4−1 準備はいいか、お前ら?
「準備はいいか、お前ら?」
アクセルが暗闇の中、声をかける。
「おう!」
俺はそう答えた。闘技場の選手入り口暗い中で俺たちは競技の開始を待つ。扉が開くまで闘技場のステージがどのような地形で、どのような天候で、どのような時刻になっているかは確認できない。作戦はいくつか考えてあるものの、どんな作戦で戦うかはこの入り口が開いてからでないと判断できない。
「今回の相手は元傭兵の超攻撃特化のドワーフチームだ。相手の作戦はシンプルそのもの。火の魔法を使って押して押して押しまくってくる」
俺は頷いた。昨日の練習試合を偵察してもうわかっている。ドワーフが戦車のように突撃してくる。
「そのようだったな。シンプルな行動である分、どんなステージでもそれは変わらないだろうな。まぁ、火の魔法だから、森林とかだとややこしそうだな」
「基本的には先頭をボクが抑えればいいんだよね?」
「ああ、俺との相性はいいはずだから、攻撃のメインは俺だな」
すると、闘技場の中に声が響き渡る。
「ステージの準備が完了した、両チーム準備しろ!」
アクセルは腰をあげる。
「よし、お前ら。うまくやれよ?俺は傍観者だからな?」
俺はその言葉に笑顔を送ると、ここまでなんの発言もなかった涼香を見る。
「涼香、大丈夫か?」
「だっ。大丈夫です!」
どうだろうか。身体中に力入ってるな。見るからに緊張してるじゃないか。俺は涼香に声をかけようとして優姫に止められた。
「ねぇ、仁、なんでリュック背負ってきてるの?」
「いや、なんかあるかもしれないだろ?」
「ええー?邪魔じゃない?」
「まぁ、俺は近接戦闘じゃないから問題ないよ。もしもの時にも色々使えそうだしな」
「なるほど!じゃあ、そのリュックボクにもたせた方がいいんじゃない?」
「なんで?」
「仁が死んだら取りに行くの面倒だし」
「ふざけんな!勝手に俺を殺すな!」
「ふふっ、二人とも、始まりますよ!」
おっ、涼香笑った!俺と優姫は顔を見合わせて頷きあう。
「喰らえ涼香ちゃん!優姫スペシャル乳揉み!」
「きゃあああ!!!」
「何やってんだ、てめぇは!!」
優姫は涼香のビンタをくらい、俺のげんこつひらりとかわした。器用なやつめ。
「仁が岩場での復讐をしろってボクにいうからやったのに・・・!」
「いや、いつかやろうとは思ってたけど・・・。さっきの俺の頷きはそういう意味じゃねぇよ!」
涼香の緊張はほぐれたようだが、今度は怒ってしまい口を聞いてくれなくなってしまった。ったく余計なことを・・・。
またもや闘技場に声が響く。
「それでは、試合を始める!両チーム、ステージの真ん中へ!」
その掛け声とともに扉がゆっくりと開く。今回のステージは・・・?昼間の晴れた森林か!
俺たちはステージの真ん中に歩きながら状況を確認する。森というには木の本数は少ない。一応、木の隙間を縫って反対側から出てきている相手がチラチラ見えるくらいだ。
どうやら、平地のステージのほぼ全てが木で覆われている。中央から少し外れた位置にある少し大きめなプールくらいのサイズの湖が唯一、森林以外のオブジェクトだ。
歩いているうちにステージの中央に到着した。対する相手は軍服のような服に統一されたドワーフ達だった。やはり顔には大量の毛が生えており、顔の違いを見つけることはできない。
「リーダー挨拶!」
俺たちのチームからはアクセルが。相手のチームからは服の肩に最も多くの星がついているドワーフが前に出てきた。アクセルと相手ドワーフが挨拶する。
「俺はヴォルフラム。俺たち次の試合があるんで、あんまり抵抗しないでもらえるかな?ユウキとやら?」
「お前達に次の試合はねぇよ。そして、俺はアクセルだ」
アクセルがそう答えるとヴォルフラムは握手していた手を払う。
「なんだと?ならお前はリーダーではないだろうが。ユウキってやつはどいつだ!?」
「ボクだよ!」
「なら貴様がここへ来い!リーダー同士の挨拶だと言ってるだろ!」
なにぃ!優姫がリーダー?いつのまにそんな登録してたんだ!?ニコはそんなこと言ってなかった・・・。いや待て、もしかして優姫の名前の横の塗りつぶし。あれがリーダーのマークだったのか!?
だとしたら非常にまずい。この競技は最初旗の位置を相手に知られないよう隠す。だが、リーダーを討ち取られると相手に位置を知られてしまう。優姫は近接戦闘型だ。こんな状況でリーダーが正面切って戦うってアホじゃないか!?
