4-2 俺は脱臼した。
「治療!」
俺の治療魔法。なぜか水属性になる俺の治療魔法なら、消火しながら回復できる!
俺の魔法が優姫の上から降り注ぐ。
「優姫!まとめて攻撃するからちょっと耐えろ!」
「がってん!身体強化!!」
「水鉄砲!」
「がはは!何かと思えばそんな程度の攻撃、大したことないだろうが!水遊びでもしてんのか!?」
おっ。こいつ、水をナメてるな?俺はゲルトの足もとに落ちている水滴に狙いを定める。
「水の体積は液体から気体になるときに体積が1000倍になるんだ!まぁ、ミノタウロスは耐え抜いたが、ドワーフはどうかな!?くらえ!突沸!」
「ぐわぁ!!」
おお、よく飛ぶじゃないか。
「何だ!ゲルト!どうした!」
くらえ、水蒸気爆発!爆発の効果でゲルトを包んでいた火は吹き飛び、ゲルト本人は吹き飛んでいった。だが、これでもおそらく大したダメージは与えられてないだろう。まぁ、30秒でもゲルトがいないだけでもこちらが有利だ。
それにしても、優姫は魔法を使っているとはいえ、ミノタウロス並に頑丈だなぁ。爆発、喰らってるはずなんだけどな。あいつの前世、なんかの怪物なんじゃないか?
そんな元怪物から俺に掛け声がかかる。
「仁!指示!」
「はいはいー!火の魔法は俺が相手する。優姫はまだ残っている霧に紛れてあのヴォルフラムとかいうの、吹っ飛ばせ。涼香は俺のバックアップ!」
「ほいさ!」
優姫はスカートを翻して俺たちの背後に回る。背後からヴォルフラムを叩くためだ。この霧の中なら、人数が一人減っても分かるまい。
「わかりました!」
「じゃあ、行くぞ!大技のお披露目だ!大波!」
この魔法はシンプルに大きな波を起こすだけだ。ただ使う水量が多い分、自前の魔力でやろうとすると、この魔法だけで一日動けなくなるだろうな。だが、今回は湖から水を引っ張ってきている。俺は両手で水を引っ張ってくる仕草をする。水を一本釣りするような感覚だ。
「おらよ!!喰らいやがれ!」
「グリシャ!先手を取れ!」
ヴォルフラムの指示。どこからともなくグリシャの声が聞こえる。
「了解!火渦!!」
俺と涼香の前には巨大な炎の竜巻が現れる。竜巻は蛇のようにうねりながら、じりじりと俺たちの方に近寄ってくる。急激な温度上昇と竜巻により霧が晴れる。
「うわぁ!!あちぃ!!髪が燃える!」
「仁さん!魔法早く早く!私ハゲちゃいますよ!」
「そんなこと言ったって湖から波はくるんだ。もう少しかかる」
「なんで落ち着いてるんですか!」
「慌てたって波が来る時間は変わらない。おら、来たぞ!耳ふさいで口開けとけよ!」
ドパァァァァン!!
サーファーでさえ、恐怖を抱きそうな大きな波が竜巻にぶつかり、轟音を鳴らす。波が急激に蒸発して、爆発する。そして、炎の竜巻は俺の大波にそのエネルギーを全て吸収され消えた。高温になった大波は、そのままグリシャに襲い掛かった。
「ぐわぁぁぁ!あっつい!」
グリシャは俺たちを無視して真っ先に水の少なくなった湖に走りこむ。これでグリシャは戦闘不能だろう.俺たちがそんなグリシャを追撃すると思ったのか、ヴォルフラムはあわてて姿を現すと叫んだ。
「グリシャ、耐えろ!今助ける!」
お、ヴォルフラムめ。呪文を唱えるつもりだな?させん!
「涼香!」
「はい!沈黙!」
ふはは!やっぱり強いぞ!ヴォルフラムは口をパクパクさせている!あとは、優姫だけ!
「いまだ、優姫!」
・・・あれ?ちょっとー優姫さんー?優姫が現れない。このままじゃまずいぞ!?ゲルトが起きちまう!
「お前ら・・・!やってくれたな!」
やべっ!言ってるそばから!ゲルトの体は全く傷ついていなかった。こいつもなかなか頑丈だ。涼香の声。
「仁さん!どうします!?」
んー、どうしよっか・・・?俺はゲルトの行動を見る。
「障壁!」
おお、ゲルトの周りに半透明な青い壁が出来る。ふむ、やはりゲルトが使える魔法は防御魔法だけだな。
「障壁操作!」
おおう、ゲルトがタコみたいになった!ゲルトの半透明の壁の形が変化し、触手が何本も生えたような形になる。これ、対応するのめんどくせぇな・・・。やはり、こんな時の涼香ちゃんかな。
「涼香・・・。吹っ飛ばしたれ」
「・・・はい。跳躍」
「うぉぉぉぉ・・・・」
ドップラー効果。離れていく音は波長が伸びて低く聞こえる。
ドゴォ!
