。


 思考もなく計画もなく、ただ人間を殺すためだけの存在になっていた。


 私が私であるために、やはりこの課題だけは残していくことは出来ない。

 これさえ果たせば私は自由になれるに違いない。



 リエルに裏切られたとき、私は奴を酷く憎いと思った。


 しかし、そう思ってしまうのは私自身の責任でもある。

 私があいつを信じてしまったから。


 多分、好きだったんだと思う。


 だからこそ憎かった。

 私よりも、あいつは他の人間を選んだ。


 憎かったからこそ、最も残酷な死が相応しいと思ったよ。



 生きたまま竜王の憑巫よりましとして使った。


 リエルの身体は魔族の世界に連れてきてほとんど半死半生の状態だった。

 竜王は私にとってはとっておきの配下だ。

 従順で、最も強力な魔族。


 その竜王が侵食すればどうせ消えると思ったな。


 もしも抵抗を受け使用が無理なようなら改めて殺そうというくらいの軽い気持ちだったが、無事に憑巫よりましとして使えた。


 リエルは消えたと思った。


 だが、竜王の言ったとおり、やはり私は望んでいたのだろう。


 おまえを手に入れることを。




 その後、竜王の他にも何人かの魔族を引き連れ、人間の世界で少し破壊活動をしてみたが、どうにも調子が悪い。


 私が例の村を燃やしたときも、あんな小さい村ですら1つ破壊するだけで疲れてしまった。

 憑巫よりましを得た魔族も同様で、どうにも火力が足りない。


 もっと別の手を打つ必要があった。

 それが今回の転生計画だった。




 前山まえやまひとみとして生きて来た17年間。

 たった17年だというのに、私はあまりに多くのことを学んだ。


 それまでは人間を知らなさ過ぎた。


『女』を選んだのは、まあね。

 竜王は女の方が好きだと言うし。

 リエルも私を女だと思ったようだったから。


 もしも私が女で、魔女のように男をたぶらかすことが出来たのなら、リエルも裏切らなかったかも知れない。

 そんな愚かな考えがよぎったんだ。

 別に性別にこだわりもないことだし、それも面白いかなと。



 17年の経験をもとに、私が知ったことがあった。

 


 まずリエルの裏切りについて。


 あのときは裏切られたとばかり思っていたが、本当にそうだったのか。

 それならばなぜ、竜王を受け入れたんだ。

 そして今、なぜお前の口から謝罪が語られたのか。

 

 あのとき私は経験が乏しすぎて、人間の心というものを理解していなかった。


 今は分かる。

 私が呪いに縛られているのと同じように、おまえもまた人間の規範に縛られていたのだな。


 だからもう、私自身は人間を憎む気はない。


 それどころか、人間としての経験はあまりに楽しくて。

 もはや愛さずにはいられない。



 そして竜王の献身について。


 私に忠誠を誓い、私の傍にいるためだけに自分の身を契約で縛ることを許した竜王。

 記憶を失っても、それでも私のことを決して忘れなかった。


 散々利用していたというのに、それを恨みもせず。

 自分が変わることも恐れずに、リエルを取り込んだあいつ。


 竜王は私のことを本当に愛しているのだな。

 昔は考えもしなかったよ。

 こんなにも想ってくれたこと、ずっと気が付かずにいて申し訳なかったな。


 人として生きるうち、私もね、まるで人が愛するようにおまえのことを好きになっていた。

 

 ママゴトみたいなものかも知れないが、おまえが私との結婚を望むのならしてやろうかと。


 女としてのこの身体も味わわせてやろうかと思ったのだがね。


 あいつ思った以上に人間として真面目だったようだ。

 今はクッキーくらいがちょうど良かったらしい。ふふ。




 だがそれもこれも全て、人類を滅亡させるまでの話。

 

 私は人類を滅亡させなければ。

 それをやめることを考えれば私は崩壊してしまう。


 私の行動は全て、人類を滅ぼす目的のため。

 慎重で確実な計画も、時宜を待つ遂行も全て。

 最も残酷な手段で人類を滅亡させるため。


 だが、完璧な計画は実現までに時間が掛かるもの。




 私が駆け引きしている相手は、私の中の『呪い』なんだよ。


 


 そして最後に。

 人間として生きた17年間に学んだ大切なこと。



『私は、絶対にあきらめない』



 あまりに楽しかった前山瞳としての17年間。

 そこで私は『未来への希望』を学んだ。


『人生を楽しむ気持ち』というのは、ここまで人を強くするものなのだな。


 

 もう二度と戻れないと一度は諦めそうになったが、私らしくもないじゃないか。



 今なら勝てる。

 私は、この駆け引きに勝ってみせる。

 



________________




 そんなわけでこんにちは!

