11話 治療院…苦手なんだよな
街に入ってから城につくまでにいろいろな人からクロークは叫ばれた。
「宰相閣下!?」
「なんと!?」
「お怪我を…それにお髪も…」
お痛わしいと言わんばかりの表情で心配され、城に到着してからも同様であった。クロークは騒ぎすぎではないかと苦笑いをするしかなかった。
「クローク!?」
「ただいま戻りました。とくに大きな問題はなかったです。後程報告書を提出します。」
「それよりも怪我だ!すぐに治療院にまいるぞ」
グウェンシークはヘイルダムの腕をつかみ引っ張った。クロークはグウェンシークに止まるようにお願いするが聞き届けられず治療院につれていかれた。グウェンシークは特に問題ないことはないだろっとそんなことをいうクロークに怒っていた。クロークを引っ張る後ろをヴァルツ、ヘイルダム、近衛兵がぞろぞろと続いた。
ー治療院…苦手なんだよな
ばっんと治療院の扉を開けてグウェンシークが入ってくると治癒者たちがあわあわとお辞儀をして迎えた。
「グローリエはいるか」
ぱたばたと走る音とともに筋肉粒々があらわれた。
「陛下、よくお越しくださいました。ご用件は?」
「クロークが怪我をした。治療をたのむ」
「クローク閣下が!?」
グローリエは陛下の後の扉を覗きこんだ。クロークはできれば入りたくない、逃げようと思ったが近衛隊長、副隊長以下が揃っている現状では無理だがなんとかと扉の影に隠れていた。
「あぁー!閣下のお顔に!それに髪も」
覗き混んできた顔が高い叫び声を上げた。クロークたちはとっさに耳をおさえた。
グローリエはなんの迷いもなくクロークに手を伸ばすと抱き上げた。
「っ!おろせ!」
「暴れないでください。それともお姫様だっこがいいですか」
「!いらん!」
クロークはおとなしく猫のように持ち上げられて、治療院の扉をこえた。治癒者たちは驚きと悲しそうな顔を浮かべながらもすぐに行動を開始した。
「クローク」
「…なんでしょうか、陛下」
「2日間は治療に専念するように」
「…」
クロークは断ろうとしたがグウェンシークの目をみて小さくため息をつくと頷いた。その顔を不服そのものではあった。グローリエにどなどなされ、運ばれるクロークを見送るとヘイルダムがその場で膝をついた。
「陛下…申し訳ありません」
「なにがあった」
ヘイルダムはなにがあったかを説明した。
「閣下の警備を強化しましょう」
「そうだな。おそらくクロークの体が目的であったと考えるのが自然だからな」
「陛下の護衛もですよ」
「十分だろ」
グウェンシークはヴァルツのまさかの提案に慌てた。これ以上護衛を増やして心休まらないのは嫌だと思うからだ。
「陛下も竜人族、それに閣下ほどではないですが長命であらせられる。狙うにはよいかと」
「…わかった」
「怪我は頬だけですか」
「そうだ」
「食事はどうしますか」
治療をしながらグローリエは聞いた。クロークは頼むというと大きな体を縮める男のつむじを見た。
ーいつもおもうがすごい色だな。これは赤なのか…
一旦治療を終えグローリエが、立ち上がり窓から差し込む光に赤い髪が煌めいた。実のところクロークはこの髪が好きである。
教えると喜んで騒ぐから言わないが
きれいなもの、珍しいものはなんでも好きである。宝箱に閉じ込めたくなるほどに…
ーしまいこみたい……いかんいかん!竜よりになっている。
竜よりの思考を消すように頭をふり息をはいた。
「大丈夫ですか」
「あぁ。なんでもない、大丈夫だ」
食事の手配をしますとクローク専用の治癒室から退出するグローリエと入れ替わりでヘイルダムほか4人の兵士が入室した。
「その4人は何だ」
「護衛兵にございます」
「はっ?」
クロークは目と口を薄く開けたまま固まる。
「…どういうことだ」
「名乗りなさい」
ヘイルダムはクロークの質問を無視して4人に挨拶を促した。
「はっ!近衛隊所属ヤルバ・アウタートであります」
「同じくキヌエ・シャールジャであります」
「警備隊所属ロナルド・マキシマであります」
「魔術支援隊ティーズ・クワトロであります」
クロークは4人を観察した。ヤルバとキヌエは人族でかなりの鍛練と実践を重ねてきた兵士だとわかる。
ーヤルバは素晴らしいほどに厳ついな
ロナルドは獣人族狼種である。青い耳が印象に残る。目も鋭く細面ながら強そうな印象を受ける。
ーティーズはまた珍しいな…ハーフデビルか
ハーフデビル・・・
その名の通り悪魔と何かのハーフをさす。昔は迫害の対象であったがいまではそのような風潮も弱まり、少なくともこの国では迫害することはない。それでも多種族との結婚はなかなかないため個体数が少ない。しかしだ・・・いくら珍しい、きれいなものの好きなクロークでは頷けない。なぜ近衛兵だけでなく護衛兵まで置かねばならないとヘイルダムを睨み付けた。
「陛下のご意志です。それに陛下にも護衛兵を着けました」
「ちっ…すまない。あー…クローク・ディメントだ。よろしくたのむ」
「はっ」
宝石とも言われるシルバーグレーの瞳に見つめられた4人は一層芯を正し敬礼した。
「失礼します」
「ユーリアーテか」
ノックする音に続いて鈴のように軽やかな声が扉越しに聞こえた。その声ですぐに誰かわかった。思った通り小人族の女が入ってきた。小人族ということもあって小さいのかと思えばそうでもない。ドワーフと同じか少し低い位である。
「お食事をお持ちしました。」
「ありがとう。給仕仕用人に移動してしばらくになるがなれたか」
押してきたワゴンから再度机に料理をのせる姿がいたについてきたと眺め聞くと嬉しそうに頷いた。
「皿も割らなくなりました」
ーそれは慣れなのだろうか…おっちょこ…いや
「それはよかった」
「では失礼します」
「私は今から食事だから出ていって食事でもしてきたらどうだ」
「閣下!」
護衛をなんだと思っているのだとヘイルダムが声をあげるとばつが悪そうに舌を出すと食事に手を伸ばした。