そんな俺の葛藤を無視して、優姫は優雅に握手する。
「よろしくね!」
「けっ。人間風情が。すぐに楽にしてやるよ!」
ヴォルフラムは優姫に触っていた手をまるで雑菌がいる火のようにパンパンと払った。おーおー。怖い怖い。
「では両チーム、旗を立てろ!」
俺は早速発生したハプニングにどう対処しようか、考えながら旗を立てる位置を決める。森の中にあったちょっと小高い山。その上に旗を立てた。相手が火で攻めてくるため俺の水の魔法をうまく使うには相手より高い位置の方がいいと判断したことと、何より、この山は湖に近かった。森に火を放たれても、湖の近くなら消火できる。
「仁さん、どうしましょう。リーダー優姫さんでしたけど・・・」
「今からやれることはほとんど無いだろ。作戦は変えない。だが、涼香は優姫が戦闘不能にならないよう注意してくれ」
「わかりました!」
「じゃあ、お前ら頑張れ!俺は旗の下で一眠りさせてもらうぞ」
アクセルはそう言って本当に旗の下で寝始めてしまった。俺たちが負けたら死ぬかもしれないのに大胆なドワーフだな。
「よし、相手が俺たちのことを人間だと思って油断している隙に先制攻撃するぞ。優姫、涼香付いてこい!」
「あいあいさー」
「わかりました!」
俺たちはこそこそとドワーフチームの偵察に赴いた。ドワーフの旗は簡単に見つかった。なぜなら最初に顔を合わせた位置から全く動いていなかったからだ。俺たちは近くの茂みからドワーフどもの様子を伺う。これは、なめられすぎじゃ無いか・・・?あいつらの会話が聞こえてくるな。
「ったく、この試合は消化試合もいいところだ。おまえら余計な体力使わず温存しろよ?次の試合はホビットどもだ。小さいが実力があり。そして残酷なチームだ」
「人間のチームなんて俺たちの敵じゃ無いっすよ。俺一人で十分っす」
「そうだな。ゲルトだけで十分だろう。人間が攻めてきたら蹴散らしてやれ」
なんか、なめられすぎて笑えてきたな。そんなに体力温存したいならさっさと終わらせてやるよ!
「優姫、あのゲルトとかいうのから吹っ飛ばせ」
「がってん!」
優姫は茂みから立ち上がると魔道書を取り出して呪文を唱える。
「速度強化!」
優姫は地面を蹴る。ドンっという音とともに優姫の姿がブレる。
「突撃殴打!!」
優姫が持つ一撃必殺。だが、ゲルトという男も口だけではなかった。優姫の姿が見えた時点で魔道書を構えていた。
「物理盾!」
優姫とゲルトの間に半透明の膜ができる。振りかぶった優姫の拳はその膜に抑えられて防がれてしまった。だが、ゲルトの魔法は優姫のパンチの勢いまで殺すことができなかった。
「くっ!なんだこいつ!パワーが尋常じゃねぇ!」
ゲルトはギリギリで足を踏ん張って耐え抜いた。なかなかやるな。完全に吹き飛ぶとおもっていた。だが、耐えたとは言え元いたところから十メートルくらいは押し流されていた。その証拠に足元には二本の線が描かれていた。
そこにヴォルフラムの声が響く。
「慌てるな!グリシャ!俺に合わせろ!」
「りょーかい」
「「火川!」」
敵二人が火の魔法を同時詠唱。二つの川は一つになり巨大な炎の川となって俺たちに襲いかかる。俺はベルトから魔導書を取り出して本を握ったまま呪文を唱える。
「やべっ!洪水!」
俺の魔法と相手の魔法がぶつかって爆発する。俺の出している水が一瞬で水蒸気に変わり、周囲が白くなる。っていうか蒸し暑い!!肉まんはきっとこんな気分だ。
「やってくれんじゃねぇか!魔法盾!物理盾!!」
さっきのゲルトか!?戻ってきやがったか!
「ヴォルフラム、グリシャ!そのまま魔法出しとけ!あれやるぞ!」
「ゲルト、行け!」
白くて何も見えない!だが、予想はついてる!自分自身に火をまとい、そのまま突進する荒技のはず!
「優姫!くるぞ!」
「がってん!涼香ちゃん頼むよ〜?」
「まかせてください!」
すると、白い煙を振り払って大きな炎の玉が突っ込んできた。
「おらおら!雑魚ども!俺様の炎で焼け死ね!」
「力強化!ここからは通行止めだよ!」
火達磨のゲルトを優姫は素手で抑える。
「治療!」
涼香は焼けただれる優姫の手を同時並行で治療する。なんとか相手の得意技は止められたが、このままでは優姫の限界がきてしまう。俺は魔道書の最後のページを開いた。
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