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1-2 あの災害から半年

あの災害からすでに半年ほど経っただろうか。生き残った人類はそれぞれ隠れるように細々と生きているらしい。俺たちも洞穴の中に隠れながら生きている。今は新宿の森で食料を探しているところだ。この新たにできた森には、想像以上に果物など食べられるものが多かったのだ。もちろん、危険もすぐそこに転がっているが。


「ねえ、涼香!あれ、食べられるかな?」


とても太い、俺が三人集まって輪っかを作ってもこの幹の太さには敵わないだろう木になっている茶色の実を指差し、声をあげたのは一ノ宮優姫。残念ながら俺の幼馴染。終焉の日、吹き飛ばされて離れ離れになった後偶然再会してから一緒に行動している。顔は、幼馴染として真剣に評価したとしても、優姫はかわいい部類に入るだろう。


剣道の全国大会で優勝するほどの実力の持ち主だが何より天然だ。いや、どちらかというとアホか。いつも思い付きで動く。頭が悪いわけではないのだが・・・。


髪型はいつも長髪を適当に後ろでまとめたスタイルだ。そして、俺たちは着替える服がないので、制服のままだ。優姫は都内のお嬢様学校に通っていたらしい。ベージュのブレザーに赤いチェックのスカートだ。できれば赤は目立つのでやめて欲しいが、着替えがないので仕方がないだろう。


「あれは、食べられると思いますよ。鳥が食べやすそうな位置にありますから、ね、仁さん」


こちらは冷泉涼香。こちらも制服そのままだ。濃い藍色のセーラー服に赤いリボンがついている。顔は俺の評価では相当上位で、学校に一人いる綺麗な人という感じだろうか。こちらも長髪だが、その辺に生えているアロエなどをうまくやりくりしてしっかり手入れされている。聞くところによると昔は多少パーマをかけてふわっとした髪型だったらしい。


涼香は俺と優姫が寝床を求めて教会に行った時一人、教会の祭壇で寝ていた。俺も優姫も神様を信じているわけではないが、今のこの空想と現実が入り混じったような世界。神がいてもおかしくない。二人で慌てて涼香を祭壇から下ろしたのだ。本人はなぜそんなところで寝ていたのかは覚えていないそうだ。


「仁さん?」


俺は二ノ宮仁。じんではなくひとしだ。俺も学校のワイシャツにベスト、スラックスと言う制服のままだが、こちらはズボンに緑色の線が入っている。森に隠れるにはうってつけだろう。俺の容姿?普通だ。可もなく不可もなく。顔のせいで彼女ができないということは無いだろうと思っている。


などと、脳内で全員の紹介をしてみていると、優姫が焦れったそうに俺に話しかけてきた。


「ちょっと、仁!聞いてるー?」


「ん?ああ、すまん、じゃあ、あれ、落とすからうまく取れよ?」


「がってん!承知の助!」


優姫が俺に向かってビシッと敬礼する。姿勢がいいので敬礼がとてもかっこいい。だが、セリフ、ダサくないか?

俺はポケットから普通の文庫本より少し小さいサイズの本を取り出して、ページをめくる。


「相変わらず、この文字は読めないな。読めないけど分かる。不思議なもんだ」


「早く!」


「はいはい」


俺は左手で目的のページを開いたままの本を持ち、右手を銃の形にして木の高い位置に生っている果物に狙いを定める。本が輝き始め、俺は右手にあの感覚が集まるのを感じる。あの感覚。いや、これは経験しないとよく分からない感覚だろう。なんとなくチリチリするような、ふわふわするような、それでいて、気持ちいいような、気持ち悪いような、水の中にいるような。そんな感覚だ。


「行くぞ、水鉄砲(ウォーターショット)!」


俺の右手の人差し指から水の弾が勢い良く飛び出す。水の弾は実と木を繋ぐ部分に命中した。おお、俺の腕もなかなかじゃないか。だが、落ちてくる実を見た優姫はヒラリと身をかわした。


「うわぁ!」優姫の悲鳴。


ズドォォン!


