狼と花
「なんでチャチャさんこんなに強いんですか?」
返り討ちにあった魔物の残骸を避けながら問いかけた。
「んー・・・お金稼ぐのに用心棒したり、討伐隊に参加したり、危険エリアの調査依頼とかー。なんかギルドに登録して色んな仕事してる間に強くなっちゃったんだよねー。」
話し終わるや否や俺に向かってナイフを投げる。
「ちょっーー!!」
ナイフはすぐ後ろで今にも襲いかかろうとしていた巨大なトラの眉間に命中した。
「後ろにも気を配らないと危ないよ」
チャチャは自分に向かってきたワーウルフの首根っこを掴み地面に叩きつけながらカラカラと笑っている。
俺は使う必要のない剣を振って答える。
「チャチャさんが守ってくれるからコレの出番はなさそうですね」
「え!?使ってみたいの!やっぱ男の子だなー。」
チャチャは叩きつけたワーウルフをこちらに投げる。
ワーウルフはフラフラと立ち上がった。
「ほら!練習 練習。やっちゃえ!」
ワーウルフは牙を向き威嚇行為を始めた。
「え・・・いや・・・でも!」
突然の展開に動揺してしまう。
弱っているとはいえ普通の人間が魔物に勝てるのか・・・いやその前に魔物とはいえ命を奪う事には抵抗が・・・。
剣を構え、そんな事を考えてい間にもワーウルフはゆっくり間合いを詰めてくる。
「あ・・・それと・・・フリットにちょっとでも怪我をさせたら死ぬより辛い未来が待ってる思え!」
凄い殺気がチャチャか放たれている。
ワーウルフは完全に萎縮し倒れてお腹を向けている。
・・・あ これ犬とかがやる服従のポーズだ・・・。
「フリット!チャンス チャンス!」
いやいやいやいや!この状態の魔物に剣を振るうとかどんな鬼畜だよ!!
「チャチャさん・・・ちょっと可哀想なんですが・・・」
俺は剣を納めてワーウルフのお腹を撫でてやる。
「可哀想ってそれ私を襲ってきたワーウルフなんだけど・・・」
チャチャがこちらに近付いてくる。
ワーウルフは素早く俺の背後に隠れる。
「ほら チャチャさん! 完全に怯えてるじゃないですか!!」
はぁ・・・とため息をついてチャチャが答える。
「今は怯えて大人しくしているように見えるけどそいつは私が居なくなったらフリットを襲うかもしれないし、この場で見逃せば私たち以外の人が襲われて犠牲になるかもしれない。」
俺はワーウルフをチラリと見る。
ワーウルフはブンブン首を振っている。
「じゃあ・・・面倒みますんで連れて行ってもいいですか?チャチャさんがいれば襲われないし、一緒に居れば他の人が襲われる事はないし。」
ワーウルフは尻尾を振って顔をぺろぺろ舐めてくる。
「まぁ、フリットがそう言うならしょうがないか・・・。」
チャチャはワーウルフの頭をワシワシ撫でた。
一見、女の子が犬を撫でる微笑ましい光景だがワーウルフの方は完全に萎縮し目が泳いでいる。
「ほんとだ!大人しくて可愛いね!」
ワーウルフに抱きつきアチコチをワシワシ撫でる。
ワーウルフの表情は堅い・・・死を覚悟した男の顔立ちをしている。
「あの・・・あんまり近づきすぎると危ないですよ」
ワーウルフからチャチャを引き離す。
「あれ〜?フリット・・・もしかして嫉妬してる?」
チャチャはプププと笑っている。
・・・なんか完全に誤解されてる・・・。
「大丈夫だよフリット。そいつメスだからさ。」
「え!こいつメスなんですか!?」
「両手に花だな・・・フリット。」
獣と半獣の花に囲まれて俺は森の中を進んでいった。