4-5 こんな作戦どうだ?
俺はクラレンスとアレンをゆっくりと眺める。端正な顔立ちだが、俺たちを殺す気満々な顔をしている。どひぇ。おそろしおそろし。あの岩は電気でコーティングされているのか。あの岩はもしかして・・・。
「涼香、こんな作戦どうだ?」
俺は涼香に思いついた作戦を伝えるために、耳元で囁いた。
「ふふっ」
「なんか変だったか?」
俺が涼香の顔をうかがうと涼香は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「いえ、ちょっとくすぐったかっただけです。作戦、いいと思います。やってみましょう」
涼香はそそくさと後ろに下がる。どうやら、涼香は耳が弱いらしいな。ドワーフの村に入ったときに決意した復讐に使えそうだ。ふはは。よーし、こんな奴らさっさとぶっ飛ばして優姫と作戦会議だな。
俺は自分の魔導書に左手を添えながら、右手でエルフチームの浮かべている岩に狙いを定める。クラレンスは岩に自分の右手から電流を流し、左手で回収しているようだ。電流は岩と岩の間をびゅんびゅんと飛び交っている。二つの岩をうまくまとめて水の中に入れられるようにしなければ。
俺がそうやって岩の動きに目を凝らしているとクラレンスから声がかかる。
「人間さーん!そうやって岩をじっと見つめて何してんだー?攻撃すっぞ?殺しちゃうぞ」
おおう。挑発してくれるね?俺はクラレンスを見る。挑発している割には俺の事をじっと見つめている。一挙手一投足逃さないというような構えだ。頼むから油断してくれよ・・・。
「いいよ、来いよ!!雑魚エルフ!」
俺も笑顔でそう返す。クラレンスは笑顔になる。
「いうね!アレン、やれ!」
「あいさー。浮遊」
浮かんでいる岩が俺に向かって加速する。飛んできた岩は・・・一個だけか!これはかわさなければ!
「涼香!」
「はい!」
俺は涼香と肩を組む。岩は轟音を立てて迫る。近づいてくるだけで俺たちの髪の毛が逆立つ感覚がする。今、車のドアを開けたくないな。すっごい痛そうだ。
俺は十分引き付ける。岩は俺たちの姿をクラレンス、アレンの視界から消してくれるはずだ!
「いまだ!」
「跳躍!」
俺と涼香は上空に高く上がる。
「アレン!上だ!」
岩に隠れて一瞬で上空に来たはずだが、クラレンスは間髪入れずに俺たちの姿を補足する。クソ!目が良いな!
「うぃー」
アレンの気の抜けた返事とは裏腹に、二つ目の岩が俺たちに迫る。再度全身の毛が逆立つ感覚が起こる。
「涼香!右!」
俺の短い指示を涼香は確実にくみ取る。とっておきの魔法。涼香の少ない体力を大幅に削って地球・・・ここが地球かどうかは知らないが、重力に少し逆らう魔法。
「洪水!」
「加速!」
俺の魔法によって岩に濁流がぶつかる。電熱によってあったまった岩に当たった水は急激に蒸発、一帯が霧に包まれる。そして、涼香の魔法によって俺たちの体が空中で急激に右にシフトする。これで岩に直撃するコースは外れたはずだ。
だが、俺の予想は裏切られた。霧によって見えなかった視界に突如、灰色の物体が現れる。
「嘘だろ!?」
俺は慌てて涼香を後ろに回す。涼香さえ無事なら回復魔法を使える!
「ぐっ、ああああああああ!!」
いってぇぇぇぇ!!あっつい!!体がうまく動かない!!電撃によって全身が勝手に動いている!ショックを受けた時、雷に打たれた様とかいうけど、一回打たれて見ろ。世の中のショックな出来事なんて大したことないぞ。ははは、これは三途の河かな?
「仁さん!!!」
後ろで涼香の叫びがうっすら聞こえる。痛みを感じるのは最初だけだった。後は息を吐くたびに感じる肉の焼けた香ばしい匂いと、不完全燃焼で出るススの匂いだけが俺の感覚に残った。
「早く起きてください!次の攻撃が来ます!治療!」
俺は全身が軽くなる。焦げ臭い匂いはあっという間に消え、俺は全身の主導権を取り戻す。今はアドレナリンで痛みを感じないが・・・絶対これ明日に残るやつだ!
「サンキュ!涼香、動けるか?」
「ダメです」
「じゃあ、ちょっと乱暴だが耐えろよ!」
俺はクラレンスを見る。
「おいおい、大したことないな!この程度の攻撃、俺たちには効かねぇよ!」
「ほほう?必死だったように見えたが?」
うっ。バレてるじゃないか・・・。だが、ここで引くわけにはいかない!もっと派手にやってもらわなければ。
「そう見えたか?だとしたらお前の目が節穴だったってことだな!」
クラレンスはにんまりと笑う。
「いいだろう!ご要望にお応えしょうじゃないか!アレン!行くぞ!」
クラレンスの手が赤く光る。
「赤い稲妻に打たれて死ね!赤電撃!」
「あいあいさー。超加速」
涼香の魔法の上位互換だろうか。アレンは俺と涼香、それぞれに岩を飛ばそうとしている。岩は恐ろしい勢いで加速を始める。そして、岩を包む電気が赤く変色する。・・・あんな電気でも大丈夫だろうか。まぁやるしかない!
「創作=巨大水泡!」
俺は、岩がまだ敵の近くにある段階で、岩を水で包んだ。二つの岩。これが電極になるはず!これで水を水素と酸素に電気分解!!俺はどうなるかを確認する前に涼香を抱える。
「いくぞ!水噴射!」
俺と涼香は俺の手から発する水流の力によって急速にクラレンスたちと距離を取る。ふはは、これであいつは自分の電気で水素を起爆!さらばだ!
だが、クラレンスは岩が見ずに覆われたところを見て電撃をやめていた。
「アレン!岩で防御!」
「あいさー」
アレンが岩でクラレンスと自分を囲んだ瞬間
ドカァァァァン!!
「ぐああああ」
爆発と悲鳴が起こる。水素が一瞬で酸素と結合し水に戻る。クラレンスの奴。気が付いていたか・・・!俺たちが着地するとクラレンスは岩の裏から表れ、やはり笑顔で俺たちを迎える。アレンは・・・隣で伸びている。どうやら爆発によって岩が崩壊しアレンが気絶したようだ。
「アレンを倒すとはな。なかなか、やるじゃないか。まさか、俺に水を爆発させるとは」
「いやいや、俺も少しナメてたよ。水素が爆発するって気が付くとは」
「ふっ。人間の浅はかな知恵でエルフを判断しないことだな。俺がこの魔法を何年使っていると思っている。強力な電撃で水が爆発する程度の事、エルフが知らないわけないだろう」
どうやらエルフ様は水が二つの原子から成ることは知らないらしい。まぁ、どうでもいいが。クラレンスは俺に話しかける。
「さて、そちらの女も動けず、アレンも動けない。俺とお前の一騎打ちになるな?」
俺は後ろの涼香を振り返る。涼香は力なくほほ笑む。
「お願いします」
「そうみたいだな」
クラレンスは先ほどまでの笑顔と違い、より深い笑みを浮かべながら俺を睨む。
「お前は人間にしてはよくやるらしい。だからこそ、俺は本気でお前を叩き潰す」
クラレンスの顔から表情が消える。そして、両手を胸の前でクロスさせる。クラレンスの体は徐々に光始める。
「行くぞ。少しは抵抗して、人間の力を見せてみろ」
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