女の闘い(後編)
「おい!ハナ!止まれ!」
俺の声が届かないのかハナはどんどん加速していき、月明かりに照らされた森の外へ突き抜けた。
俺を降ろすとハナはくるりと身を翻し、自分を奮い立たせるように遠吠えを1回行い、再び暗い森の中へと駆け出して行った。
暗い森はハナをあっという間に飲み込み、ぬるい風が木々を揺らしていた。
「オマエ ジョウブダナ・・・」
トロールは魔物だった物から鎖を外し、こちらを値踏みするよう見据えている。
ーーーーしくじった。
先手を取って突き立てた短剣はトロールの堅い皮膚に阻まれ、石斧で薙ぎ払われてしまった。
とっさに後ろへ飛んだもののそのまま木へと叩きつけられ、立っているのもやっとの状態だ。
「オマエヲ ツギノペット シテヤル・・・」
鎖を振り回しながらトロールが近付いてくる。
あの鎖に捕まった未来の姿がアレなのだろうと考えるとゾッとする・・・。
フーっと呼吸を整え、武器の残弾を確認する。
投げナイフ3 短剣1 ・・・
厚い皮膚を貫ける火力はない・・・。
ナイフで牽制しつつ逃げるにしても残弾が足りない・・・。
・・・目を潰すしかない・・・。
トロールが鎖を投げると同時に最後の力を振り絞り懐へ潜り込む。
トロールがこちらを確認する為に下を向く。
「くらえ!!」
トロールの眼球めがけてナイフを2本投げつける。
ーーーがトロールは素早く後ろへ仰け反りナイフを躱した。
トロールに蹴りを入れ、反動で後ろへ飛び距離を取る。
・・・短剣を含めチャンスはあと一度・・・。
「サァ サンポノジカンダ・・・」
凄い力でトロールの方へ引きずり込まてる。
いつの間にか左脚に鎖が巻き付いていた。
地面から飛び出た石と身体が擦れ合い、血が滲み出る。
ボロボロだった魔物はトロールの力で森の中を引きずられ続けた結果、あのような姿になったのだろう。
「こんの!馬鹿力が!!」
最後のナイフをトロールに向けて投げつけたが引きずられた状態では狙いが定まらずトロールをかすめ後ろの木へと突き刺さった。
「オマエ ハンコウテキ」
トロールが大きく石斧を振りかぶった時、暗闇からワーウルフが飛び出し、鎖を持つ腕に噛み付いた。
一瞬緩んだ鎖から素早く脱出する。
トロールはワーウルフを力任せにそのまま木へと叩きつけた。
「ハナ!?フリットは!!」
ハナはゆっくりと立ち上がるとコクリと1回頷いた。
「そっか・・・あんたも早く逃げな!!」
残った短剣を構えトロールの注意を引く。
しかしハナは首を横に振りトロールを威嚇している。
「フタリトモ アソンデホシイノカ・・・」
トロールはにんまりと笑い石斧を振り回し始めた。
「私は!!今度こそフリットを守って見せる!!」
ーーーーハナ・・・巻き込んでごめんね・・・。
振り下ろされた石斧に覚悟を決め目をつぶった時、轟音が響き渡った。
「俺は・・・今度こそ姉さんを置いて行ったりしない!!」
ゆっくりと目を開けると粉々に砕かれた石斧とフリットの姿がそこにあった。