1 魔王だったみたい
1話目はこれだけで完結の予定で書いたので、1話目のみ長めになっています。
短編でお読みの方は2話目からどぞ。
こんにちは!
私は前山瞳!
現役女子高生なの!
……って、こんな自己紹介する女子高生なんてアダルト系の宣伝広告か男向けのライトノベルの女子高生くらいなんじゃないのかな。
だって女子高生って、性別が女で、ちょうど年齢的に高校に通っているだけのこと。
別にそこがポイントだなんてちっとも思わないし。
『女子高生』を変なエロ記号みたいに扱われるのはムカつくね。
ま。そんなことはどうでもいいや。
本題に入ろっと。
どうもね。
私は前世で『魔王』だったみたい。
『みたい』というのは、実を言うと正確なところは憶えてないからなんだけど。
生まれたときからなんとなくそう思っていたの。
そんなこと言うと中二病とか思われそうでイヤだなぁ。
でも多分間違いない。
実際、小さい頃から『魔力』による奇妙な力があったわけよ。
何が出来るかと言われると、何でも出来ちゃうレベルで。
でね。
最初は『魔王』なんて言葉も知らなかった。
でもその『力』を使うほど少しずつ『前世の記憶』を思い出していったわけ。
そしてあるとき
「そっか。私魔王だったんだー」って思い出したの。
それで私もまだ子どもじゃない?
好奇心いっぱい。
次々にいろいろなことを思い出すのが楽しくて、いろいろ『力』を試してみたんだけど…。
そのうち気が付いちゃった。
「あ。これダメなヤツだ」って。
これ以上思い出しちゃいけないって分かった。
だって前世の魔王の目的は『人類滅亡』なんだよ。
世界征服とか支配とかじゃなくて、滅亡!
人類皆殺しにしようと思ってたみたい。
で、この転生もその計画のうちだったみたいなの。
さすがに10歳くらいで気が付いたよ。
人類の滅亡にそれだけの執念を燃やすような魔王なんて言ったら、絶対ヤバい人生経験あったに違いないよ。
トラウマになるようなの。
そうじゃなくちゃ人間を滅亡させようなんて思わないって。
そんなの小学生でも分かる。
このまま順調に思い出してしまうと、きっとそのヤバい人生経験を思い出しちゃうってことでしょ。
それ多分、忘れてたままの方がいいやつ。
だから私はもう思い出すのをやめた。
楽しい『力』だったけど『魔力』みたいなのを使うのはやめた。
もう何年も使ってない。
本当に困ったときには使うのは仕方ないと思うけど。
ちょっとくらいのピンチでは絶対使わない。
私は優秀な女子高生だからそこまでピンチになることって滅多にない。
そう。私は優秀なの。
友達もいるし、成績もいいし。
かわいいし! スタイルも完璧。
我ながら恵まれてると思う。
家庭も円満で何不自由ないからね。
それなのにこの環境を壊すようなことはしたくない。
だから『魔王』のことは忘れました!
このまま楽しく人生を送るつもり。
女子高生終わったら大学に進学する予定なんだ。
模試の成績も好調だし受験に失敗することはないと思う。
それで将来はそうねぇ。
医者とかいいかな。
弁護士でもいいかな。
海外に出るのもいい。
未来は明るいはず。
でも、私はそれでいいんだけど…。
あいつは放っておいてくれるかなぁ。
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同じクラスの男子。
乙女木竜由。
家は近所だし、同じ幼稚園に通ってたし小学校も中学校も同じだった。
その上まさか同じ高校を受験して入学しちゃうなんてね。
確かに自宅から近かったしレベルも丁度良い具合だったから重なってもおかしくはない。
教室でも彼は私のことが気になる様子で、ちらちらこっちのことを見てくる。
ときどき声も掛けてくる。
特に用事がなくても。
「最近どお?」
とか。
ああ、今また声を掛けられた。
「別に」
それだけ返事をすると私は席を立った。
なんで同じクラスになっちゃったかな。
休み時間なのにあそこにいると乙女木君と顔を合わせることになっちゃうから教室から出ちゃおうっと。
私は極力そっけなくしている。
というか出来るだけ近寄りたくない。
「前山って、なんか乙女木にだけ冷たくないか」
教室からそんな声が聞こえた。
うう、口惜しいな。
私は誰にでも優しく接する良い子ともっぱらの評判なのに。
乙女木君がいるとそのキャラクターが維持出来ない。
でも彼にだけは近寄りたくない。
別に嫌いなわけじゃないよ。
気にかけてくれるのは悪くない。
小さい頃から知ってるけど、性格が良いのも分かってる。
気さくで明るくてユーモアがあって。
クラスのみんなから好かれてる。
高校生になって身長も伸びて、なんかね。カッコ良くなったと思うよ。
顔は、いい。
切れ長の目がクールなカンジなのに、笑顔を絶やさないからそのギャップがまた悪くない。
成績も悪くないようだし、運動も得意みたい。
欠点なんてあるかな。
不潔なところもないし。
デリカシーの無い発言もしないし…。
ここまで来ると、なんか腹が立ってきちゃうよ。
嫌えれば良かったのに。
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「前山さん」
下校時間。
途中まで一緒にいた友達と別れたところだった。
そのタイミングで声を掛けてきた。
やっぱり乙女木君だ。
ストーカーか?
