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終焉の竜と王国  作者: 白山 銀四郎
2章 竜は求愛されました
18/34

18話 収穫祭ー去年と同じことはいたしませんよー

 「ただいま戻りました」

「ご苦労だったな。首尾はどうだ」

「こちらの条件を何一つ変えることなく締結に同意していただきました」

「よくやってくれた。今日はゆっくり休んでくれ。ヴァルツもご苦労だったな。そうだ!

あと一月で収穫祭だが、今年も楽しみにしている」

帰還すぐに報告を済ませたときグウェンシークはクロークにいった。クロークは突然の話の代わりように固まった。


ー収穫祭…去年は…絶対ごめんだ!


「去年と同じことはいたしませんよ」

「なぜだ?もったいない」

グウェンシークはからかうようにクロークに詰め寄った。クロークは絶対に嫌だと珍しくグウェンシークの提案を拒否したかった。




収穫祭


 今年もやって来た実りの季節、そして収穫祭である。収穫祭では城下街を主として様々な街、村で行われるたのしい祭りである。今年の収穫に感謝しみんなで楽しく騒ごうというまぁ…一言でいえば祭りである。

 神廟の巫女により選ばれたものが神に収穫の感謝を示す舞を披露するのが慣例である。そしてクロークがこの国にきてからずっとクロークが勤めていた。クロークは毎年自分であることを知っていた。神が選ぶのは自分だと…

一度面倒だと代替えをさせようとしたら生と死の神 ラニルの像が涙を流したため必ずだとこの国のものすべてが感じ、神にも愛された竜人としてある種の信仰がクロークに生まれた瞬間であった。クロークからすればふざけるなよ!であるが正直にいえばクロークは舞が苦手である。巫女の長も初めはお手上げで二人でどうしようと思っていたときにヘイルダムが剣舞にすればという素晴らしい提案をした。

そのため、通常の舞ではなく剣舞になり勇ましいなかに美しいクロークならではの舞が始まった。

「舞うのはよいが…がだ!なぜこのようにヒラヒラとしたものをつけねばならないのだ!」

今年も舞の準備で訪れた神廟を訪れたクロークの前に巫女たちと衣装が待ち構えていた。

「ようこそお越しくださいました、ディメント様」

「ようこそお越しいたしたくはなかった」

巫女たちの長 シーフが優雅に現れた。クロークの返しにくすくすと楽しそうに笑う。

「皆様、楽しみにしておられるのですから。ねぇ」

「そうですよ」

「王妃様まで…」

毎年なぜか神廟にグウェンシークの妻であり、この国の王妃であるフェルミーナがいるのである。

その出るところが出ているナイスな王妃はこのときがとても楽しみでしかたなかった。普段は政務に携わることもなくただただグウェンシークの心の拠り所となり、ときには臣下の相談にのるだけの日々にわいてでる収穫祭…フェルミーナにとってはクロークで遊ぶことができる素晴らしい日という認識であり腕がなる日である。

「皆のものかかりなさい!ヘイルダムは外にいきなさい」

クロークはすこしも逆らう姿を見せることなく背を向けるヘイルダムを睨んだ。


ーあいつ!年々躊躇なく背を向けるようになってくな!


 「わたしの目に狂いはないわ」

大仕事を終えたと言わんばかりにふぅと息を吐き出すフェルミーナの前には黒の衣装に銀の装飾そしてベールに顔を隠すクロークがたっていた。

「すでに疲れました」

クロークは隠すことなくため息をつきながらそういった。

「働いたのはわたくしたちですよ」

巫女たちもキラキラした目でクロークを穴があくほど見つめている。

「じゃらじゃらしていてうご「動きにくいとは言わせませんよ」

クロークの言葉にフェルミーナは被せて返した。

「お話によると女装して戦われたそうではないですか?スカートでもないですしそれよりは動きやすいと思いますよ」

「…はい」

ここまでシーフは小さく笑っていたが鐘がなるのがきこえ、2人に声をかけた。

「そろそろ祈りの時間になります。移動をお願いします」

「あら、もうなの…また後ほどお会いしましょう、クローク様」

「お手数をお掛けしました」

フェルミーナが機嫌良く優雅に去るのを見送るとクロークたちも祈りの間に向かうためにヘイルダムを引き連れ移動を開始した。

「毎年派手になってる気がする」

「似合っておいでですから、よろしいのでは」

「シーフ…楽しんでいるな」

「そう見えますか」

長く尖った耳をピコピコと動かした。

「でもこの長い生の中でたのしいことを作ってくださるクローク様には感謝しております」

シーフは長いときを生きるエルフの出である。

そしてとてつもない神力を宿している。その神力によるのかクロークが初めて出合ったときにシーフはこういった。



 「なぜ人の姿をとっておられるのかお伺いしても」

「なんのことだ?私は竜人、人の姿でもおかしくない」

「いえ、あなたは竜そのものです」

はっきりとシーフは断言をしたのだ。クロークはあっけにとられたがこうも思った。


ー竜気がつきながらこの態度!気に入った!


