強すぎるという事
「・・・フリッ・・・ト・・・?」
チャチャは困惑した表情でこちらを見ている。
「すぐに終わらせるから。」
チャチャに優しく微笑みかけトロールに向き直る。
・・・それ以上に困惑しているのはトロールとハナだった。
トロールは何故石斧が粉々になったのかわからないという感じに残った柄の部分をツンツンして首を傾げている。
ハナは置いてきたはずの俺がここにいる事に驚きを隠せないようで目を丸くして固まっている。
全速力で戻ってきたワーウルフと変わらない速度でただの人間がやってきたのだから当然の反応であろう。
「さて・・・じゃあ一丁やっちゃいますか!」
カッコよく決めようとトロールの方へ剣を向けた。
ーーーが!ちょっと振っただけなのに剣は耐久の限界を超えたのか剣が折れ、そのままトロールの方へ飛んでいき腹部へと突き刺さった。
「あ・・・ごめん・・・。」
脆すぎて武器が使えねぇ!よく見たら握っていた柄の部分も握力で圧縮されて細くなっている。
「ギギギ・・・ギザマ・・・ゴロジデヤル!!」
トロールが投げつけた鎖が腕に巻き付く。
トロールはニヤリと笑うと力任せに鎖を引っ張った。
グンっと鎖が張り詰める。
身体中に血管を浮きだたせ全体重を乗せて強引に引っ張っているが全然動かない。
「ゴンナ・・・バカナ・・・!!」
「綱引きがしたいのかな?」
鎖を軽く引っ張ってみる。
鎖は耐久の限界値を迎え、あっさりとちぎれ飛ぶ。
その拍子に急に引っ張られたトロールは豪快にすっ転んだ。
すっ転んだトロールの顔面を思い切り蹴り飛ばす。
ぐちゃぐちゃに変形しながら飛んでいった顔面は木をへし折りながら遠くへ飛んでいき、残された巨体はしばらく痙攣していたが次第に動かなくなった。
「チャチャ。こいつって元々この森に住んでるの?」
ポカンと惚けているチャチャに問いかける。
「あ・・・いや・・・いるわけがない・・・。魔王の配下で勇者に封印された魔王の眷属・・・物語の挿絵でしか見たことない拷問狂の悪鬼だから・・・」
我に返ったチャチャが答える。
俺がこの世界に来たときに魔王が一度この地に来ている。
その後、魔王が暴れた情報が無いことを考えると勇者捜索は自分で動かず眷属を使う事にしたのか?
魔王自ら一度乗り込んでいる事を考えると遊びで眷属を送り込んでいるわけではないだろう。
おそらく魔王も何らかの制限があり、自身が長期間行動する事が出来ない可能性がある・・・。
または勇者捜索よりも優先しなければならない何かがある・・・とか・・・。
ハッと我に返ると真っ青になって震えている2人の姿があった。
まぁ 予想してなかったわけじゃない・・・
人外すぎるパワーを見て完全にドン引きしているのだろう・・・。
「本当に・・・フリット・・・?」
「俺はーーーー。」
そう言いかけた時、チャチャが駆け寄ってきた。
ヤバい!チャチャが俺に触ろうものならチャチャの骨が粉々になる!!
慌てて再装着すると凄まじい重力が身体を襲う。
いかん!解放状態が長すぎたせいで戻った時の反動がデカすぎる!!
自重を支えきれなくなった俺はチャチャの胸に突っ伏してそのまま意識がなくなった。