 私は前山まえやまひとみ

 現役女子高生なの!


 いやいやまさか、私がここまで自分が『現役女子高生』だということに強くこだわるようになるなんて思いもしなかったな。


 私は現役女子高生!!

 例え過去がなんであれ、まだ未来は見えないとしても!!


 それでも!!

 私は可能性いっぱいの現役女子高生なのです!

 未来はこの手で切り開くの!


 まさにもうこれこそが本題なので続けるね。




 前山瞳が消えていた間のことは乙女木君が調整してくれていたので、元に戻るのは大変じゃなかった。

 有能な配下で嬉しいよ。


 なんでも結界を張るときの要領で、家族には私が『いること』も『いないこと』も認識出来ていなかったみたい。

 つまり同じ家にいるけど顔を合わせないな、って程度の認識。


 そして冬休みが終わって、再び私は学校に通います。



「よーし、高二の三学期!

 気合入れていくぞっと」


 久しぶりに制服着ちゃう。

 うちの制服はセーラー服です。


 冬の寒い時期って、空気がぴりっとしてて気持ちいいね。

 普通の女子高生なら生足が寒くて鳥肌立っちゃうところだよ。


 私は平気だけど。

 なにせ人が凍えるような冬山を薄着で走り回るような子ですから。



「前山さん、おはよー」


 やっぱり乙女木君は登校時を合わせてくるなぁ。


 もう知ってるけどね。

 こいつ私の気配が完璧に分かるんだよ。

 私が隠そうとしない限り。

 だから命令のために呼ぶとすぐに来るし。


「あのさ、前山さん。

 例の計画、オレに話してくれてもいいんじゃない?」


 人類滅亡計画のことですか。


「その手の話は学校終わってからね。

 またシアタールームで話そ」


「う、うん。じゃあまたお菓子持っていくね。

 飲み物はドクターペッパーでいい?

 ガラナもあるよ?」


「セブンアップにして」


「らじゃ」




 そんなわけで人類滅亡計画は進行中です。


 これから暫く経てば、他の魔族の仲間も来ることだし。

 しかもみんな人間のポジション持ってるわけなんだよ。


 私は日本に育ってるけど、仲間は世界中にいるんだ。

 まだ思い出していないだろうけど。




 私ね、最高に残酷で楽しい人類滅亡計画立てたんだよ。


 私は他の魔族達と一緒に人間の世界を侵食するよ。

 各国の重要なポストを占めて、中枢を魔族で固めるの。

 私たちのスペックを使えば余裕だと思うのよ。


 そして少しずつ、着実に人間を減らしていく。

 あいつら、自分たちと違うヤツを排除する習性があるのは知ってるからね。

 分断させて相互に殺し合いさせて減らしていくんだ。


 確かに今の私達なら、力づくで人間を滅亡させるだけの火力は備えられるはずだけど、それじゃあつまらない。


 人間は自らの愚かさで滅ぶのが相応しい。

 滅亡までの時間をどれだけ長引かせることが出来るかは人間次第なの。


 それってきっと魔女の復讐としてもすっごく魅力的だと思わない?




 ねえ竜王。


 私は君に共犯者になって欲しいな。

 だから前世だけじゃなく『全て』思い出して欲しかったの。


 私の呪いを理解して、時間のかかるこの計画に最後まで付き合ってもらえるように。

 むしろこの計画をより一層完璧なものにするために。



 そして一緒に楽しんで欲しい。


 どれだけ人類が生き永らえるか、そのゲームをね。


 長いゲームだもん。

 合間に日々の生活を楽しむのだってアリだと思います。




 ふふっ。人生楽しい!








 おわり










終わりです。

ある意味物語の始まりかも知れないけどこのへんで。


ちなみに明日からは別の作品を出す予定です。


↓評価★や感想などいただけると泣いて喜びます。

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