16話 顔によって寵愛を得た宰相
「こちらにございます。ほかの方のお部屋もご案内します」
クロークを部屋に案内し、ほかのものもと声をかけた給仕長にまったがかかった。
「私もこの部屋につめます」
「しかし!」
「私は近衛隊長、陛下よりディメント宰相を守るよう仰せつかっております」
「…わかりました。では外交官様こちらへ」
ザックは2人と別れ給仕長に案内され消えた。
「では閣下こちらにお座りください」
ヴァルツはクロークをソファに座らせると部屋の確認を始めた。怪しいものはないか確認していく。クロークはすこし違和感を感じていた。
ーなにか違和感がある…気持ちが悪いなこの感じは
人間でいう心臓 核がある辺りに不快さを感じていた。ヴァルツの様子からすると気のせいなのだろうと思えた。
「とくに異常はありません」
「そうか」
クロークははぁと息を吐き出した。それをクスクスと楽しそうにヴァルツは笑った。
「ちょっとしたいたずらも含んではいたが私を顔によって寵愛を得た宰相だと思っているようだ」
「それは好都合なのでは?条約決議会で驚いた顔がご覧になれますよ」
「まぁな。えっと頭が固まったときに畳み掛けると大概うまくいく」
しばらく2人で話をしていると兵士たちが荷物を運んできた。その後ろからチューストが入ってきた。
「失礼致します。お疲れのところ申し訳ありませんが今宵、我々と晩餐会を共にしてくださいませんか」
「ぜひご相伴させていただきます」
チューストを見送ると荷物を開けた。
「晩餐会はこれを着るのだったな」
「軍服に近いですね」
「おかしいだろうか」
「いえ、よいと思います」
ヴァルツは服をクロークから受けとると衣装かけにかけ、最終確認を行う。
「シワもないですね。では閣下こちらに」
パーテーションの裏に導くと服を脱がした。
クロークはたまに腕をあげたりするだけでほぼお任せである。着付けてもらい鏡で一通り確認し2人で満足した。
「とてもお似合いです」
「ありがとう。そうだ、ヴァルツも護衛としてその間には参加するだろう」
クロークは荷物のところに行き、戻ってくるとヴァルツの左胸に金鷲のブローチを着けた。
「これくらいの華やかさはあってもよいだろう」
「お貸しくださるのですか」
「これはもうヴァルツのだ」
ヴァルツは舞い上がりそうであった。わざわざつけてくださっただけでなく、くれるというのだから。
グランディア王国から提示する条約を確認しながら時間を潰していると案内人がきた。
「本日はお招きありがとうございます」
「いえいえ、ささやかなものですが存分にご堪能ください」
「そちらは王妃様と王女さまですね。お初にお目にかかります。グランディア王国宰相を勤めております、クローク・ディメントと申します。」
「王妃のイシルと申します。お噂以上の備忘で驚いておりますわ。こちらは娘のイルバンナです」
王妃の紹介にイルバンナはスカートをつまみ軽く会釈した。
「では早速晩餐会を始めましょうかな」
席につくと料理がどんどんと運ばれてきた。それを食べ、すこし肉付けした感想をいいイースをよい気分にさせていくクロークだが、内心は
ーおいしいけど…おいしくない……メルヘン料理長の料理がたべたい
城の料理長を務めるメルヘンに思いをはせていた。
にこやかにイースと会話するクロークをばれないようにチラチラとうかがうものがいた。
本当にきれいな方だわとイルバンナはのぼせ上がっていた。一目惚れというものである。
イルバンナが機械的に料理がを運んでいる間に晩餐会は終了していた。
自室に戻ったイルバンナは鏡の前にたった。不細工ではないが綺麗でもない顔と体が映っていた。こんなのではあの方に振り向いてもらえないと肩を落としドレスを脱ぎ捨てる。
「あの方と一緒になりたい…」
「お疲れ様でした」
「…メルヘン…メルヘンメルヘン」
服を脱がしてもらいながら考えるのはメルヘンの料理のみ
へんに豪勢な食事を食べるとつい比べてメルヘンの料理がほしくなってしまうとはぁとため息をはいた。
「ヴァルツ食事は」
「後程とります」
「…後ほどとはいつのことやら…ここでたべたらどうだ」
「よろしいので」
「そうしなければ食べないだろ…そしてすこしよこせ」
ヴァルツはニヤリと笑うクロークに楽しそうなため息をついた。
クロークはすこしつまみ食べるのをやめてヴァルツが食べるのを見ていた。
「食べにくいのですが」
「わたしの気持ちがわかるだろう」
頬杖をつきながらみてくるクロークに照れながらも言い返すこともできずヴァルツは次の料理に手を伸ばす。
「これをみて思うのですが閣下は食べることが好きなのかなと思うのですが、でもよく食事を忘れますよね…どちらですか」
メルヘン料理長は城にいる。つまりこの2人の前に並んでいる料理は城から持ってきたものである。かれこれ城を出てから2日が経とうとしていた。
それでも腐らないのはクロークが開発した装置のお陰である。料理を瞬間的に保存し取り出すと暖かなものが食べられる優れものである。ただし3日間しか持たない
「メルヘンたちが作る料理はおいしいから好きだが食べることが好きかと聞かれると微妙だな」
ーそれまではたまに肉をそのままがぶりとやるか、自然界の魔力を食べていたからな
「できれば忘れないでいただきたいのですが」
「善処する」
クロークはモグモグ口を動かしながらも責めるような目で自分を見るヴァルツから目をそらしてそれだけ答えた。