弟と俺
「・・・最悪の展開だ・・・」
ハナが駆け出していった森を見つめながら俺はこの先どうするべきかを真剣に考えていた。
魔物の集団が逃げ出すレベルの怪物がトロールであることは間違いない。
チャチャの反応から今の装備ではトロールにチャチャが勝てない事は明白だ。
危険な森に己を奮い立たせて戻って行ったハナはチャチャと共にトロールと戦うつもりだろう。
今から解除して救援に向かったとして問題は2つある。
戻った時にチャチャとハナが無事かどうか・・・。
解除状態終了後、俺はほとんど身動きが取れないであろう。そんな中、ダメージが蓄積したチャチャとハナではその後の森の魔物と対峙できるとは思えない。ならば救援に行くのであれば今しかない・・・。
しかしトロールが1体でなかった場合は事情が変わってくる。
今のトロールを撃退後、再装着したのち再度トロールの襲撃があった場合、死ぬより辛い運命が待ち受けているだろう・・・。
ならばトロール撃退後、解放状態のままチャチャとハナを担いで王都まで離脱するか・・・。
ダメだ!力の制御に失敗すれば王都に着く頃にはチャチャもハナもホールトマト状態になっている可能性が高い。
ちょっと動いただけで常識離れしたパワーが出る状態では加減が出来る出来ないという問題ではない。
「ふー・・・ダメだ・・・せめてあの場でチャチャが無傷のうちにトロールを撃退出来れば何とかなったんだけどな・・・。」
チャチャは恩人といっても弟とダブらせて・・・
俺が弟に似てなかったら助けてくれなかった可能性もある・・・
ーーーーやめろ!!
ハナだってチャチャがいなかったら俺に襲いかかってきた可能性も・・・。
ーーーーやめろ!考えるな!!
「・・・2人を見捨てる理由を考えるな!!」
解除!!
「最短距離はハナが進んでいるはず・・・途中で追いつくとハナがミンチになるな・・・」
ハナが駆け出したルートから少し外れた位置から森へ突入し、木々をかき分けながらチャチャと別れた地点を目指す。
ふと後ろを振り返ると巨木が連なるようなぎ倒され、地面は抉れ返っている。
「帰りはこのルート使えないな・・・」
そのまま突き進むと木々の間から光が見え始めた。
あれは焚き火の火・・・!目的地が近い!
どんな位置取りでチャチャが戦っているのかわからない以上、このまま突き進むわけにはいかない!
俺は匍匐前進しながら前へ進んでいく。
「脚は地面に擦りつけて推進力をセーブ!手は片方ずつゆっくりと前へと掻き分ける。」
口に出して自分に言い聞かせながらカサカサ進んでいく。
傍目から見たら巨大なゴキブリが地面を抉りながら凄い速さで移動しているように見えたかもしれない・・・。
草むらの間から状況を確認する。
チャチャがトロールと向かい合い短剣を構えている。
立っているのもやっとといった満身創痍の状態だ・・・。
ハナも威嚇行為を繰り返しているが動ける状態ではなさそうだ・・・。
トロールはブンブン石斧を振り回しながらカタコトで何かを喋っている。
「私は・・・今度こそフリットを守ってみせる!!」
チャチャの叫び声が聞こえる。
あぁ・・・やっぱり弟の代わりなんだよなぁ・・・。
胸の辺りがチクチク痛い・・・。
でも・・・弟も俺もどっちも大事なフリットだと言ってくてた・・・。
「俺たちで姉さんを助けるしかないよな!」
勢いよく飛び出し振り下ろされた石斧に体当たりをする。
石斧は弾け飛び、粉々になりながら崩れ落ちる。
弟・・・姉さんの事は俺に任せろ!
「俺は今度こそ!姉さんを置いていったりはしない!!」
チャチャを守るようトロールと対峙し俺は剣を引き抜いた。