いや違うか。家が本当に近いから…。
なんと言って避けようか。
「…お疲れ。また明日」
「ちょっと待ってって」
今日は引き下がらないな。
「ね、前山さん。オレのこと嫌ってたりする?」
「別に。じゃあさよなら」
「少しだけ。喋ろうよ」
「なに? 何か用事でも?」
つい睨みつけてしまった。
だってこいつしつこいから…。
こっちがどんな気で素っ気ない態度を取ってるか知りもしないで。
知らせたくもないし。
ああ腹が立つなぁ。
「小さい頃から知ってるのに、なんでそんなに嫌うんだよ」
「嫌われてると思うなら、どうしてそんなに構おうとするの?」
あ。しまった。
質問で返しちゃった。
質問で返すと会話になってしまう。
「そりゃあ、小さい頃からずっと、前山さんのことが気になってて」
ええそうでしょう。
私が気になって気になって仕方ないんだよね。
分かってる。
腹が立つ!腹が立つよ。
その理由も分かってるからなおさら。
そしてその理由は、私は知ってるけど君は知らない。
それがまたムカつく。
『どうして気になるの?』なんて聞いてやらない。
無視して私は自宅に向かって歩き続けた。
「前山さん、オレ、君のこと…」
言うな。
それは違うから。
間違いだから。
全部。
「君のこと、すごく好きみたいで」
ああ、言ってしまった。
誤解なのに。
乙女木君が私のことが気になって仕方ないのは…。
いやそもそも生まれたときから私の近くにいるのは…。
君が『魔王』の配下だからなの。
私が思い出した範囲のことだけど、君は魔王に永遠の忠誠を誓った忠実な配下。
誰よりも魔王に近く、常に傍にいた魔族。
魔王が転生するときにも、君は魔王に従うために同じ場所を狙って来たの。
だけど君は憶えてない。
なのに忠誠心だけはしっかり根付いているから、とにかく魔王だった私のことが気になって仕方ないだけなの。
だからね。恋愛感情とかじゃないの。
私はどうしたらいいんだろう。
そんなこと説明して分かってもらえるわけないし。
説明して「ヤバい女」とか思われて嫌われるならいいけど、こいつの忠誠心は並みじゃないから、多分嫌わない。
心配するかな。
ひょっとしたら信じようとするかも。
信じるためにどんどん私の近くに来てしまうかも。
忘れてる前世を思い出させるのは、多分難しいことじゃない。
私が『命令』すれば一発で思い出すはず。
でも『命令』って『力』の行使なの。
私はもう『力』は使いたくないんだってば。
……なんか面倒くさくなっちゃったな。
こっちはいろいろ考慮して距離を取ってるっていうのに。
これでも、君のためだと思ったんだよ?
