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無能天使  作者: 汝 恵美
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パンドラの箱

「犯罪者のたまり場なのかと思ってましたけど、意外と普通の街ですね。」


スラム街を歩きながらチャチャに話しかける。


「昔はあちこちで喧嘩はあるし、揉め事や強盗は日常茶飯事だったけどね。今はクロマ組って所がここら一帯のゴロツキを取り仕切ってるからはぐれヤクザみたいな奴は処理されちゃうからね。」


「へー・・・そうなんですね。」


処理の内容は聞きたくない・・・。

適当に話しを合わせる。


「おい あれ・・・ワーウルフじゃないか?」

「大きな犬じゃないの?大人しいし・・・」

「いや、犬にしては・・・大きいような・・・」


すれ違う人たちが振り返りハナを凝視している。

魔物が街の中を歩いていればそうなるだろう。


「チャチャさん・・・目立ってませんか?」


チャチャにコソコソ話しかける。


「お ハナ!いきなり人気者だねー。」


ハナが「ワン」と一声返事をする。


「いや!人気者とかそういう感じじゃないでしょ!」


「ま 気にしない 気にしない。流石に王都の中にハナを入れられないけどココなら関係ないからさ。」


鼻歌を歌いながらチャチャが先を歩いていく。


「到着!」


チャチャが手招きをしている。


「・・・酒場「ロマン亭」。・・・ここで身分証が貰えるんですか?」


入口の上の大きな看板な文字を読みながらチャチャに尋ねる。


「まっさかー。ここには家を借りに来たのさ。ハナも住むとなるとスラムくらいしか住む所がないからね。」


「現状 僕も入れないんですが・・・。」


「それは後で何とかするって。ほら入るよ!おばちゃーん いるー。」


チャチャは店の中に入っていく。


「ちょ・・・待ってくださいよー。」


俺とハナも後に続いた。


「店は夕方からだよ!」


忙しそうにテーブルを拭いているおばさんがコチラを振り向き返事をする。


「おばちゃん 久しぶり。」


チャチャがニカッと笑っておばさんに話しかける。


「チャチャじゃないか!最近見ないからどうしたのかと思ってたんだよ!」


おばさんは懐かしそうにチャチャの肩に手をかける。


「・・・こんにちは。」


俺はチャチャの後ろから顔を出しぺこりと頭を下げる。


「紹介するね。ここの酒場の女将さんでスラム地区の不動産を任されてる大家さんなんだよ。」


チャチャはまるで自分の事のように得意になって話ている。

おばさんも何やら照れているようだ。


「更に!私の料理の先生でもあるんだよ!!」


空気が凍りつく・・・。

おばさんも完全に固まっている。


「チャチャ!私はレシピを教えただけ!あなたの料理はあなたの完全な実力よ!」


肩を掴んでチャチャに言い聞かせるよう真剣に話している・・・ように見えるが、その視線はチャチャを通り越し俺に向けられている。


チャチャの料理しか食べた事ない俺はこの世界の料理が絶望的に不味いのかと思っていたがそうではないようだ。


「あと・・・よそで私に料理を教わったとか言っちゃいけないよ。」


おばさんは真剣だ。

完全に風評被害を恐れている。


「なんで?」


チャチャはポカンとして聞き返す。


「いや!ほら!おばちゃんが料理を教えてくれるって噂が広がったら酒場から料理教室になっちゃうだろ!おばちゃんはみんなに美味しい料理を食べてもらいたくて酒場をやってるから!」