「それとその姿はあまりにも不安定…あなたの身が危ういのではないですか?なぜそのようなことを」


ー意見までするか


「この国はもともと好きだったのだ。この間グウェンシーク殿下と出会ってもっと好きになった。竜の姿ではこの場にはいられないだから人の格を作り出しこの場にいるのだ」

クロークたち竜は人の姿に化けることはできる。しかし核が異なるため門や検問所についている水晶で騒ぎになってしまう。竜だと

だからクロークは無理やり人の核を作り埋め込み竜の核を覆い隠している。

「…そこまでですか」

「知っているか?竜は宝石や宝が大好きでそれを蓄え、ためるのだと」

器用に眉を片方上げていたずらっ子のようなクロークにシーフは目を丸くした後、楽しそうに笑った。

シーフはクロークのことを理解した。この竜はこの国とグウェンシークが宝物なのだとそして国そのものが宝箱になっていることをシーフは感激を覚え、そして羨ましいとも思った。そんなシーフを部屋から退出しようとするクロークが振り返る。

「そうだ。シーフも気に入った」

クロークはシーフをまっすぐ見つめてそういった。シーフにとってそれはよいことなのか判断がつかなかったが面白くはなりそうだと微笑んだ。



 祈りの間に入ると特有の冷たさをもつ空気が流れてきた。祈りの間に入るのはクロークとシーフのみ

クロークは豊穣の神の前にいくと一礼すると一歩下がり、持っていた剣を目の高さに捧げた。そしてふっと息をはくと同時に静かにうごいた。金属の擦れる音がしゃらんしゃらんと響く中、シーフはクロークを見続けた。いつもそうであるがこの祈りの間という静かな聖域でこの舞をみることができるのは自分のみという素晴らしい優越感である。終盤に差し掛かり動きが速くなってきた。剣が空気を切る音が鋭くなる。ばんっとクロークが足を打ち付けると同時に剣を突き出して舞いは終わった。クロークは生と死の神ラニル像を睨み付けた。


ーあなたのせいで毎年こうなるのだ


「クローク様?」

「なんでもない…次は城の前か…その前にメルヘンだ!今年こそ城内にいろよ!」

クロークはそういうと部屋を飛び出していった。シーフはそれを見送るとまたくすりと笑った。

「それはないですよ、クローク様。街の人も近くであなたをみたいのですから」




 「閣下!お待ちを」

静かに閉まる扉の向こうからヘイルダムが飛び出してきたクロークを追いかける足音が入ってきていた。

「…また外なのか」

「はい…」

城門の前には多くの出店がならびそこでは城の料理人たちが一生懸命料理を振る舞っていた。この収穫祭では第一城門が解放され街の人が入ってくることができる。そして普段は食べることができない城の腕利きの料理人の料理を味わうことができるのである。クロークは屋台を見渡して今年も肩を落とした。メルヘンのワイバーンルクカがここにはなかったからだ。

 クロークは覚悟を決め、副料理長のパンを買い、門に向かって歩きだした。その後ろからヘイルダムがついていくのだが、今年もかと城門の前に集まる民にここまで来ると壮観だなと思った。そんなことを思うヘイルダムとはちがい、クロークはただただ恥ずかしく、そしてげんなりとしていた。

「年々増えてないか」

「最近では各地から閣下の勇姿を拝みたいと来ているようですよ」

クロークは城門から続く橋の中腹に位置するメルヘンを見つけた。

「メルヘンがここまで持ってきたらすむのに」

「焼きたてが美味しいのでは」

「…はぁー」

たしかに以前、騒動になりかけたときにヴァルツが我慢するか届けてもらうかするかと聞くのにクロークがそう答えたのだ。それほどまで美味しいのである。この収穫祭のみ味わえるとあって格別なものだ。

