17話 グランディア王国と戦争しますか?
白を基調としたきらびやかな部屋で翌日は朝から条約の条件確認が行われていた。両国互いに条約に対する条件をまとめた書類を確認した。イースやチューストはグランディア王国からどのような難題が来るかと構えていたがこんなことでいいの?くらいのことしかかかれていなかった。グランディア王国側はやはりかとワットヌーエ国からの条件を読み進めた。一通り読んで顔を上げたクロークに笑顔のイースたちが目に映った。
「私たちはそちらの条件に同意いたします」
その顔はすこしバカにしたような感じを受けるものであった。イースたちは強者でありながらこのような条件しか出さないとはという思いがあったのだ。しかしつぎのクロークの言葉でその表情は変化する。
「我々は同意いたしかねます」
「「えっ」」
にっこりと微笑むクロークの思っても見ない言葉にそろってえっという間抜けな声を出した。
「大きく2つございます。まずは軍事力についてです。
こちらにはワットヌーエ国が困難に直面したときに援軍をとありますが…
これでは具体性にかけております。我々としては自然災害またグランディア王国の同盟国以外の国
からの侵犯のみに軍をだすのが条件です。
そして次に貿易ですがこれではまるで自由…ここにきちんと監査をもうけ、適正なものか判断する
機関を儲けるべきかと」
すらすらと流れるように言い切ったクロークに目を白黒させた。しかしチューストはすぐに復活した。
「お待ちいただきたい!自然災害と同盟国以外の国からの侵犯のみですか」
「そうです。例えばワットヌーエがどこかの国に侵攻したとします。それは我々の国に関係ありません。付け加えるのであれば同盟国同士で争った場合適正に調査し対応します」
「それでは同盟する意味は…」
「あると思いますよ。グランディア王国とワットヌーエ国で戦争を起こりませんよ」
ここでイースが復活した。
「しかし!」
クロークはため息をつくとまっすぐイースをみた。
「ワットヌーエ国は隣のハルセルマ評議国の領土がほしいそうですね。
しかしそちらの領土を広げるためになぜ軍をお貸しするのです?では我々がどこかに攻めるといった
場合、軍をお貸しくださるのですか」
イースはなにも言い返すことができなかった。それになぜ領土を拡げたいとわかったのかふるふると震えていた。
「では同盟を結ばないといえばどうなさるのですか」
「いいですよ」
「「えっ」」
迷うことなく同盟を組まないというクロークに言葉も出なかった。クロークは楽しげに笑った。
「陛下よりこの同盟の件は一任されております。それに」
クロークはここで言葉をきり空気を止めてから口を開く。
「グランディア王国と戦争しますか?」
「!?いえ」
戦争するかと聞いたときのクロークの目は獲物を見るように瞳孔が細く鋭くなったように見えた。
クロークの認識をここで改めた。容姿による寵愛ではないとたしかな実力によるものだと
「ではいかがしますか?我々としてはこの条件を譲る気はありません。ほかの同盟国に対しても
同様に締結しておりますし」
「閣下、いつもより急いでおりませんでしたか」
同盟締結条約も決まり、つぎの予定があるからと即座に船に乗り込んだ。
「そうか?」
クロークはずっとあの不快感から離れたかったのだがそれをいうとややこしいことになると黙っていた。
ーしかし原因がわからないな…
「はぁ…すこし疲れたから休む」
そういいながら寝室に消えるクロークをみて不安を覚えた。他国へのこのような訪問はいつものことである。それなのに疲れているとはどういうことなのかヴァルツは眉間をよせた。寝室の扉の前で静かに音だけでも中様子を伺えればと静かに近衛兵の任を遂行した。 しばらくすると足音が耳に届いた。とくに変わった感じはないなと伺っていると扉が開いた。
「すっきりした」
扉から出てきたクロークに安心したように微笑むと食事はどうするかヴァルツは尋ねた。そして嬉しいことにまたもご相伴にあずかり嬉しい思いをしながらグランディア王国に帰りつこうとしていた。
「帰ったですって!?」
「!?どうしたのだ、イルバンナ」
ワットヌーエ国城では夕食に姿を見せたイルバンナがクロークの姿がないことに驚き尋ねてかえって来た言葉に奇声に近い声を上げた。
「はやすぎるわ」
「用事があるそうだ」
イルバンナの様子にイシルがなぜか聞くと驚きの言葉が飛びだした。
「あの方に惚れたの!あの方と一緒になりたい」
「「!?」」
イースは椅子から立ち上がっね口をぱくぱくと間抜けにしていた。イシルはまぁまぁとなだめるとイルバンナをみた。イルバンナもまた立ち上がり手を握りしめていた。
「あの方はグランディア王の宰相です。グランディア王国と我々を比べれば差がありすぎますよ」
「でも!でも!私は王女よ!身分だって上よ」
イルバンナの言い分にいいも言われぬ不安に襲われ珍しくイシルが叱ろうと思ったがイースが先に口をはさんだ。
「クローク殿は竜人らしく、お前と年齢が釣り合わない」
「えっ…」
イースの言葉に固まったイルバンナにこれで諦めるかとほっと食事を再開しようとした。
イルバンナはぐるぐると考えていた。
ー竜人って…でも諦めたくないわ…そうよ!私と結婚したらこの国の王になれるのよ!断るわけないわ…それにこの国もグランディアと密な関係になれるからいいじゃない!
「それでも一緒になるのよ!私と結婚したらこの国の王になれるのよ!断られるはずないわ」
ここでイシルの平手がとんだ。パシッという音と重なるようにイシルの声が空気を震わせた。
「いい加減にしなさい!グランディア王国の宰相と結婚できると思っているの!それに結婚したら
この国の王になれるですって…あなたが決めるようなことではないわ!恥を知りなさい」
イシルは自分の娘がこれほどおろかとは思ってもいなかった。上から目線にものをいい、こともあろうにこの国の未来をだしに使うなど言語道断である。イースは頬をぶったれたイルバンナをかわいそうに思ったがクロークとの婚姻を認めることはできないとはっきりイルバンナに伝えた。イルバンナは食事などほって部屋から駆け出して消えていった。
「あれほど愚かな娘とは思いませんでしたわ」
「しかし…やりすぎではないか」
イシルはイースを責めるようにみた。イースはイルバンナに甘いと普段より思っていたのだ。
「イルバンナのためにこの国が終わるのはごめんだわ」
城のものたちは常々思っていたことがある。なぜこの母親からあの娘が生まれたのかとそして行き着く答えは父親のせいだというものである。
「同盟調印式は2か月後だ。その間にあの熱もおさまるだろう」
イースはそういうと料理を口に運んだ。イシルは甘いわりに自分の娘をわかっていないとあきれた。
イルバンナは頑固でこうと思ったことは絶対に譲らない…今回もそうだろうとイシルはわかっていた。