「あ。そういえばここ洞窟の中だったわ・・・。あいつ、天井にめり込んだな。生きてるかな?」
「大丈夫だと思いますよ。障壁ありますから」
「確かに」
すると、沈黙の魔法を何とか解除したヴォルフラムが叫ぶ。
「お前たち!やってくれたな!人間の屑ども!奇襲という卑怯な手を使いよって!そんな風に勝ってうれしいか!?」
「うれしいね!」
「ぐっ、誇りは無いのか!?」
「お前らこそ俺たちが人間だと侮って勝手に油断してたんだろ!?そうやって吠えながら負けをかみしめてろ!」
ヴォルフラムはがははと笑う。
「バカが!俺たちはまだ負けてない!お前たちなど、俺一人で十分だ!ん・・・?一人どこへ行った?」
その時、ヴォルフラムの後ろから大きな声が響く。
「お前の後ろだよ!」
「何!?」
やっと来たか!遅いんだよ!まったく、どこで道草食ってたんだ。ははは・・・優姫に対してこのことわざを使うとほんとに草食ってそうで怖いな。
そんな場違いな事を考えていた俺の視界に、こぶしを握り締めてパンチする構えをする優姫が飛び込んでくる。・・・いやいや、ちょっと!!
「待て、優姫そんなところでその技出すな!」
だが優姫にはもはや聞こえていない。くそっ。
「涼香!」
「きゃっ!!」
俺は涼香を抱えて横に飛んだ。
「突撃殴打!!!」
「ぶっ」
ヴォルフラムはたった一言汚い言葉を残しながら俺と涼香がもといた場所を突っ切り、吹っ飛んで行った。そして、水の音。湖まで吹き飛んだか。優姫、恐るべし。
そして、ドワーフチームの旗が光り輝く。なるほどこんな風に場所を知らせてくれるのか。
俺の冷静な頭はそう考えていたが、冷静じゃない方が口を動かす主導権を握っている。
「おい!俺達巻き込むつもりか!」
「ええ?よけてくれるって信じてたヨッ!」
バチーン。優姫のウィンク。へたくそだから、二度とやらないでくれ。
「ふざけんな!俺と涼香はお前ほど頑丈な体じゃねぇんだ!死ぬわ!」
「二人とも!早く旗取ってしまいましょ!」
涼香はぴょんぴょんと焦げた地面を避けて旗の近くに進む。なんで涼香は怒ってないんだ。俺はまだ、怒りが収まらない。
「だいたい、来るのがおせーんだよ!お前!何してたんだよ!草でも食べてたか?」
「ボクだって遊んでたわけじゃないもん!草なんか食べないよ!!なんか、回り込もうとしたらもう一人いたから、ぶっとばしてただけだもん!」
「もう一人いたのか」
「そうだよ!回復系の魔法ばっかり持ってて全然ぶっとばせなかったんだよ」
「なるほどな、今回はそういうことにしといてやろうじゃねぇか」
俺がそう納得したとき、闘技場に入る時に聞こえたアナウンスの声が聞こえる。
「試合終了!チームユウキの勝利!」
そして、さっきまで全く聞こえなかった観客の声が急に聞こえた。
「ブー!!!!」
うわっ、すっごいブーイング!どうやら試合中は旗の位置のヒントを叫ばれても選手に聞こえないように防音措置がなされているらしい。だが、ここまでブーイングされているとは。
「すっごいね!ボクたちこんな嫌われてるのか」
「そうですね。少しならまだしも、せっかく勝ったのにここまでされるとちょっと心に響きますね」
「確かになー。まぁ、全員が敵ってわけではないだろうけどな」
「そう?ボクむしろ燃えてきたよ!こいつら全員の思い通りにはさせないよ!」
俺たちはそんなブーイングの中、自分たちの旗のもとへ戻る。
「おい、アクセル、終わったぞ」
俺はアクセルをゆする。ここまで本当にずっと寝てたらしい。のんきなもんだ。
「・・・ん?ああ、終わったか。じゃあ、控室に戻るぞ。次の試合は明日だ。準備しろ」
アクセルは起き上がるとのっそのっそと出口に歩いていく。
「ったく。言われなくてもするわ」
俺たちは闘技場から出た。廊下を歩いているとき、涼香が俺に話しかけてきた。
「仁さん、次の敵はエルフの様ですが」
「ああ、連携と頭脳プレイが上手い奴らだ。俺たちの実力も知られてしまった。ドワーフの猛攻程度なら簡単にしのげると。本当の勝負は次からだろうな。」
「そうですね」
「それに、リーダーが優姫になってるんだ。優姫がノックアウトされないようにしなければいけない」
覚悟を決め、俺は険しい表情を作る。
「何かたくなってんだよ!気楽にいこうぜっ!」
そんな俺を慰めるように優姫が肩を叩いてくれる。ふふ。こいつでも人の心を気遣ったりできうっ、うっ・・・。俺の怒りが再燃する。
「いてぇよ!お前の力は常人には強すぎんだよ!」
「ええっ、せっかくこのボクがわざわざ仁の肩の力抜いてあげようかと思ったのに!?」
「お前が叩くのを我慢するために、むしろ力入ってるんだよ!お前が人に触る時は千分の一くらいの力にしとけ!」
「仁のためにそんな、めんどくさいことしないよ!」
優姫は大きく振りかぶって俺の肩をたたいた。
「ぐはぁ!!」
俺は脱臼した。
読んでいただきありがとうございます!
次回,闘技場二戦目!
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