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11 残酷なヒト


 どうもこんにちは。

 僕は竜王です。

 魔王様の側近だよ。


 魔王様にガチガチに契約で縛られちゃって、魔王様に絶対服従してます。



「マリアさ…じゃなくて魔王様か。

 なに? 僕なにかおかしい?」


 魔王様がまた僕のことを変な目で見てる。

 じっと見られるのは恥ずかしいな。


「リエル…?」


「リエル? ああ、この憑巫よりましの名前だね。

 前山さんが『全て思い出しなさい』って命令したもんだからなんか弾みで思い出しちゃったみたい」


 いやあ、まさか僕も自分の中にあんな記憶があったなんて、ちょっとだけ驚いたけど。でもま


「アレ今は僕の一部だからね。

 それよりお菓子調達したんで食べません?」


 僕のおススメのお菓子。

 輸入物でなかなか手に入らないんだけど今回は製造元に直接取りに行っちゃった。

 袋を開けて魔王様に勧めます。



「いただこう…。ではなく!

 リエルのことは殺したはずだ」


「生きたまま憑坐よりましになんてするから死ななかったんだね多分」


 それにしてもここのお菓子、やっぱり美味しいねぇ。

 魔王様の口にも合うといいな。

 


「私としては、生きたまま飲み込まれる恐怖を感じながらおまえが死ぬべきだと…」


「またまた~。

 魔王様のように慎重な人がそんなツメの甘いことするわけない。

 僕を生かす気だったんでしょ」


「そんなことは…」



 目の前のマリ……ああもう。

 魔王様は複雑な表情で僕を見てる。


 記憶の中の魔王様よりもずっと若いね。

 女子高生だって。かわいいな。



「そんな悪ぶらなくっても大丈夫だって。

 僕は今、竜王そのものだからね。素晴らしいよ。

 契約で完全に縛られてる。

 これならもう僕は君を裏切ることもない。嬉しいな」


 本当にお菓子が美味しい。

 大好きなマリアさ…、いやいや魔王様と一緒に食べてるから一層美味しいんだね。

 魔王様もさっきからお菓子をつまんでいる。


「おまえ大丈夫なのか…?」


「? なにか問題でも?」



 魔王様ってば変なの。


「それよりシアタールーム行こうよ。

 コタツもまだそのままだし。

 お菓子があるんだからお茶も欲しいでしょ」


「…あ、ああ」



 そんなわけで僕らはシアタールームに移動した。

 やっぱりお茶とお菓子はコタツが合うよね。

 片付けないでおいて良かった。


 今の魔王様はコタツで暖を取る必要はないんだ。

 でも札幌の件といい、魔王様も人間の習慣から離脱する気は今のとこないみたいだしね。


「どうぞ。お茶」


「それよりちゃんと説明して欲しい。

 竜王? おまえ一体誰なんだ」


「誰って…。僕は竜王ですってば」


「だが以前とは違うよな」


「前山さん前もそんなこと言ったよね。

 でも僕はずっと変わらないよ」



 何も変わらない。

 僕はずっと僕。


 魔王様に忠誠を誓ってから、お傍にいたくて。

 そう伝えたら、契約で僕を縛ることを条件にお傍に仕えることを許してもらった。


「リエルを取り込んだのか?」


「ん~? なんとなく覚えてるけど、僕がその人間を侵食しようとしたとき、むしろ人間の僕はそれを歓迎したんだよね。

 だって竜王が僕の身体を使うなら、もう僕の身体は君を裏切らないんだから」


 うーん、両方僕だから言葉にすると意味わからないな。


「いや、だってね。やっぱり僕って人間だったじゃない?

 人間としては人殺しとか認めるわけにいかないんだよ。

 君のために良かれと思ってやったことが結局君を裏切ることになっちゃったね。

 だけど今はもう僕は人間の良心ってのに縛られないわけで」


 もう僕は人間の良心と関係ない。

 だから君が望むなら人を殺すことも大丈夫。

 人類滅亡だって協力出来る。


 どんなに僕自身がそれを拒否したいと思っても契約で縛られているんだよ。

 最高だね。


「魔王様だって僕に人類滅亡に協力して欲しいって言ってたよね。

 何して欲しい?

 っと、いけない。まず最初に言うべきだった。

 裏切ったと思われても仕方なかった。ゴメン」


 うーん、スッキリした。

 ずっとずっと謝りたかったんだ。


「もし魔王様があのときの僕の裏切りを許せないなら、甘んじて罰も受けるつもりだから、遠慮なく言ってね」


 魔王様が疑り深いのは、僕のせいでもあったのかも知れない。

 それなら少しでも償いたいよ。


 魔王様は訝しげな表情のまま、無言で僕の顔をじっと見ている。



「なにか僕おかしい?