メルヘンはクロークにすぐ気がつくと大声でよんだ。

「閣下―!」

その瞬間屋台を見ていた民たちが一斉に城門をみた。ぐるっという音がしたのではないかというほどにはやかった。

「こっわ・・・」

クロークはついついそのようなことを小さく呟いた。ヘイルダムは小さく笑っていった。

「閣下に怖いといわせるとはなかなかこの国の民は強いようですね」

そんなことをいってる場合かと睨み付けるとヘイルダムは肩をすくめた。メルヘンはいつも通りのんきなもので手をふってクロークに早く早くというばかり


ーあの男も料理しかないバカだからな…


クロークは覚悟を決めてメルヘンのもとに向かった。民たちはクロークが来ると一礼すると脇によけて道を開ける。その間を進んでいく。

「今年も素敵だわ!さすが王妃様」

「本当だな」

「舞が楽しみだな」

という勝手な言葉が飛び交う。若干俯きながらやっとのことメルヘンの前に到着し、お金を差し出した。

「今年もありがとうございます!にしてもやはりきらびやかでいいですね」

「…ありがとう」

にこやかに代金を受け取りメルヘンはワイバーンルクカを差し出した。結構な大きさなのでずしっと重さが手に乗る。クロークは漂ってくる匂いに鼻をひくっと動かした。包みを開けると匂いがさらに濃厚になり唾が溢れそうになる。屋台の後ろの椅子に座るとかぶりつこうとしたがヘイルダムやメルヘンに待ったをかけられた。

「こちらを」

メルヘンが白い布をクロークにかけると後ろに回って紐を結んだ。

「…子供のようだから嫌なのだが」

「きれいな服を汚すと怒られますよ」

「子供に注意するようなことをいわないでくれ…はぁ…それはさておきいただきます!」

クロークは大胆にかぶりついた。噛みちぎるとモグモグと口のなかで味わい、ゴクンとのみ込んだ。

「去年よりピリッとしたアクセントが効いてるな」

「美味しいですか」

クロークはすでにかぶりついていたのでメルヘンの言葉に頷いて答えた。

「よし!では今から販売を開始します!数量に限りがあるのでお一人様ひとつになります!」

クロークの反応にガッツポーズをして、くるりと民の方を向いてそういった。待ってましたとばかりに財布を取り出した。ぐちゃぐちゃにいたように見えて実は並んでいたのである。一人一つずつ買い列をはなれすこし後ろでまつ家族のもとにいくもの、家に帰るもの、一人かぶりつくもの様々である。一つが大きいので家族で食べるとほかの店にいくことを考えればちょうどよい量といえる。

「ヘイルダムも口をつけたが食べるか?」

「ぜひ」

差し出されたクロークの食べかけにかぶりついた。

「これはなかなか大人向きの味で美味しいですね」

その姿は慣れたものでいつもこのような感じなのだと伺い知ることができる。それを見ていた民はやはりヘイルダム様がご寵愛一位なのかと自分は誰にかけたかを考える。

実のところ、この国の人々特に城にいるものはクロークのご寵愛を賜るのはだれかというかけをおこなっている。昔はグウェンシークもその対象であったがフェルミ―ナが王妃となりそれは決着がついたのである。最後の一口を飲み込むと立ち上がった。

 「メルヘン!おいしかったぞ!次は城の中でやってくれ」

「ありがとうございます!私には権限がないので」

そんなことを言うメルヘンをにらみつけるとヘイルダムの手首をつかんで魔術を発動させた。自室に転移すると手首から手を放しソファーにどっかっと腰を下ろした。ぐったりと体をだらけさせ天井の方を向いた。

「おつかれさまでした。あとは夕方の舞のみですね」

「・・・思うのだが食べに行くのが一番疲れるというのはどうなんだ」

「閣下のお姿を近くで拝見すればするほど幸運が訪れるそうですよ」

クロークはばっとヘイルダムを見た。

「なんだそれは!」

「事実ではないですか。閣下が舞の時に運気アップの魔術を発動させているのですから」

「・・・そうだった・・・しかしだな、メルヘンの時はそんなことしないだろ」

「気持ち次第なので、民からしたらそんなものですよ」


―私はラッキーアイテムか・・・・ん?


クロークはここで、舞の時に運気上昇の発動を指示したのはフェルミーナであることを思い出した。その後、クロークの好きなものが城の外に配置されるようになったのだ。どんどん衣装も懲り始め、民に答えなくてはいけないのですよというフェルミーナの言葉に反論ができなくなっていた。


―やられた・・・


フェルミーナはおそらく、民の楽しみの提供の考えもあっただろうがクロークを着飾れる機会をなんとかしようと画策したのだと、今更になってクロークは気が付いた。フェルミーナが来る前はいたって普通だったのだから・・・・

「さぁー!クローク様、衣装を替えですよ」

「・・・もうやだ」

「何かおっしゃいましたか?」

「いえ」

重い腰をソファーから上げると突撃してきたフェルミ―ナについていく。

 夕方、城門前での豊穣の舞は武無事に終了し、民たちは幸せな気持ちでその夜どんちゃん騒ぎを繰り広げるのであった。一方のクロークはふて寝を決め込みベットの中に潜り込んでいた。


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