力の代償
瓦礫の山・・・
かつて町があったと思われる場所は焼け焦げた臭いと未だに消えていない炎で一面を明るく照らしていた。
「町・・・ないんだけど・・・」
(おっかしいなー。かなり大きな町があるはずだったんですけどね。)
ガタッ
崩れた瓦礫から人影が見える。
月明かりと炎に照らされた人影には鍬や鋤・・・ナイフを持っているのが見える。
(英雄が生まれた町とかでね。とにかく人当たりがよくて転生して最初に向かう町としては最適なんですよ。旅人にも気さくというか歓迎してくれますしねー。)
「あー・・・そうみたいね・・・今、熱烈な歓迎を受けているわ・・・」
思い思いの武器を持った数人の町人に周囲を囲まれてしまっていた。
(そうでしょう そうでしょう。)
おっさんはウンウンと返事をしている。
「あんた・・・旅の人だね・・・悪いが持ってる食料と金を全部置いていってくれないか・・・」
鍬を持った老人が話しかけてくる。
(おい!どこが旅人に優しいんだ!)
心の中でおっさん話しかける。
(大丈夫です!貴方の発言はこの国の言語に翻訳されて向こうに通じます!まずは対話です!)
そういう問題ではないんだがおっさんの相手をまともにしている時間はない。
とりあえずおっさんの言う通り対話を試みる事にした。
「半分くらいに負けてもらえませんか!」
老人達は一瞬キョトンという顔をしたがすぐに我に返った。
「ここで死ぬか・・・荷物を置いていくかを聞いている。」
それぞれ武器を構え、少しずつ寄ってくる。
(あ・・・ダメみたいですね)
おっさんは他人事のように言い放つ。
(ダメじゃねぇんだよ!初っ端のガイドからしくじってんじゃねぇか!何とかしろ!)
おっさんに話しかけるとおっさんはしょうがないといった風に話し始めた。
(一応ですね・・・転生者にはオプションというものが付与されておりまして・・・)
「何でもいいから早くしろ!!」
俺はつい声に出してしまった。
「早くするのはお前のほうだ!早く荷物を置いていけ!!」
町人たちが騒ぎ始める。これ以上待たせると命に関わるかもしれない・・・。
(貴方のオプションはパワーダウンですね。)
はっ?こういうオプションって転生先でのお役立ちアイテムとかチート能力とかそういうんじゃないのか?
(なんでオプションでステータス下げられてんだよ!)
(いや、この星の重力やら気圧やら諸々が地球の20分の1程度しかなくてですね。そのまま転生させると日常生活もままならなくなるんですよ)
おっさん説明を続ける。
(まぁ簡単に言うと20倍身体能力がある人が20倍楽な環境にいるわけですから常人の400倍くらい強い計算になりますね。このオプションを一時的に外しますんで全力で逃げてください。あっ 人にぶつからないように注意してくださいね。たぶん相手がトマトみたいになりますから・・・)
おっさんの説明が終わると身体が浮くかと思うくらいに軽くなる。
俺が一歩軽く足を踏み出した瞬間、あっという間に500mほど移動していた。
これなら簡単に逃げ切れる!
そう思った俺は森の中へ駆け出して行った。
「途中何度か木にぶつかったけど発泡スチロールみたいだったな。」
(気圧も空気抵抗も20分の1ですから地球に比べたらスッカスカなんですよ。なんでパワーダウンをオプションとしてつけたわけです。)
「まぁ確かに日常生活で支障をきたす気がするが・・・何か思ってたオプションと違うんだよなぁ・・・」
(何言ってるんですか!ココで生きていくうえで1番重要なオプションをチョイスしたのに!)
おっさんは何やら不満のようだ。
「はいはい 素晴らしいオプションでございます。」
俺はぶっきらぼう答えたが、実際はこんなスーパーマンみたいな力を貰った事に内心喜んでいた。
(じゃあ オプション効果を入れますね)
おっさんがそう言った瞬間、身体が重くなる。
いや・・・ちょっと待て・・・重いとかそういう次元じゃない・・・立っていられない・・・
俺はそのままぶっ倒れた・・・。
「動けねぇんだけど・・・」
(宇宙飛行士が地球に帰ってきた時、立てなくなるって聞いたことありません?身体がオプションに馴染むまではキツいんじゃないですかね)
代償がデカすぎる・・・この力を使った後、身体が慣れるまで動く事が出来なくなるとは・・・
「つーか・・・力は自前か・・・自分の本来の力を発揮する度に身動き取れなくなるとかただの呪いじゃねぇか!」
しかしオプションを切りっぱなしにすると日常生活もままならないだろう。
「あ・・・ダメだ・・・意識が飛ぶ・・・」
そう呟いた時、茂みがガサガサと揺れた・・・
何かが近づいてくる・・・。
(何か来ます!寝たら死にます!あ・・・死にはしないんだった。無になりますよー!)
おっさんの声が微かに脳裏に響いたが俺の意識は闇の中に溶けていった。
(あー・・・これはダメかもわからんね・・・)
おっさんへの殺意と共に・・・。