伝説の始まり
「それじゃあ 王都に向けてしゅっぱーつ!」
チャチャは元気に森の中を歩き始めた。
~~~3日前~~~
(おい おっさん 話がある)
俺はおっさんを呼び出した。
(はい はい 何でしょう?)
(俺はこれから記憶がない振りをしなけりゃいかん)
(知らない世界なんだから振りも何も記憶がないのと同じでは?)
おっさんは不思議そうに聞き返した。
(だからおっさんからのガイドを一時的に封印しようと思う。)
(あ じゃあココでお別れですね。 良き転生人生を)
おっさんから面倒事から解放されたような明るい雰囲気が感じ取れる。
(ちがーう!お前はアホか!一時的にっつってるだろうが!)
おっさんは不思議そうに考え込んでいる。
(チャチャに頼るのは最初だけだ。長く一緒にいると良心の呵責によるストレスがヤバい)
(メシが不味いから嫌なだけでしょう。)
(ギクっ!!・・・こんな時だけ鋭いな・・・)
冷静を取り繕いながら話を続ける。
(とにかくだ。おっさんのガイドはまた必要に必ずなる!こっちから声をかけるからそれまで待機していてくれ!)
(しょうがないですね。じゃあ必要な時に声をかけてください。回線は開けときますんで)
(あ・・・それとパワーダウンなんだけど・・・)
(オプションが気に入らないんですか!!あれがないとスプーンを持ったら粉々!美味しいご飯食べられない!私の選択したオプションのおかげで美味しいご飯にありつけてるんですよ!)
(美味しいご飯にありついた事ねーよ!!)
いかんいかん・・・おっさんと話すとどうもおっさんのペースになってしまう。
ここは冷静に下手に出てお願いせねば・・・
(このオプションのオンオフを俺の方で出来るようにしてくれない?)
おっさんに優しい感じで聞いてみる。
(あ そんな事ですか。いいですよ。リリースって言うとオプションオフにリターンって言うとオプションオンになるようしておきますね。)
あっさりOKしてくれた。
(あれ・・・ダメって言われると思ったのに・・・)
(この間襲われた時みたいに緊急回避する際にこっちでやるのめんどくさいんで。)
(あっそうなんだ・・・じゃあおっさん・・・しばらくさよならだな・・・)
おっさんに別れの挨拶する。
(・・・・・・・・・)
もういないんかい!!
別れ惜しむまもなくおっさんはいなくなった。
~~~2日前~~~
「あんた 本当に何も知らないんだね」
チャチャが呆れたように言う。
「全く覚えてなくて・・・僕が最初に立ち寄った町ってどんな町だったんですか?」
「勇者降臨の地って有名なんだけどね。今から約100年前・・・眩く輝く光の中から勇者が降臨し魔王を封印したって伝説が残ってるのよ」
眩く輝く・・・100年前・・・
転生は100年に1度・・・おっさんの口振りから1回は町の中に転生させたことがあるはず・・・。
おそらく伝説の勇者は転生者で間違いない。
何処からの転生者かはわからないが、無になっていないならまだこの世界のどこかに・・・。
「その勇者はどうなったんですか?」
チャチャに聞いてみる。
「魔王を封印した後、どっかで隠居生活を始めたらしいけど100年前じゃ流石に生きてないんじゃないかなー・・・。」
「伝説って言ってたの実際にいたような口振りですね・・・。」
居たのは間違いないがここに住んでる人達からすれば眉唾物の話のはずだ。
そう考えるとチャチャの話し方はおかしい。
「魔王が復活したから・・・」
チャチャが真面目に話し始める。
「あんたを森で見つけた3日くらい前にね、魔王封印の地とされる所で大きな爆発が起こったのね。新聞の号外に出たんだけど世間は魔王が復活したのかと大騒ぎ。」
ゴクリと唾を飲み込む・・・
「その時は爆発と魔王の因果関係とかわかってなかったし魔王を見たって奴らも目立ちたいだけの胡散臭いのばっかり・・・。ただね・・・あんたが立ち寄った町なんだけど・・・」
あの町に何かがあったのか!?
心臓の鼓動早くなる。
「あんたが倒れてた日にね・・・魔王に襲われたんじゃないかって・・・」
チャチャはそっと新聞を差し出す。
「逃げ出した男の証言。大きな翼を持った巨大な存在は人語を操り、「光を見た。勇者がこの地に現れたはずだ・・・差し出せ」と町を破壊し始めた。勇者なんていないと叫んでも破壊は止まらず、数人を残し町は壊滅・・・。」
光を見た・・・俺が森から町に到着するまでの間に町を壊滅状態に追いやったことになる・・・。
しかし問題はそこじゃない。魔王は光と共に勇者がやってくる事を知っていて俺を探している・・・。
つまり俺は100年前の誰かさんのせいで危険生物から命を狙われている事になる。
「あー・・・じゃああの時、食料と金を出せって言ってたのは・・・」
「王都に魔王復活の報告を急いでする為だろうね。まぁあんたが気にする事じゃないよ。連中がテンパって言葉足らずだっただけだしさ。」
暗い顔をしている俺に気付いたのかチャチャが優しい言葉をかけてくれる。
俺のせいで町が1個滅んだ・・・俺はどんだけ業を背負えばいいのか・・・。
~~~1日前~~~
「王都に引っ越さない?」
朝食の物体Xを食べている時にチャチャがいきなり提案してきた。
「王都に?」
「もしかしたら記憶が戻るきっかけになるかもしれないし、私もそろそろココを引き払おうと思ってたしさ。」
確かにいつまでもココにいるわけにはいかない。
魔王が俺の存在に気付く前に先代勇者を探さねば八つ当たりで俺が死ぬ事になる。
「でもどうしていきなり?」
「町がなくなっちゃってギルド出張所も一緒になくなっちゃったんだよね。仕事するのも食材仕入れるのも王都の方が手っ取り早いし・・・ココに・・・留まる理由もないから・・・」
チャチャが少し暗くなる。
おそらく病気の弟世話する為にここで生活していたのだろう。
「わかりました。一緒に王都に行きましょう!僕もいつまでお世話になりっぱなしってわけにもいかないんでお仕事手伝いますよ!」
俺は出来るだけ明る答えた。
「本当!!」
チャチャは目を輝かせている。
「弟と一緒に冒険するのが夢だったんだよね!病気治ったら世界を一緒に回ろうって約束してたの!」
「弟さんの代わりが出来るかはわかりませんが・・・」
「何言ってるのよ!弟のフリットもあんた(フリット)も両方私の可愛い弟よ!じゃあ早速準備しなくちゃねー」
チャチャは嬉しそうに荷造りをし始めた。
~~~当日~~~
「じゃあ これフリット分ね」
チャチャが剣差し出す。
「これは・・・?」
「王都まで1日くらいかかるけど道中はモンスターも出るし、護身用よ。」
モンスター・・・魔王がいるって聞いた時からそんな予感はしてたんだけどやっぱいるのか・・・
「不安な顔しなさんな!お姉さんがちゃんと守ってやるからさ」
チャチャは短刀をぶんぶん振り回しながら笑っている。
しかし剣を渡すという事は守れないケースの時は自分で身を守れという事だろう・・・
「それじゃあ 王都に向けてしゅっぱーつ!」
チャチャは元気に森の中を歩き始めた。