5章 女神のヘレナ3
「いくか」
「あら?ここまででいいのよ」
「!?」
突然わいた声に目を見開き5人は振り返った。そこにはいつかみた女神と似た雰囲気の女がたっていた。
「女神…」
ヘイルダムは小さく後ろの4人に逃げるぞと声をかける。4人も視線をずらさず足をすこし動かし了承を伝える。緊張で張りつめる空気に女の笑い声が響く。
「逃げようなんて考えないでほしいわ」
ヘイルダムたちに手を向けなにかをいうとヘイルダムたちはみえないなにかに囚われた。
「くそっ!」
「ご苦労様。魔石はいただくわ。あと私はとても優しいの!一緒にグランディアにいきましょう」
転移により移動させられたヘイルダムたちの目の前に赤い竜により攻撃を受ける城が街が目に飛び込んできた。攻撃が当たる度に白い膜が震え今にも壊れそうであった。
「閣下の守護呪文が…」
「早く戻りなさいよ」
「どういうつもりだ」
ヘイルダムは剣を向け憎しみのこもった瞳で女神をみた。女神はその表情に楽しげに顔を歪める。
「ただ、城の中で皆まとめて死ぬのが見たいだけよ」
「ちくしょうが!」
つかみかかろうとするロナルドをヘイルダムはとめ城の方を振り返った。
門の下で武装した軍とグウェンシークたちの姿が見えた。ヘイルダムは手を握りしめると女神に背を向けた。
「行くぞ…陛下のもとに!俺たちは近衛だ」
「大丈夫か!クロークは!?」
「申し訳ありません…」
「閣下はアス山に」
グウェンシークは守護壁を越えて入ってきたヘイルダムたちに駆け寄った。グウェンシークの言葉にうなだれるヘイルダムたちに言い知れぬ不安を感じたが今はそうも思っていられない。
「懐かしいな…」
クロークは1人アス山を登っていた。白い霧の中、歩けるのはさすが竜の目だというべきである。
「ヘイルダムたちは大丈夫だろか」
なんとなく1人でいることが今まで少なく寂しさを感じ、ついつい一人言を行ってしまう自分に自虐的笑みが浮かぶ。
たどり着いた山頂にそびえるのは一段と大きな門。門の前に立つとクロークは
「神の息子ネロディメントがまいった」
ごぉという音とともに重く扉が開く。扉のさきには生と死の神ラニル像とそっくりの男がたっていた。
「わざわざのお出迎え痛み入ります」
「他人行儀はよせ」
「はい、父上」
腕を広げるラニルとハグをする。ラニルは優しく自分の息子を抱き締めると頭をなでる。
「帰ってこないか…もう力もなくなりかけているではないか」
「…グウェンシークやグランディアがすきなんです」
「そうか…」
もう一度強くラニルは抱き締めた。クロークも答えるようにラニルを抱き締める。
ーもしかするとこれでお別れかもしれない…
お互いそれを思いながら無言で抱き締めあった。
「ディメント…」
「父上…そろそろいきます」
クロークはラニルから体を離すとそういった。ラニルは頭を優しく撫でると魔石を差し出した。
「我々がどうにか出きればよいのだが」
「あまり神が干渉してはいけないですから」
神の決まりとして下界に神として干渉することは厳禁。干渉を許すのは有事の際か神の身になにかが起こったときである。
「いってまいります」