プロローグ
「いやー こんな事になってしまって申し訳ありません。幸い遺体に損傷はないようですしすぐに生き返らせますから」
頭に輪っか着けてるおっさんがペコペコ頭を下げている・・・
「別にイイっすよ。生き返して貰えるなら事故って事で忘れますから」
俺はそっけなく答えた。
どうやら死なせる人間を間違えてしまい、俺は手違いで死んでしまったようだ。
「同姓同名って結構いるんで100年に1回くらいこういう手違いが起きるんですよ。ハハハ・・・おかしいと思ったんですよねぇ。街中で溺死ですから・・・」
溺死・・・?俺は溺れて死んだのか・・・?
川や海に行ってないし、プールにも行ってない・・・
というかまだそんなシーズンじゃないし・・・
「俺ってどこで溺死したんですかね?」
不意に疑問が湧き上がる・・・しかも恐ろしく不安になる・・・
「水辺がなかったんで公衆トイレで足を滑らせて和式トイレで溺死してもらったんですよ。」
・・・は?
「じゃあ生き返らせますねー」
天使は何やら準備を始めている。
「ちょっと待て!お前!それ生き返っても社会的に死んでるじゃねぇか!!」
天使はキョトンとしている。
まるで自体が解っていないようだ。
「トイレに頭突っ込んで溺死とか生き返っても周囲から【トイレの神様】とか【どっぽん便所】とか悲しいあだ名を背負って生きていかなきゃいけなくなるだろ!生き返すならその事を無かったことにして生き返してくれよ!」
天使は困ったように言う。
「神様じゃないんですから起きた事を無かったことに出来るわけないじゃないですか。いいじゃないですか。トイレの神様!神様ですよ!僕憧れちゃうなぁ」
殺す・・・こいつを殺して俺も死ぬ・・・!
そう思った時に部屋のドアが空いた。
「誤死者への説明終わった?」
頭に輪っかを着けた長髪の男が入ってくる。
「いやー それが生き返りたくないって駄々をこねてまして・・・」
頭をかきながらおっさんは答える。
「生き返りたくないとは言ってねぇよ!社会的に死んでる所に生き返すなって言ってるんだ。」
おっさんはアワアワしている。どうやら非常にまずい状況らしい。おっさんでは話にならないので事の経緯を長髪の男に話した。
「事情はわかりました。こちらの落ち度で大変申し訳ないことを・・・でしたら転生という手段はいかがででょうか?別の世界で人生をやり直すんです。」
転生のススメといういかがわしいパンフレットを見せながら長髪の男が言った。
「ですが今は他の世界に条件に合う死者枠はなくて・・・めんどくさ・・・いや元の世界の遺体が無事ならそっちに戻した方が正常と言いますか・・・」
おっさんはすごく嫌そうに話している。
恐らく天界もお役所仕事的な手続きがあるのだろう。
すこぶる面倒くさいというのが伝わってくる。
「黙りなさい!元はと言えば貴方の失態です。すぐに手配しなさい!・・・あ すみません。勝手に話を進めてしまって・・・今回の転生は元の記憶も御所望であれば残しますし、転生先に慣れるまでのバックアップもこちらで保証させていただきます。トイレでの溺死の件を無かったことにするのは世界の法則を乱す行為に繋がり、様々な不都合が生じます。ご理解いただけると助かるのですが・・・」
どうやら時間を戻したり、歴史を変えたりすることは出来なくはないがリスクが高いようだ・・・。
「まぁ記憶が残ってバックアップまでしていただけるなら・・・それで・・・」
しょうがなく俺は答えた。
「では手続きが済むまでしばらく待機をお願いたします。おい君!急ぎたまえ!」
「かしこまりましたー!」
おっさんはバタバタと部屋から出ていった。
転生するまでの間、俺はこの何もない部屋で1週間待機する事になる・・・。