10話 逃げられたのはいたいな
「閣下!」
「だれも死んでないな?」
ヘイルダムはあたりを見渡し死人がいないことを確認した。これは責務である。
「お怪我を…」
「かすり傷だ…」
ヘイルダムは痛ましそうに左頬についた傷をみた。クロークが怪我を負うなど滅多とないことである。
「竜殺しの剣だったようだな…しばらくしたら傷も消える」
ヘイルダムは唇を噛んだ。
「それにお髪が…」
「…あぁ」
起き上がり意識がはっきりしてきた兵士もクロークの姿をみて固まりヘイルダムと同じような反応をした。
「お守りすることができず申し訳ありません」
膝をついてヘイルダムは謝罪をした。それはいろいろな気持ちがこもっていることはクロークにもわかった。
「ヘイルダム…傷も髪もいつかは戻る。皆が死ななくて良かった」
「はい…」
クロークは怪我をしているものたちに回復魔術をかけ治療を始め、逃がした賊についても考えたが今は情報が少なすぎるとすぐにやめた。
ー逃げられたのはいたいな
ヘイルダムはクロークを見守りながら薬草の準備を始めた。竜殺しの剣で受けたクロークの傷はまだ血がにじんでいた。クロークには普通の剣は通用しない。しかし竜殺しの剣は通用する。そして普通の回復魔術ではなかなか回復しない。さすがは魔術を得意とする竜を倒すために作られた剣といえよう。
「よし!これで全員だな」
膝についた土を払いながら立ち上がった。
「閣下…」
「ん?」
ヘイルダムはクロークの傷に薬草を塗ると湿布でおさえた
「ありがとう」
「いえ…どうしますか」
ヘイルダムは気持ちを切り替えた。いつまでもうじうじくよくよしていてはいけないと。
「情報が少なすぎるから賊を追いかけることもできないかな…とりあえずあと少しで城だ。戻ろう」
「はっ」