狼と錬金術
「この先の森を抜けたところに王都があるから」
チャチャが歩きながら指し示した森は明らかに様子がおかしい。
昼間でも木々に光を遮られ、カラスっぽい何かがギャーギャー喚きながら羽ばたいている。
「あの・・・明らかに何かが出そうな雰囲気がひしひしと伝わるんですが・・・」
「この森を迂回すると結構遠回りになるし、たいしたモンスターも出ないから大丈夫だよ。」
俺の髪の毛をワシャワシャ撫でながらチャチャが答える。
「やっぱモンスター出るんじゃないですか!!」
「大丈夫 大丈夫。小型の狼とかワニとかしか出ないから。それに・・・」
「それに・・・?」
「美味しい。」
チャチャはいかにこの森のモンスターの味が素晴らしいかを説いてくる。
ダメだ・・・この人は忘れがちになるけど人間ではないんだ。
モンスター=ご飯という発想がもう俺の価値観から逸脱している。
「荷物を軽くするために食材は持ってきてないからさ。現地調達しながら王都を目指すよ!冒険の基本だね。」
チャチャに引きずられながら森の中へ入る。
さっきまで明るかった空は俺の心のように影を落としていた。
森の中は足場も悪く苔むしていて歩きにくい。
チャチャは平気そうにしているがこちらを気遣ってくれているのかペースを落として進んでくれている。
「ちょっと休憩する?」
チャチャが水筒を差し出し聞いてきた。
「いや、まだ大丈夫ですよ。」
水筒の水を1口飲みチャチャ返しながら答える。
「無理しなくていいからねー。」
チャチャが答えたその時、大きな狼のような物がチャチャに襲いかかってきた!
「チャチャ!後ろ!!」
そう叫んだ瞬間、鋭い閃光が走り狼の首が飛ぶ。
「休憩してご飯しよっか。」
返り血を浴びながら微笑んでいるチャチャは恐ろしいくらい綺麗だった。
恐ろしく綺麗というよりは恐ろしくて綺麗か・・・
そんな事を考えているとチャチャは手際良く血抜きを行い、料理の準備に取り掛かっていた。
「私は生で大丈夫だけどフレットは火を通した方がいいよね?人間だし。」
生肉をモグモグしながら火を起こし、狼だったものを焼き始める。
「どうぞ召し上がれ。大型のワーウルフはめっちゃ美味しいんだよー」
黒く炭化した何かを差し出しながらチャチャが話しかける。
「大型って・・・小型しかいないんじゃなかったんですか・・・」
ため息をつきながら炭を受け取る。
「そんな事言ったっけ?まーまー細かい事は気にしないで食べなよ。」
生肉をモグモグしながらうっとりしている。
アレだ・・・絶対これを食べたかっただけだ・・・
俺は確信した。
炭を1口頬張る・・・だだ焼くだけなのに・・・
食材をここまで無慈悲に錬金術するのも1種の才能だ・・・炭の苦味の他に生肉の食感・・・
かすかなエグ味・・・不味いという表現がオブラートに包んだ形容詞になる日が来るとは・・・。
「チャチャさんって・・・すごいですね・・・」
残念な美人はモグモグと生肉を頬張りながら照れているのか顔を真っ赤に染めていた。
・・・早く王都に着いてまともな食事を取らなければ・・・
炭を水で流し込みながらまだ見ぬ王都へ思いを馳せた。