真剣に言い訳をマシンガンのように発射しているが気持ちはわかる。


「ところで後ろの青年は?もしかして彼氏を紹介しにきたのかい!」


おばさんはチャチャにぐぐぐっと詰め寄り目を輝かせている。

俺はどこの世界でもおばさんって奴はこういう生き物なんだな・・・と苦笑いを浮かべる。


「ち・・・ちが!ちゃんと説明するから!」


チャチャは顔を真っ赤にしながらこれまでの経緯を説明し始めた。


ーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーー


「なるほどねぇ。記憶がないってのは大変だね。」


おばさんは目にハンカチを当てながら話しを聞いている。


「ーーで記憶探しとフリットの職探しのついでに王都に引っ越そうと思っておばちゃんのとこに来たんだよ。」


「仕事のあてはあるのかい?」


おばさんが聞いてくる。


「いや、まだ全然きまっーー。」


「いや!もう考えているんだよね。」


俺の言葉に被せてチャチャが不敵に笑う。

どうしよう・・・すごい嫌な予感がする・・・。


「そうかい そうかい。決まってるなら大丈夫だね。ここの隣がちょうど空き家だから住んでいいよ。家賃も負けとくからさ。」


おばさんは親指を立てて答える。


「2人とも働くならご飯の準備とか大変だろ。うちの隣ならすぐに食べに来られるし優良物件だよ。」


「ご飯くらい私が作るから大丈ー。」


「ここにします!」


今度は俺がチャチャに被せて即答する。

チャチャの頭には?マークが浮かんでいる。


「まーまー。いいじゃないか。おばちゃんはチャチャを娘と思ってるし、フリット君もチャチャの弟なら息子みたいなもんだからね。近くに居てくれた方が毎日楽しいよ。」


おばさんは笑いながらチャチャにカギを渡し、そっと俺にウインクする。

俺もチャチャに見えないよう親指を立てた。


「ちょっとおばさんに聞きたいことあるから先に家に言ってて。」


「聞きたいこと?」


「あ いや・・・たいした事じゃないんだけど・・・街の事とかは街にいる人が1番詳しいんじゃないかと思って!」


俺はチャチャの問いに慌てて答える。


「ふーん。何か変なフリット。じゃあじゃあハナ行こっか。」


チャチャは首を傾げながら、ハナを連れて隣の家に向かっていった。


「あの・・・おばさん・・・。」


おばさんにおずおずと尋ねる。


「なんだい?」


おばさんが聞き返す。


「・・・なんで料理が下手くそって教えてあげなかったんですか・・・」


おばさんは青ざめて答える。


「・・・まずあの子・・・自分が作った料理を味見しないんだよ・・・。作ってる間に食材を生で味見しちゃうから・・・」


・・・チャチャは自分の料理を食べた事ないのか・・・。


「明るく美味しいか聞いてくるあの子に不味いって言えなくてね・・・」


なんとなくそれはわかる。


「でも、1人だけ不味いって言い放った男がいたんだよ・・・。」


おばさんは震えながら続ける。


「・・・その男・・・どうなったんですか・・・。」


ゴクリと唾を飲み込む。


「チャチャって負けん気が強いだろ。絶対美味しいって言わせるって毎日そいつに料理を食べさせ続けたのさ・・・。嫌がるそいつの口に無理やり料理をねじ込んで・・・美味しいっていうまで・・・。」


今度は俺が青ざめ始める。


「チャチャのいつもの料理は飲み込めないくらい不味い程度なんだけど・・・」


その時点で危険な代物なんだけど感覚が麻痺してくる。


「凝った料理や気合いを入れて作ると・・・。」


そこまで言いかけておばさんはまた身震いをする。


「いや!もういいです!何か怖い!」


俺はおばさんの言葉を遮る。


「その時の弁当箱・・・この辺りじゃ希望のないパンドラの箱って呼ばれてるよ・・・。」


おばさんが隅っこの棚を指さして答える。

そこには黒く変形した箱のような何かが置かれていた・・・。


おばさんに別れをいい帰路につく。


「ちょっと聞きたいと思ったらとんだホラー話になってしまったなぁ。」


と扉に手をかけ、家に入る。


家の奥からすっぱ臭い匂いが漂ってくる。

奥へ行くと真剣な表情で台所に向かうチャチャの姿があった。

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