業を背負う者
「ところでさ、あんた名前は何ていうの?」
食事という名の拷問を受けながらお姉さんが聞いてきた。
(この世界の一般的な名前を教えろ!)
慌てておっさんに話しかける。
(一般的といっても出身地や身分で大きく変わるので何とも・・・そのまんまでいいんじゃないですか?)
(御手洗 棋士っておかしいだろ!)
(ぷぷぷwそれナイトって読むんですね。騎士じゃなく棋士ってのがまたwwwそんな名前の人他にいませんよwww)
(親に言え!親に!だから聞いてんだよ!)
・・・まただ・・・また何か引っかかる・・・
おっさんが言う通り棋士って名前はそうそういるもんじゃない・・・。
大事な何かを見落としている気がする・・・。
「何考えこんでるの?」
お姉さんが心配そうに話しかけてきた。
「あ・・・いやちょっと・・・」
慌てて取り繕うとしたところでお姉さんが続ける。
「あー私の名前言ってなかったね。私の名前はチャート=チャルチール。みんなはチャチャって呼ぶよ」
名乗ってなかったから名前を言わなかったと思われたようだ。
名前のヒントが少なすぎる・・・。
この世界の事をまだ知らなすぎるんだ・・・。
「チャチャさん・・・実はですね・・・僕は記憶がないみたいで名前も産まれた場所もわからないんですよ。」
チャチャはポカーンとしている。
「気づいたら森の中にいて・・・近くの町に行ってみたら町が燃えてまして・・・そこで町の人たちに襲われそうになって逃げ出して森に戻ったところで意識が・・・。」
(ふむふむ・・・記憶がない以外は嘘はないですね。記憶がない純朴な少年を演じて取り入ろうって事ですね。素晴らしい発想力!)
おっさんは感心している。
(やかましい!言葉にするな!ゲスく見えるだろ!)
(ゲスく見えるも何もゲスそのものじゃないですか)
「・・・フレット・・・。」
チャチャが不意に呟いた。
「え!?」
「あんたの事をフレットって呼んでいい?死んだ弟の名前なんだけどね。あんた弟にそっくりだからさ。死人の名前が嫌って言うなら他に呼び名を考えるけど。」
いかん!俺の代わりに死んだ男の名前や立場まで奪う事になってしまう!
ただでさえ良心が痛むのにこれ以上の深入りは不味い!!
「それかー・・・そうだなー。エロエロとかどう?有名な画家の名前なんだけどーーー。」
「フレットでお願いします!」
フレット・・・すまない・・・。エロエロなんて名前付けられるくらいなら甘んじて業を背負おう・・・。
「じゃあフレット。これからよろしくね」
チャチャはニッコリ微笑んだ。
【おまけ】
「ちなみにエロエロ以外で名前の候補ってあったんですか?」
チャチャに聞いてみた。
「カマドゥマとかゴッキローチ・・・とか?」
「・・・フレット以外にする気なかったんですね」
「バレた?」
終わり