 でもまあいいじゃない。

 しばらくはこのままで。

 僕は今すごく嬉しいし」


「嬉しい?」


「嬉しいのは、マリアさ…ごめん。

 魔王様がずっと僕のことを思っていてくれたことが分かったから。

 僕の姿を見るたびに思い出してくれてたんだよね」


「それは…」


「魔王様がずっと見てたのって、その『リエル』なんでしょ?

 リエルを手に入れるために、オレの忠誠心を利用したね。

 契約で縛られた竜王に取り込ませることでその人間に服従させた。

 全部魔王様の目論見もくろみ通り」



 魔王様はその『リエル』が欲しくて欲しくて、女の身体を利用してまでも僕を更に縛ろうとしたんだ。


 魔王様らしいや。

 計算高くて酷い方だ。



「でもソレはもう僕の一部だから。

 つまり魔王様が大好きなのは僕なんだよね。嬉しいなぁ」


 魔王様が大好きな『リエル』を生きたまま取り込むことが出来たから、僕は今、魔王様が大好きなモノそのものなんだ。


 この手はいいね。

 今後も魔王様に欲しい相手が出来たら取り込む方針で行くのも悪くない。


 うん。お菓子が美味しい。


 あれ? 魔王様?

 もう食べないんですか?

 お口に合いませんでした?


 魔王様は黙って席を立ち、どこかへ姿を消してしまった。


 魔王様?

 全部魔王様の望み通りなのに。

 計画通りなんですよね。


 なのに、さっきからちっとも嬉しそうに見えない。


 いきなり欲しかったものが目の前に出てきたから照れてらっしゃるのかな?

 それとも、僕は何か間違えてる?



 女の子の気持ちは複雑過ぎる。

 ただでさえ魔王様は複雑なのに。


 何か欲しいものがあるなら、言ってくれれば何でも調達するのにな…。





_____________




乙女木おとめぎ君」


「なに?」


 不意に呼ばれて疑問もなく返事をしたけど、魔王様からその名前で呼ばれるとは思わなかった。


「24日クリスマスイヴは過ぎてたね」


「……うん」



 楽しみにしていたクリスマス。

 前山さんとふたりで過ごすつもりだったんだ。

 ケーキ囲んだりクリスマスイルミネーション見たりしたかったな。

 寒いね、とか言いながら手を握ってみたりして。


 でも魔王様とは一緒に過ごしてたから、これ以上の贅沢は言わない。


 で? なんでその話題?


「本当は手作りのジンジャークッキーをクリスマスプレゼントに君にあげようと思ってたの。

 でもそれどころじゃなくなっちゃったから。

 店で売ってたものだけど」


 そう言って赤くてクリスマスらしい包装紙に包まれたものを僕に渡してくれた。

 中には地元で評判の洋菓子店のクッキーが入っている。


 うれしい…。

 よく考えたら魔王様から何かいただけたのって憑坐よりましもらって以来じゃないか。


 どうしようコレ、勿体なくて食えそうにないよ。


「あ、ありがとう。

 オレ、プレゼント用意してないや」


「君にはいろいろお世話になってたからプレゼントしたいなと思ったの。

 君にあげたかったんだよ?

 だけど、利用してると言われても仕方なかったね」


「利用していいんだよ、オレのこと」


「分かってる」



 魔王様が何を言いたいのか、本当に分からない。

 何か、言いたくても言えないことがあるんだろうか。


 魔王様に絶対服従している僕にも言えないことなんてあるはずがないのに。

 だって僕相手に駆け引きは必要ないんだから。



「ねえ、乙女木君。私戻ろうと思うの。

 前山瞳の人生に」


「え? 戻れないって言ってなかった?」


「そうね。戻ったら殺すとき辛いから戻りたくないと思ってるけど。でも」


 なんだろう。

 前山さん。

 君の強い意志を感じる。


 ともかく何か理由があるにしろ僕は魔王様に従うだけだ。



「分かりました。

 戻れるように調整しておきます」


「お願いね」



 正直、本当に分からない。

 魔王様が何を考えているのか。

 行き当たりばったりに見えないでもないけど、魔王様に限ってそんなはずはない。

 絶対何か計画しているんだと思う。


 でもどんな計画だったとしても僕は君の味方だからね。


 だって、契約とか忠誠心なんて関係なくても、オレはずっと君のことが好きなんだ。

 君が求めるならオレはなんだって出来るんだから。



 例え僕が変わってしまったとしても、その気持ちは絶対に変わらないから。








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宜しければゼヒ…


『魔王の顧問弁護士( https://ncode.syosetu.com/n5485gj/ )』の方は完結してますのでそっちも宜しければ。多分ちゃんとおもしろいと思うんで。

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