でも、もういいか。
そこまで親切することもないよね。
「乙女木君、私のこと好きなんだ?」
「好き……だよ」
「じゃあ付き合う?」
「!? なんで? いいの?」
もうね。
誤解とか解くの面倒くさいの。
君が誤解してるのは知ってたから頑張って距離を取ってきたけど、いっそこれでいいや。
距離を取るのが無理なら、君の誤解に乗ってしまうことにする。
「前山さん、オレのこと嫌いなんじゃないかって思ってたから」
「別に好きでもないけど。
でも根負けしちゃった。付き合ってもいいよ」
「……あ、ありがとう。
やっぱりオープンじゃないカンジがいい?」
「そね。みんなに冷やかされるのはイヤね」
「分かった。
じゃあ休みの日に会ったりしよう?」
「…他に用事がなければ」
『付き合う』という話のはずなのに、それでも今までの習慣で我ながらかなり素っ気なかったと思う。
それなのに乙女木君ときたらなんだか嬉しそうで、顔が緩い。
自宅の前に着いて別れたけど、その後ろ姿から足取りが軽く浮かれてるのが分かる。
……自分で付き合うと言ったけど……。
あの浮かれっぷりはやっぱりムカつくなぁ……。
なんであいつだけ一人青春みたいな気分に浸ってるの?
やっぱりこれはズルいと思う。
・・・・・。
道連れにしてやりたい。
________________
乙女木君と付き合うという話になっても、周囲にオープンなのはイヤだから。
だから登下校も一緒にするつもりはない。
なのに家が近いから、偶然一緒になってしまった。
……いや、狙っているかも知れない。
記憶の中ではコイツは本当に魔王の一挙手一投足に注意を払って常に付き従うようなヤツだったし。
腹心中の腹心だったんだろうね。
「休みにどこか行きたい場所とかある?
映画とか観に行く?」
さっそくお誘いですか。
「今は別に観たい映画がないから」
「なら、ちょっと足を延ばして大きい本屋行かない?
参考書を物色したいんだ」
「本屋かぁ。それはいいかも」
本屋は好きなの。
「じゃあ続きは下校のときにね」
そう言って校門で別れた。
こいつ……下校も合わせてくる気か…。
やっぱり『付き合う』というのは早まってしまったかな。
私としたことが……。
そしてね……。
校門で一旦別れたにしても、同じクラスなのよ。
教室で目が合うと、乙女木君はニコニコと笑って手をヒラヒラとさせてくる。
く……。なんてことだ……。
この浮かれポンチが……。
クラスメイト達、絶対おかしいと思ってる。
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「前山と何かあった?」
乙女木君がクラスメイトの山本君に聞かれている。
そうだよねぇ。
「昨日思い切って聞いてみたんだよ。
オレのこと嫌いかって。
そしたら嫌われてなかった」
「そんだけ?」
「そうだよ。ね? 前山さん」
こっちに話を振るな。
「うん。別に嫌ってない。
ジロジロ見るから不躾だなーって思ってただけ」
「ひどい」
そう言いながら相変わらずニコニコと嬉しそうだ。
嬉しそうであればそれだけ、こっちは腹が立つのが不公平だと思う。
君が私のことが気になるのは、私への忠誠心から。
私を見守り従うことが君の仕事だと、その魂に刻まれているから。
だからそれは恋愛感情とかいう甘いものじゃない。
今世で私が女の子で、君が男だから。
だからなんか誤解してしまったんだと思う。
多分、同性であったとしてもやっぱり君は私のことが気になって仕方なかったと思うよ。
その誤解に乗ったフリをしてるけど、それを真に受けるほど私もバカじゃない。
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土曜日。
結局、私は乙女木君と一駅離れた大型書店へ行くことになった。
健康な高校生だから運動も兼ねて一駅分は歩くことにする。
というか、高校生はあまりお金を持っていません。
節約をしたいのです。
勿論、稼ごうと思えば高校生だろうがどうだろうが、私なら稼ぐことが出来るけど。
魔力とか使っちゃえばね。
でもそんなことはしない。
決めてるから。
前世のことは忘れて楽しく人生を送ろうって。
だから魔力も使いません。
それなら記憶もこれ以上蘇らないはずだもんね。
隣でヘラヘラ笑いながら歩いているこいつ…。
こいつさえ邪魔しなければ…。
つい険しい目で睨んでしまう。
なのに、それを嬉しそうに見てくる。
「乙女木君、私といて楽しい?
