運命の出会い
「・・・ここは・・・」
気が付くと俺はベッドの中にいた。
朝の陽射しが眩しい。
森の中で意識が飛んでいる間にここへ運ばれたようだ。
「おー 気がついたか少年!」
ネコ耳 黒い髪 褐色の肌 スラっとした体型にかぎしっぽ。
(彼女は獣人族のようですね。意識を失った貴方を自分の家まで運んでくれたんですよ)
おっさんは何事もなかったかのように状況説明を始める。
(見捨てたよな・・・これもうダメかもわからんね・・・)
おっさんは慌てながら答える。
(いやいやいや!結果オーライじゃないですか!生きてるしこんな美人さんに看病してもらえて!これはもうアレですよ!恋愛フラグビンビンってやつですよ!!)
(え!?そうなの!!)
(そうですよ!少なくとも好意がなければ見知らぬ男性が倒れているのを家に連れてきて看病しませんって!これも一重に私の付与した【パワーダウン】の効果で気絶したおかげですよ!)
言いように丸め込まれた気がするが、結果オーライなのは間違いない。
右も左もわからない状況で好意的な美人というのは完全に美味しいシチュエーションだ。
「助けて頂いてありがとうございます。」
俺はベッドの中で丁寧にお辞儀をした。
「お礼なんかいいって。まだ寝てていいよ。今、ご飯準備してやるから。ごちそうを用意してやるって言いたいところだけど、まだ病み上がりだろうからお粥な。」
お姉さんは笑っいながら部屋から出ていった。
(めっちゃ・・・めっちゃ美人だけど・・・獣人だからかなんかちょっと獣臭い匂いがする。)
(可愛いからいいじゃないですか。多少獣臭くても腕毛とかスネ毛がもじゃもじゃ生えてても)
おっさんはカラカラと笑っている。
(え!?毛むくじゃらなの!?)
(そりゃ獣人族ですからね。毛が生えてないのは顔からお腹くらいまでで後は毛が普通に生えてますよ。)
(せっかくの美人なのもったいねー!!)
(種族的な問題ですから。)
おっさんと話しているとドアがガチャりと開いた。
「ご飯できたよー。」
お盆にはお粥と水が置かれている。
「ありがとうございます。いただきます。」
俺はもったいない系美人のお姉さんにお礼を言ってご飯を食べる事にした。
こっちに来てから何も食べてない。
お粥の香りが食欲をそそる。
スプーンで掬い、口へと運ぶーーー
「!?」
なんだこれは・・・妙なエグ味のある刺すような味・・・不味いとかそういうレベルじゃない・・・
胃が全力で侵入を拒否している!!
チラリと横目でお姉さんを見る。
めっちゃニコニコしながらこっちを見てる!この顔は美味しいって言うのを期待している顔だ!!
逆流する胃液とともに気合いで飲み込む。
「と・・・とっても美味しいです。でもまだ食欲がなくて・・・」
自分で自分を褒めてやりたい!俺は試練に打ち勝ったのだ!
「ふふ・・・なんか弟とダブるなぁ・・・」
「弟さんがいらっしゃるんですか?」
「3日前に病気で死んじゃったけどね。ちょっとあんたに似ててさ。まぁ医者からは治らないって言われてたんだけど、治る薬があるかもって冒険者ギルドに登録してアチコチ回ってーーーー」
お姉さんの身の上話が続いているが俺は顔面蒼白だった。
3日前・・・不治の病・・・獣人族・・・
かんっぜんに俺の代わりに死んだ奴じゃねぇか!!
「で森で倒れている弟そっくりのあんたを見た時、弟の生まれ変わりかも!なんて思っちゃってさ・・・」
ある意味生まれ変わりなんです・・・。
「美味しいけど食欲がないってご飯も喉を通らない状態だったから長くはないと覚悟はしてたんだけどね・・・」
それは病気のせいじゃない!!
「っと長く話しすぎちゃったね。ほらしっかり食べないと元気になれないよ!」
お姉さんが笑いながら言った。
「食べさせてあげるからあーんして」
お姉さんはスプーンで汚粥を掬うとフーフーと冷ましてから俺の口の前へと運ぶ。
通常なら嬉しいシチュエーションなのに全然嬉しくない。
ご褒美という名の拷問を受けながら俺の意識はまた闇へと沈んでいくのであった。