落ちてきた実は、俺たちの想像をはるかに上回り、スイカと勝負しても絶対に負けないだろうと確信させられるほどの大きさだった。それに固い!これだけの高さから落ちてきたにもかかわらず全く割れていない。


「優姫、お前取るって言ったよな?」


「めちゃくちゃ、でかいんだもん!女子にこんなもの取らせる気?」


「どこに女子がいるんだ?」


「ムキー!」


 いがみ合いが始まる前に涼香が間に入る。涼香も慣れたものだな。


「まぁまぁ、これでお昼ご飯はなんとかなりそうですね?」


「よし、優姫、切り分けてくれ」


「がってん!」


優姫は腰にさした刀を抜いて、スパスパと大きな実を切り分ける。元剣道部らしく、刀の扱いはうまい。


刀自体は落ちていた。いや、本当はあの日、新たに生まれた木に刺さっていたやつを優姫が勝手に持ってきただけだ。その日以来、優姫は大事そうに手入れしているものの、素人の適当手入れだから、いつ折れるかわからない。俺は早く魔法を習得してほしいんだが。


何気なく俺は実の内部を見た。中身は真っ青な色合いで種もたくさん入っている、食欲を全くそそらない果肉だった。なんてまずそうな。


「うわぁ!おいしそう!さあ、食べよう!」


お前の目、バグってんじゃないか!?だが、優姫も涼香もリュックを置いてキャンプの準備を始める。俺が少数派なのか!?結局俺も何も言えず、石と枝を集め、簡単な囲炉裏のような場所を作ると、火打石で火をつけその横に座る。優姫が俺と涼香に木の実のかけらを渡してくれ、俺たちはその実を頬張り始める。俺はこのまずそうな実の意外な美味しさに驚いた。


「種が多すぎるスイカっぽいが・・・。甘味はメロン寄りか?」


「ええ、かなり水分を多く含んでますね。喉の渇きも潤います」


「うまい!これ、色はともかく、すっごく美味しいね!」


ああ、絶世の舌馬鹿である優姫もさすがにこの色合いのやばさはわかっているらしい。なんか安心した。俺たちはしばらく無言で実を食べては口から種を飛ばす作業に没頭した。だいたい、実の3分の1くらいで俺は腹いっぱいになった。


「ふぅ。にしても魔法の扱いにもだいぶ慣れてきたな」


「そうですね。私も使い慣れてきました」


「ボクはまだ全然」


 口の周りが真っ青な優姫は手でそこをごしごしぬぐう。ガキか。


「そりゃ、優姫が魔法を使う前に刀で解決するからだろ」


「えー。だっていちいち本を取り出すのめんどくさいし」


「まぁ、優姫はほっておいて、魔法について今わかってることを整理しよう」


「いいですね」


「いいもーん、ボクは魔法なんてなくたって問題ないもん」


ないがしろにされた優姫は唇を尖らせて、刀の手入れを始めてしまった。涼香は本を取り出すと表紙をなでる。


「現状わかってるのは、この本が魔法を発動させるために必要ってことですね」


「ああ、そうだな。そして、俺の本は青、涼香の本は白。これは使える魔法のイメージ色って感じかな」


「そうですね、仁さんは水魔法系で青、私は治癒系ですかね?白い魔道書です」


俺はもっともらしくウンウンと頷くと優姫の方を向いた。


「優姫、お前のは何色だ?」


「ボク?ボクのは赤だよ〜」


「それで使えるのは、なんの魔法だっけ?」


「ん?どういう魔法なのか?ボクにはよくわからないなぁ」


「ふむ、じゃあ使ってみてくれ」


「やだよー」


「なぜに」


「仁に見せるのなんてもったいないもん」


「なんでだよ・・・」


俺、何か嫌われることでもしただろうか?そこですっと涼香を見る。涼香は心得たとばかりに俺を援護する。


「でも、赤からイメージするのは、火や炎、マグマといったものでしょうか」


「火かー。違うなー」


「違いますか。優姫さん、私もみてみたいです。やってみてくださいな」


優姫は腰に手を当てていかにも悩んでいるアピールをする。


「しょうがないな、涼香ちゃんには特別だぞ〜!おい、仁。ありがたく思え」


ビシッと俺を指さしてくる。


「ははー」


俺は心のこもらない礼を優姫に送る。だが、優姫はそれで満足したようだ。ふふん。さっさと魔法を使いやがれ。優姫はいそいそとスカートのポケットから赤い魔道書を取り出すと最初のページを開く。魔道書に少しばかり光が灯った段階で優姫は唱えた。


力強化(パワーアップ)


すうっと優姫の腕がほのかに赤い光に包まれた。


「これで、何が起きるんだ?」


俺がそう聞くと優姫はとびきりの笑顔を浮かべて、さっき食べた実がなっている木の幹へ歩き出した。幹の下についた優姫は相撲取りのように両手を木の幹につくと、右手をすっと引いた。


ズドォン!


太く重量感のある木の幹が優姫の一撃に大きく揺れた。次の瞬間、俺や涼香の頭上には、なっていた実がいくつか落ちてきた。幸い涼香の真上には降ってこなかったらしい。俺は、ダメだった。


「ぐはぁ!」


「仁ー!いいリアクションだねー!」


優姫の叫び声が聞こえる。覚えてやがれ・・・この野郎。俺の視界は暗転した。

読んでいただきありがとうございます!


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