私は会話相手としてはイマイチだと思うんだけどな」
本当に、何が楽しいんだろう。
「え?楽しいよ。
まず前山さんがオレを嫌ってなかったのが嬉しいし……。
それどころか付き合うなんて、それって割とオレのこと好きってことだよね」
「どうかな」
「こうして一緒に出掛けてくれてるし」
「本屋好きだから」
実際のところ、本屋デートとでも言うのか、結構楽しかった。
参考書を物色した後は好きな小説を紹介し合ったり、新刊を見て回ったり。
街歩きガイドブックなんて見ながら、どこ行ってみたいねとか喋ったり。
本屋を歩き回っただけで、半日経ってしまいました。
帰り道もやっぱり歩き。
「疲れてない?
学校に定期券で行ってるヤツ羨ましいよな。
こういうときに定期の範囲で遠出できるの。
オレも前山さんも徒歩圏内だからね」
結構楽しかったけど、でも気が付かないものかな。
私のことが好きだって気持ちが誤解だって。
「乙女木君、私の何がそんなに気になったの?」
「そりゃあ、ね。
小さい頃からずっと気になってたから。
傍にいたくて」
側近中の側近ですからね。
「傍にいるのが自然な気がしたからかな」
ほーらね。
恋愛感情なんかじゃないでしょ。
君は『魔王』の傍にいるのが仕事なだけ。
「それに、前山さんのことを見てると、何か…宝物のようなものを見てるような……。
うーん、うまく言えないな」
さぶい…。
付き合うと言ってしまったから付き合ってるけど、この茶番にいつまで付き合えばいいんだろう。
いっそ私もキレイさっぱり忘れていたら良かったのにな。
そしたらこのイケメンに育った幼馴染の同級生と仲良くして楽しい高校生活の思い出とか作れたかも知れないのに。
そうね。
顔は好き。
性格も好き。
傍にいるのが自然だと私も感じる。
今日も一日、楽しかったし。
でもそれは全部、前世に引きずられちゃってるから。
ヨクナイ傾向なの。
でも多分、どんなに逃げてもこいつは追いかけてくる。
海外に行っても追ってくると思う。
そういうヤツだったことは何となく覚えてる。
それこそ『魔王』が『追うな』と命令でもしない限り。
……しちゃう?
ほんの少しだけ、『力』を使って。
イヤだけど。
でも一度命令して二度と顔を見せなくなるなら……それくらいなら…。
こんな茶番を続けているよりもずっと効率的じゃないかな。
よし。
決めた。
「ね、乙女木君。ちょっと二人だけで話したいことがあるんだ」
「今は二人だけだよ?」
「こんな道端じゃなくて、誰もいないところ」
「え」
「そこの公園、寄っていいかな」
なんかセリフだけ聞くと大胆な女の子みたいね私。
でもこれからやることは、大胆な女の子以上に大胆なことだから。
まだ夕方だけど、公園に人の姿はなかった。
ちょうどいいな。
万が一のことがあった場合には結界張っちゃえばなんとか人の目は誤魔化せる。
できちゃうのよ、そういうの。
本当にやりたくないから、人が来ないといいな。
防犯カメラが映さない場所を探して……って何犯罪者みたいなこと考えてるかな。
「このへんでいっか」
「前山さん、話って?
言いづらいことなんだよね?
心配なことでもあるの?」
乙女木君は私のことを心配している。
本当にいい奴だと思うな。
でももう恋愛ゴッコは終わり。
楽しかったから。
これ以上、こんなことしたくないや。
全部嘘だから。
楽しいと思えば思うほど、自分が惨めになってくるから。
私は、魔力を瞳から解放した。
「全て思い出しなさい。竜王」
乙女木君の目の奥に、魔力を込めた命令を注ぎ込む。
「あ…」
「あああああああああああああ…!」
これで終わり。
サヨナラ、人間の乙女木君。
ほんの数日。
楽しかった。
「お…、思い、出した…!!」
乙女木君は私のことを食い入るように見つめている。
「あなたは、そうだ。
魔王様! 魔王様ですね!
そうか! そっかぁ…」
「そういうこと。分かった?」
「分かりました!
なるほどね!」
随分軽いな。
こいつ性格変わった?
前世でこんな軽かったかな?
「いやいや、どうりで。
魔王様お変わりありませんね!
相変わらずお美しい」
「…えーと?
