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大きな恋人

作者: 中仙堂

大きな彼女には、とても可愛い恋人が居た。

「ジョン。さあ、おいで。」

その家のママが男の子を招くと、

五歳のちびっ子は満面笑みをたたえて、

飛んで来た。

「僕が弾くの。」

「良いわよ。」

男の子は黒い背の高い回転椅子に昇り上がって、

早速鍵盤を叩き始めた。

白と黒の鍵盤は突然に饒舌に語り始めた。

軽やかなメロディが続き

音の波が心地よい。

其れはうねりと成って、

部屋の中から家の外まで続いた。

外を歩くご夫人も

女の子も、

アンダルシア犬も、

耳を震わせ

歌い出しそうだった。

楡の木のこずえでは

昨日生まれたひな鳥たちまで

覚え立ての歌をさえずるのである。

「ああ、家の子が一番だわ。」

そう思ったのは、

大きな黒い恋人の

ピアノ嬢だった。

彼女の生まれは

スタンウェイだったとか。

この家のご主人の新妻の

惚れ込み様で

購入頂いた。

でも彼女は

ピアノは大好きでも

日々の練習は…

そう、

「可愛い息子が居るわ。」

「ジョン。さあ、おいで。」

その家のママが男の子を招くと、

五歳のちびっ子は満面笑みをたたえて、

飛んで来た。

「僕が弾くの。」

「良いわよ。」

男の子は黒い背の高い回転椅子に昇り上がって、

早速鍵盤を叩き始めた。

白と黒の鍵盤は突然に饒舌に語り始めた。

軽やかなメロディが続き

音の波が心地よい。

其れはうねりと成って、

部屋の中から家の外まで続いた。

外を歩くご夫人も

女の子も、

アンダルシア犬も、

耳を震わせ

歌い出しそうだった。

楡の木のこずえでは

昨日生まれたひな鳥たちまで

覚え立ての歌をさえずるのである。

ジョンの恋人は

勿論

スタンウェイだったとか。

ジョンは

学校で

お家で、

悲しい時も、

楽しい時も。

いつも一緒に

歌ってくれる

大きな恋人が居た。

しかし、

或日、

ぴたりと、

振り向かなくなってしまった。

スタンウェイ嬢にとっては

有りうべからざる大事件でした。

でも、

彼女一人では

語る事も、歌う事も出来ません。

長い長い歳月が

流れました。

定期点検の

調律師の小父さんも

訪れなく成り、

今では埃高き姿。

ジョン、時には

私を思い出してちょうだい。

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