15話 閣下に心を奪われたようですよ
「グランディア王国の方でございますか」
「はい。入港手続きをお願いします」
外交官ザックが代表として先に下船し、手続きを済ませていく。一通りの身分
書類確認を終え、船に合図を送る。
すると船の側面が開き馬車などが出てきた。
まさかそんなところから出てくるとは思わないワットヌーエの港管理官はぽかんと口を開けていた。
「閣下、準備ができたようです」
「そうか」
クロークは船からゆったりと降りた。潮風にシルク生地の上着が風に揺られた。銀糸の刺繍は光をきらきらと反射させた。
最後の階段から降り、すぐに目の前の馬車に乗りこんだ。
その少しの間にワットヌーエの人々はクロークに目を思考を奪われていた。
クロークは利用できるものは利用する。
自分の顔がよいことは自覚しているため、センスの良いグローリエに事前に何を着ればもっと視線を集められるか相談していた。
つまり用意周到である。
「閣下に心を奪われたようですよ」
「そこまでではないだろう。まぁ少しは効果があればよいな」
走り出した馬車でロナルドとクロークは楽しそうに言い合った。ロナルドはあまりかしこまる性格ではないのかこういう時はクロークも気兼ねなく話せてとても助かっている。
「本当に良かったのか」
「何がですか」
「耳だ。せっかくきれいな耳だったのに」
クロークは青い耳があった場所を見た。今はそこには耳などなく普通に人族のような頭がある。
ワットヌーエ国は最近獣人差別が消えた国であり、余計な波風は立てたくないと耳を隠したいとロナルドから願い出たのである。
誇りを一時でも消すのかと友達に言われたがクロークのためだと思えば何でもないことのように思えた。
クロークのため国のためになるのだからといえばそれでみんなそうかで終わる。
「魔術による一時的なものですし、それより閣下は私の耳が好きなんですか」
「きれいだしな」
「へぇ」
ロナルドはニヒルな笑みを浮かべた。今度触ってみますかといおうとしたがもう城の前についてしまったようで馬車が低速した。
ロナルドは小さい町だとしゃべりを邪魔されて悪態ついた。心の中でであるが
馬車の戸が開きロナルドは先に降りると手を馬車の中に差し出した。
クロークは差し出された手に少し驚きながらも手を添えた。
その手に導かれるように馬車からおりた。
―ロナルドめ。私がどのような反応をするか楽しんでいるな
クロークは少しだけ添えている手に雷を起こした。
横目でロナルドを見ると顔のパーツはそのままで目の中に驚きが見えた。
―案外、ポーカーフェイスだからな・・・さてと
クロークは切り替えると出迎えるワットヌーエのものたちに近づき、右手を左胸に添えるように抑えた。
「わざわざのお出迎えありがとうございます。グランディア王国宰相を務めておりますクローク・ディメントと申します。以後お見知りおきを」
頭を下げることなく自己紹介を澄ますクロークに続くようにヴァルツ、ザックが挨拶をする。
2人の挨拶でイーストたちははっと意識を戻した。これは噂に勝ると感嘆しかない。
「ようこそお越しくださいました。国王のイース・ロマネ・ワットヌーエです。」
「執政を勤めております。チュースト・デルソルでございます。」
チューストもちょっとした抵抗として頭を下げることはなかった。
「長旅でお疲れでしょう。まずはおくつろぎください」
「ありがとうございます」
クロークは微かに微笑みを浮かべた。チューストは給仕長に案内を頼み、グランディア王国使者を見送るとふーと息を吐き出した。
「とてつもない美しさですね」
「本当だな…しかしあれほどの美貌ならば寵愛で位を手にしたのだろう」
「かもしれませんね。グランディア王国国王はとても聡明な方とお聞きしております。宰相など飾りでもよいのかもしれません」
クロークをみて勘違いを起こしていた。顔だけで宰相になったのだと
クロークの思う壺である。