確か前世では魔王は男だったかと思うんだけど?」
「男とは思えない絶世のお美しさでしたよ。
オレが好きになってしまうわけです」
「…何を言っているのかな?」
「オレ、前世で魔王様のことむちゃくちゃ好きでした。
でもまあオレの恋愛対象って女性だったから、なんでだろってずっと思ってたんですけどね。
そっかぁ。今回はその手の障害ないんですね。ついてたなぁ」
「君、そんな性格だったっけ?」
「あ、前世のオレって無口だったですね。
でも仕方ないんですよ。
竜なんて爬虫類みたいなものなんで口下手な種族だから。
でも今回はベースが人間ですからね!」
そ…そういうものなの?
確か私たちが人間に転生したのは、人間の世界では魔族は十分に力を発揮できないからで…。
人間の身体を得れば人間を滅ぼすことが可能だと考えたからで…。
この世界への適応のためなんだったよね…。
あれ?
これって私が今思い出したことかも。
やば。
「で、魔王様、いかがしますか?
人類滅亡させるんですよね。
仲間達も人間に転生して近くにいるはずです。
魔王様が喚べば簡単に集まってきますよ。
すぐにでも転移次元を作ってそこに城でも構えますけど」
いやいやいや、ダメダメダメ
「ち、違うの!
乙女木君の記憶を戻したのは違う目的なの!聞いて!」
「なんです?
魔王様のご意思に従いますよ」
あー……ビックリした。
すごいノリだった。
「あのね、私は魔王になりたくないの。
だからあなたに命令します。
もう私に構わないで」
乙女木君の表情が固まってる。
怒ったのかな。
「魔王になりたくない、ということは、あなたはまだ…」
彼の声は静かだ。
「まだ全部思い出してないし、思い出したくない」
「そうですか。
それも良いかも知れませんね」
あ、分かってくれたかも。
さすが腹心の配下。
「けれど、あなたがまだ魔王様ではないとうことは、オレはまだ命令に服従出来ないですね。
完全な魔王様のご命令とあらばどのような命令であっても従いますけど」
なにそれ。
「私を完全な魔王にするつもり?」
「いえいえ。
申し上げました通り服従はしませんから構うなと言われても従う気はないです。
でもあなたが人間として人生を送りたいならオレが全面的に協力します」
さっきまでの乙女木君はもっと分かりやすい男の子だったのに。
今は全く分からない相手になっちゃったみたいだ。
何を考えてるの?
「魔王になりたくないんでしょ?
そのために魔力を使うのも抑えていると。
ならオレを利用するといいですよ。
貴女が必要とするときにオレが代わりにやりますから。
良い手でしょ?」
「なんで?
服従しないのに協力するわけ?」
まさか私をハメようとしていない?
魔王にするために誘導しようとか。
「魔王様じゃないのでしたら服従はしません。
ですが貴女はオレの彼女でしょ?
オレと貴女は付き合ってるじゃないですか。
恋人として協力しますよ」
なんじゃそりゃああああああああ!!!
有効なの?
交際有効なままなの?
「とりあえず前山さん、もう疲れちゃったでしょ?
自宅までお送りしますよ」
そう言うと乙女木君は身体から大きな黒い翼を出した。
そして軽く私を抱えて空に羽ばたいてしまったですよ…。
「目立つ!! 目立つってば乙女木君!!」
「結界張ってますから目視はおろかレーダーにも探知されませんよ」
そしてあっという間に自宅前に着いた。
「ほら。オレ役に立つでしょ」
すっかり元の人間の姿に戻った彼は何でもないようにそう言う。
私はと言うと、なんか状況についていけない。
「今日は楽しかった。
前山さんとの初デート夢みたいでした。
じゃあまたね」
そんなことを言いながら投げキッスとかしてるよ。
大丈夫かコイツ…。
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そして翌週。
ヤツは何もなかったかのように登校時に時間を合わせて来やがった。
本屋で買った参考書の話題なんてしながら一緒に登校しちゃってさ。
そしてやっぱり何もなかったかのように授業を受けて、私と目が合うと手をヒラヒラさせてニコニコ笑っている。
変わらない…。
前世でもこんな感じだった。
一番近くで、ずっと付き従っていた。
どうしよう…
とりあえず何も考えず高校生活を続行することにします!
学生の本分は学問です。
勉強していればなんとかなるでしょ。
あの変なのは無視して、授業に集中することにしました。